第45話 クリスマスデート(仮)
この話を書いていると、甘々過ぎて吐きそうになった。書くのも辛い。
クリスマスになった。どこを見ても恋人達が仲睦まじく、それぞれの時間を過ごしている。
そして私、桐生雪菜は、
「桐生、俺は女性と付き合ったことがない。きちんと彼氏らしく出来るか不安なんだが」
水瀬君と、デートをしていた。
何故デートをしているのか。その説明は、まず私の家について説明しなくてはいけない。
私の家は、ちょっとしたお金持ちだ。だからつまり、私は所謂、お嬢様というやつだったりする。まあ、そんなに大した家じゃないんだけどね。
それで先日、お父さんに、『クリスマスに、お父さんの友人が主催のパーティーに出席してくれ』と、言われてしまった。
私は行きたくなかった。人見知りの私としては、見知らぬ男の人に沢山話しかけられるパーティなんて、地獄のようなイベントだった。
そこで私は、『クリスマスは彼氏と過ごすから、パーティーなんて行かない!』と、言ってしまった。
するとお父さんが、『いつの間に彼氏なんて作ったんだ!そいつを連れてこい!俺が見定めてやる!』と、言い出した。
私は困った。私に彼氏なんていない。水瀬君とは仲が良い・・・と思うけど、別に付き合ってはいない。
取り敢えず連れてくるのは嫌だと言ったけど、そうしたらお父さんが、『だったらクリスマスに、そいつがどんな奴なのか見てやる!』と、言い出した。なんでも、離れた所でこっそり監視するらしい。
パーティーは良いのか、と言ったら、『パーティーなんて知るか!娘の安否の方が100倍大事だ!』と言い出した。それで良いのかな・・・
とにかく、クリスマスに私は、居もしない彼氏と過ごさなければならなくなってしまった。
困った私は水瀬君を頼った。私と恋人のフリをして欲しい、と。
水瀬君は悩み抜いた結果、『・・・まあ、良いか』と、了承してくれた。
それで今に至り、私は水瀬君とデートをすることになった。
前にも水瀬君とは出かけたことがあるけど、それは飽くまで買い物で、デートと言えるか微妙だった。
今回は正真正銘のデートだ。恋人の様に振るまわなくてはならない。
だけど私も水瀬君も、異性とのお付き合いなんてしたことがなかったので、今非常に困っている。今もお父さんがどこかで見ているんだろうし。
ちなみにお父さんが見ていることは、水瀬君に教えている。お父さんは教えるなと言っていたけど、水瀬君に隠し事はしたくないから仕方ない。
「桐生、とにかくどこか店に入ろう。恋人限定の商品とか色々あるし、それを買えば良いだろ」
「う、うん」
水瀬君が率先して歩いて行く。
「なあ、桐生」
「どうしたの?」
水瀬君は、私から目を逸らしながら言った。
「思うんだが、手くらい繋がなきゃ駄目だよな・・・」
「えっ?」
手を繋ぐって、そんな恋人みたいなこと・・・。いや、今は恋人同士なんだった。
「確かに、そうだね・・・」
「だよな・・・。じゃあ桐生、ほら」
水瀬君が手を差し出す。恥ずかしいけど、私は水瀬君の手を握った。
「・・・・」
「・・・・」
共に無言になる。
「・・・桐生、あそことかどうだ?」
水瀬君が指差す方を見ると、いかにも恋人御用達!と言わんばかりの喫茶店があった。
「あそこに入るの・・・?」
「・・・恋人っぽいだろ?」
その通りだけど、恥ずかしいよ・・・
「桐生、恋人のフリをしてくれと頼んだのはお前だろ?なら我慢しろ。俺も我慢するんだから」
「うん、分かった・・・」
喫茶店の中に入り、ウェイトレスさんに案内されて席に着く。
「さて、メニューは・・・」
水瀬君がメニューを開き、眺めていると・・・ある所で、視線が止まった。
「桐生これ、お前が頼め・・・」
「え、なに?」
水瀬君が示しているところを見るとーーーってなにこれ!?
「こんなの恥ずかしくて頼めないよ・・・」
「俺だって恥ずかしい。桐生、頑張れ。これなら確実に恋人っぽいぞ」
ええ・・・でも恥ずかしいよ・・・
「・・・水瀬君が頼んでくれないかな?」
「無理。絶対無理」
水瀬君は断固拒否の態度。
「水瀬君、お願い・・・」
「無理なものは無理だ」
そこで、会話に入ってくる人がいた。
「彼氏さん彼氏さん。恥ずかしがっていては駄目ですよ?ここは男の甲斐性の見せ時です!」
ウェイトレスさんだった。
「いや、そんなこと言われても・・・」
「水瀬君、ダメ?」
水瀬君は俯き、ジッとそのメニューを睨んだ後・・・顔を赤くしながら注文した。
「この『恋人限定!サンタのスペシャルラブラブジュース!』を一つ・・・」
「はい、かしこまりました」
ウェイトレスさん凄く楽しそうにしながら、注文を受けた。
「死にたい・・・」
水瀬君が死にそうな顔をしている。
「水瀬君。かっこよかったよ?」
「・・・どこが?」
数分待つと、ウェイトレスさんが商品を持ってきた。
「お待たせしました!『恋人限定!サンタのスペシャルラブラブジュース!』です!」
それは、何故か液体がピンク色で、2本のストローがハートを描き、一つの容器に刺さったジュースだった。
「・・・やっぱ頼むのやめた方が良かった気がする」
「水瀬君これ、一緒に飲むんだよね・・・?」
どうしよう。恥ずかしい。凄く恥ずかしい。
「まあ、限りなく恋人の様に見えるだろうからな・・・。桐生、飲むぞ」
「う、うん」
口をつけ、飲む。目の前には、水瀬君の顔があった。
「ーーー!!」
水瀬君の顔が近い。水瀬君は結構背が高いから、いつもは離れているけど・・・。
水瀬君、綺麗な目だな・・・。あれ?水瀬君も私の目を見てる。
こんな至近距離で見つめあってる!?
「み、水瀬君!?」
「あ?どうした桐生」
水瀬君は気にしていない様だ。
「いや、その、なんでもない・・・」
「そうか、なら早く飲め。なんだか甘過ぎて飲むのが辛いんだ」
水瀬君は、ジュースを飲み続ける。うう、一回意識しちゃうと恥ずかしいよ・・・
恥ずかしがっていても仕方ないので、出来る限り水瀬君と見つめ合わない様にしてジュースを飲む。
ものすごく甘かったけど、頑張って飲み切った。
「桐生、早く出るぞ。ここに居るのは辛い」
「あ、うん」
顔を赤くした水瀬君が会計を素早く済ませ、店を出て行く。水瀬君も私のこと、意識してたのかな・・・?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジュースを飲んでお腹・・・というより胸がいっぱいになったので、ウィンドウショッピングをすることにした。
「この服、可愛いなぁ・・・」
ファッション店に入り見て回っていると、可愛い服を見つけた。
「試着してみたらどうだ?」
水瀬君がそう提案した。
「でも、それだと時間がかかっちゃうし・・・」
「別にいくら時間をかけても構わない。俺は今お前の恋人だ。恋人の為なら幾らでも待ってやる」
「水瀬君・・・」
凄くかっこいいことを言われた。照れちゃうな・・・
「じゃあ、ちょっと待っててね!」
服を持って試着室に入る。
「水瀬君。どう、かな・・・?」
着替え終わり、水瀬君の前に出る。
「ふーん・・・」
水瀬君はジッと私を見つめている。
「水瀬君?」
「・・・ああ、可愛いな」
水瀬君は、ただ一言そう言った。淡白な台詞だったけど、凄く嬉しかった。
「そうかな・・・?じゃあ、そのうち買いに来ようかな・・・」
「俺が買ってやっても良いが?」
「それは流石に悪いよ!」
値札を見たら2万円と書いてあった。流石にこんなに高い物を、買ってもらうわけにはいかない。
「そうか?別に俺は構わないんだが」
2万円を買っても良いって・・・。水瀬君、実はお金持ちなのかな?
「そうだ桐生。ちょっとこれを着てみてくれ」
そう言って水瀬君が差し出したのは、
「ワンピース・・・?」
なんでこんな時期にワンピースを?
「嫌なら別に着なくても良いが」
「嫌じゃないよ?着てみるね」
水瀬君からワンピースを渡してもらって、再度試着する。
「どうかな?」
ワンピースを着て、水瀬君に見てもらう。
「・・・なるほど」
水瀬君は一人で頷いている。
「桐生、元の服に着替えてくれ」
「えっ、感想は?」
「それはどうでも良い。早く着替えてくれ」
どうでも良いって、そんなことないよ・・・
水瀬君の態度に首を傾げながら、元の服に着替え、店を出る。
その後も色々な店を回り、水瀬君と楽しく過ごした。
「桐生、少し休まないか?」
水瀬君が広場にあるベンチを指差す。
「うん、良いよ」
2人でベンチに座る。
「桐生、俺達は恋人らしかったか?」
「うーん・・・よく分からないかな」
恋人らしくって言っても、どんなのが恋人らしいのか分からないからなぁ。
「そうか?俺は結構恋人らしかったと思うけどな」
「そうかな?」
水瀬君がそう言うんだし、そうなのかな?
「桐生。これ、プレゼントだ」
水瀬君が可愛らしく包装された小さな箱を渡してきた。
「本当!?嬉しいなぁ・・・。開けて良い?」
「ああ」
許可を貰い、包装を解く。
「ハンカチ・・・?」
「ああ、安上がりで悪いんだが・・・それは俺に取っても大切な物なんだ。使わなくても良いが、出来れば持っておいて欲しい」
「ううん、嬉しいよ!使わせてもらうね!」
水瀬君からの初のプレゼントだ。大切にしよう。
「・・・なあ桐生」
「うん?どうしたの?」
水瀬君が、改まって私と向かい合った。
「俺は、お前に言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「なに?なんでも言って」
水瀬君は顔を伏せた後、私の目を見つめた。
「桐生、俺がお前にーーー」
「ちょっと待ったあああああああ!!」
いきなり、叫びながら私と水瀬君の間に入ってくる人がいた。
「貴様ァ!雪菜に何をするつもりだ!」
「お、お父さん!?」
私のお父さんだった。なんでここに・・・。いや、今まで見ていたんだろうけど、なんで今になって出てきたの?
「桐生のお父さんですか。初めまして、俺は水瀬明と」
「テメェのことはどうでも良い!貴様、今雪菜に何をしようとした!」
「別に何もしようとしていませんが」
「嘘つけ!絶対今キスしようとしていただろう!」
キ、キス!?そんなこと、しようとしてないよ!?
「していませんが」
「嘘をつくな!」
お父さんが大声で叫んでいるせいで、周りに人が集まってきた。
「貴様の様な男に、ウチの娘は絶対、意地でもやらん!」
「・・・おい桐生、なんとかしてくれ」
水瀬君が困った風に私に話しかけた。
「お父さん。別にキスなんてしようとしてないよ?」
「雪菜はそうだったかもしれないが、この男はしようとしていた。あんなに顔を近づけて!お父さんは認めませんよ!」
「・・・・・・」
うん、決めた。
「お父さん。これ以上私達の邪魔をするなら、もう口きかない」
「雪菜!俺はお前のことを思って!」
「お父さん、はっきり言うけど、ウザいよ?もう絶対口きかないから」
「なん、だと・・・?」
お父さんが打ちひしがれる。
「水瀬君、行こ」
「・・・良いのか?」
「良いよ。あんなのお父さんじゃないし」
「お父さんじゃ、ない・・・?」
お父さんがまたショックを受けているけど、無視して歩く。このくらい懲らしめた方が良いだろう。
「水瀬君、さっきはなんて言おうとしたの?」
「・・・悪い、また後にしてくれ」
水瀬君は私から目を逸らした。お父さんの所為で言ってもらえなかった・・・。取り敢えず2週間くらいは、出来る限り口をきかない様にしよう。
「桐生、そろそろ帰るか。家に送る」
「いいよ、私、お父さんを拾って帰るから」
流石にあのまま放置は駄目だろう。警察とか来られたら困るし。ああ、もう口をきくことになるなんて・・・
「そうか。じゃあ、俺は帰る。またな」
「うん、またね」
水瀬君は歩いて帰って行った。私もお父さんの所へ行こう。
・・・このハンカチ、大切にしよう。
一応、このハンカチのことを覚えておいてください。別に忘れてもいいですけど。
過去編は後、4話くらいでしょうか。




