第二十五話:マリちゃんの菓子レシピ
突然だが『魔物』とは、暴走したり放たれた悪意ある魔力が結集して形を為し、自然発生する魔力の塊である。
これは精霊とは全く異なるのだが、魔力が尽きると無に帰すという点では同じであり、規則性があるのか、同じような形状の物が似たような性質を持って形成されるため、生命体という分類に入っている。
そして、木の形を為す『トリー』という魔物もそうだった。
魔王様に執務室へ呼ばれると、そこにはマリちゃんがおり、以前、私のタルトタタンを喰った、木の魔物の話になる。
「えっ?! 木に改良したんですか?!」
「……うむ。魔物のままでは、再度、何か不都合を起こすのではと懸念し、植物に同じ木の実がなるよう改良した」
「……結構、可愛いのに……勿体ないことするよね」
「……いや、可愛いのは、マリちゃんのだけにして」
「マリちゃんって言わないでってば!」
マリちゃん呼びは駄目だが、タメ口はいいんだろうか。
頬を染めながら膨らませ、腕を組んで外方を向くマリちゃん。頬が赤い、ということは満更でもないのだろう。
そのツンデレ振りにときめき、私は思わずマリちゃんの頭を撫でる。その手を払おうと一瞬腕を動かすが、撫でられているのが気持ちいいのか、マリちゃんは腕を戻し、大人しく撫でられていた。何だか、姿が幼くなったことで、内面も幼くなっている気がする。
……ヤバいッッ!! 何だ、この可愛い生き物はッッッ!!
思わず私はマリちゃんを夢中で可愛がっていると、魔王様が眉を顰めて咳払いをする。
私は話し中だったことを思い出し、姿勢を正して魔王様に視線を向けた。
魔王様は、マリちゃんが開発した、林檎の実が生る木の魔物を更に改良し、植物へ移植することに成功したらしい。
マリちゃんは魔物が好きなのか、それを不服として此方へ不満げに視線を向けているが、畑に魔物を植えると全て食べられてしまいそうなので、私としては魔王様にスタンディングオベーションしたい。正にブラボーだ。
「それを畑に植えておいた。全体地図も作らせて貼っておいたが、シホも持っておくと良い」
「そ、それじゃあ、あの木の実が使えるんですか?! 有り難うございますっ!!」
私は渡された地図を賞状のように受け取り、深く頭を下げる。
これで、林檎の菓子が作れる! 迷わずに欲しい材料を取りに行ける! 私は何を作るべきだろうか?!
「それで、だが……」
「菓子のレシピ、教えてよね! 精霊界でも食べたいからさ!」
「いいけど、マリちゃん。どんな菓子がイイのかな、マリちゃん」
「……ふぅうう……っ! もうイイよ、それで! だから、レシピ、教えてよね! ……お祝いのビスケット、美味しかったし。プレジアとちゃんと半分ずつにしたんだから! 本当はもっと食べたかったけどさ……。あ、有り難うね……」
口籠もる魔王様の言葉に重ね、マリちゃんが率直に要望を出しつつ、お祝いに送ったミルクチョコビスケットとホワイトチョコビスケットについて、小さく感謝の言葉を呟く。
躊躇いがちに言うマリちゃんの素振りが可愛く、私は思わずマリちゃんを抱き締めたくなるが、私の前に伸ばされた魔王様の腕により、阻止されてしまった。
菓子のレシピは、特に機密事項などでは全くないので教えるのは構わないが、あのビスケットを作るとすれば、チョクラというカカオニブ状態のような物の精製方法も教えるべきだろう。
他は、どんな系統がいいかを教えてもらわねば、有り過ぎるレシピから私が選別するのは、面倒……元い、腕弛い……元い、好みがあると思うので、その系統を幾つか書けばいい。
淀み無く承諾する私に、魔王様は私へ呆気に取られた視線を向けた。
「……シホのレシピをそう易々と渡して良いのか? 秘伝などの類いもあるのではないか?」
「特にないです。アレンジレシピも、別に秘密にしておきたいわけじゃないんで」
「ね? だから言ったじゃないさ!」
「けど、レシピを教えても、私と同じ味になるとは限らないからね? 自分の好みな味になるよう、マリちゃんが研究してね」
「えっ?! な、何で?! どういうことさ?!」
「温度や湿度でも味が変わるし、元世界の菓子職人さん達はその都度、材料を変えたり量を調整したりと色々工夫してるみたいなんだよ」
「そ、そこまでするのか! いや、だからこその奥深さであるのだろうが……!」
菓子……というよりは料理全般にいえることだが、同じレシピでも味は個人差で変わる。環境や材料もそうだが、作業の仕方……混ぜ方などでも味は一変する。だから同じような材料で違う菓子が、ごまんとあるのだ。
私が解説する話を聞き、二人は愕然としながら聞き入っている。……元世界の菓子職人さん達の話ですぞ? 私も、毎日のことなので多少はしてますが。
「じゃあ、やっぱり作ってもらうしかないじゃないさ!」
拗ねた様子で語り出すマリちゃん。
そこへ、何やら魔王様が意味ありげな視線を私に送る。私はその視線の意味に気付き、目で頷いた。
「けど、自分だけの、自分の好みにアレンジ出来るのは、やっぱり、自作ならでは、なんだよ」
「……え? 自分好みの味に……アレンジ……?」
「簡単なのに、自分好みの味が、食べたい時に味わえるって、嬉しいよね!」
甘い実が生る魔物を作るくらいだから、創作自体は好きだろうと予測し、話を進めてみる。
マリちゃんは瞳を輝かせて私の話を食い入るように聞いている。
結局、試しにと簡単なレシピを幾つか書いた紙を持ち、浮かれた足取りで去っていった。
私としては、今の二人が食べに来てくれるのは、吝かではないのだが、精霊王達は食べる量が半端ない。
魔王様に視線で、菓子の時間に参入しないように、と指示されたのだ。
マリちゃんを、あまりにも上手く言いくるめた私に、魔王様が疑惑の眼差しで注視している。
「……あまりシホの話を鵜呑みにすると、私が馬鹿を見そうだな」
「魔王様には、私が何か画策すると、直ぐバレるじゃないですか! それに、今回は魔王様の指示じゃないですかっ!」
「……確かにそうだな」
「ですよね?!」
私は魔王様の指示に従っただけで、あくまで魔王様のためだ。
だが、あまりにも上手くやり過ぎてしまい、危うく好感度が下がりそうになってしまう。
私は好感度が下がらないよう、必死で魔王様に取り繕う。
何とかその場を凌いだ私は、畑を見に行こうと執務室を後にした。
地図を広げ、早速植わっているであろう林檎の木を見に畑へと赴く。
結果。
林檎の時期には早かった。上げて落とす、とは正にこのことだ。
頭がすっかり林檎レシピになっているため、代わりになる果物を探しながら、今が食べ頃そうな果物に、時期を書き加えていく。
元世界の果物と味が似ている物は、大体、時期も似た時期に生る。
「というと、桃は前に使ったし、他はメロン、スイカ、李、無花果、梨、葡萄辺りが生ってても、奇怪しくないと思うんだけど……」
そういえば、品種改良して生る時期をずらして作られたものもあった気がする。
私としては、いっそ全ての果物がいつでも食べられる旬であると嬉しいが、それはそれで、何を作ろうかと、今より悩むようになりそうだ。
とはいえ、今でも色々な果物が実を付けているのだが、何だかどれも、あと一歩という感じで、ピンとこない。
「まあ、チェックしていくのには丁度良いかな」
私は地図を見ながら、畑になっている果物の状態を確かめ、旬のものを捥いでは味を確かめ、メモに書き出していった。
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次話は12月03日(火)更新予定です。
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