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第二十二話:地球は戦闘種族のわらび餅

「……ということなんだよ、ファムル」

「え?! じゃ、じゃあ、シホちゃんの世界では『一緒に戦おう』って意味なの?!」

「まあ、魔王様とは、どっちが相手の好感度をより上げられるか競ってるし『共に競い合っていこうぜ!』って感じかな?」

「ふわあー! シホちゃんの世界って、やっぱり戦闘種族だったんだね!」


 何故『やっぱり』と付くのかは大いなる疑問ではあるが、取り敢えずファムルは信じてくれたようだ。

 ファムルが尊敬の眼差しを向けてくることに多少罪悪感を感じなくもないが、元のままよりはいいだろう。それを魔王様とコンセルさんにも説明してもらいたい。


「あ! ところで話が変わっちゃうんだけど、私、正式にシホちゃんの侍女になれそうなんだ!」

「え?! ファムルが私の?! 侍女って……控えの間で呼ばれるまで待つ、あの、侍女?」

「うん!」


 ファムルは嬉しそうに両手を合わせて告げる。

 ずっと一緒にいられるのは私としても嬉しいことだが、私は菓子職人という使用人だ。

 侍女が付くような身分ではないはずだが、この世界では菓子職人という使用人に菓子職人補佐ではなく、個人的な専属使用人を就ける習慣があるのだろうか。


「やっぱりそこは、魔王様との仲を考慮して、じゃないのかな?」

「けど、菓子職人という使用人だし、異世界人だから多少の不敬も免除になってる節があるだけな気がするけど……」

「でもメイドから侍女ってすっごい出世だし、何よりずっと一緒にいられるんだよ……?」

「うん! なら、いっか! 有り難う! おめでとう! これからもよろしく!」

「うん! アリガトー! こっちこそヨロシクね!」


 ファムルと私はお互いの両手を絡み合わせ、喜びを分かち合う。

 友達のままでいられるのなら、いや、そういう態度のままでなければ拒否するが、一緒にいられるのは素直に嬉しい。


 ……もしや、これは魔王様の仕業か?! だとしたら、とんでもない好感度上げ技だ!!


 お互いに相手の好感度を三年後までにどちらが上げられるか競っているのだが、どうにも勝てる気がしない。

 私にある好感度上げ技である、菓子という必殺技ですら、あっという間に越える技を繰り出してくるとは、魔王様はやはり手強い相手である。


「それで、えーと、魔王様とコンセルさんに、文の意味を伝えてくれるかな? 勘違いされてると思うと、自分で言いづらくて……」

「そ、それは、そうだね! 分かった! お伝えしてくるね!」


 ファムルは意を決して立ち上がり、部屋をお辞儀して出て行った。

 ……お辞儀も禁止にしよう。何だか距離を取られているようで寂しいぞ。……あれ? ファムルは侍女に『なれそう』だとは言っていたが、何時いつからだろう?


 早速お願いをしてしまい申し訳ないが、事は急を要する。もうすぐ朝食の時間なのだ。

 どうあっても魔王様と魔王様の側に立つコンセルさんと、顔を合わせることになる。

 私はファムルに祈りを捧げ、念の為に書き置きをし、食堂へ向かった。


 普段と変わらない、穏やかな食事の時間に安堵の吐息を漏らす。

 魔王様はファムルにあったことを匂わせる話題を出し、内容には触れずに歓談した。


「すっかり仲が良いようだな。侍女にしようという話は聞いたか?」

「はい。何だか使用人の使用人って立場が可哀想な気がするんですが、立場は同等で一緒に、って無理なんですか?」

「私は、菓子職人という職人を使用人ではなく私が頼み、此処へ居住してもらっている、という立場で考えているのだが」

「そこまでいくと、恐れ多いような気もするんですが」

「……何故だ?」


 魔王様は『恐れ多い』という言葉に眉を顰め、じっと私の目を見つめる。恐らく言外に『恋人に対して恐れ多いと思うのか』尋ねている気がする。

 私は周囲に立っている、私と気軽に話をしてくれる人達を見回し、魔王様へと視線を向ける。

 周囲と馴れ合っている関係の私が魔王様と同等となると、どう対応していいのか困るのではないだろうか。

 私の視線の意味を察した魔王様は軽く息を吐き、ナイフを動かした。


「……成る程、な。だが、いずれは……相応の立場として……振る舞ってもらいたいが……」

「それは……そうなれるよう、頑張り、ます……」


 相応、というのは、つまり……恋人同士として、ということ、だろうか……?

 照れながらも本音を漏らし、顔を朱に染める魔王様を愛おしく感じ、私まで顔に熱を帯びながら、小声で答える。

 魔王様は美麗な笑みを私に見せ、その日を楽しみにしていると呟いた。

 何だか周囲の皆さんが、温かい目で見守っているように、微笑んでいる気がする。

 私は言葉が出せず、思わず俯いてしまった。


「うむ。ではファムルの件もシホに任せるとしよう」


 魔王様の言葉に、私は顔を上げて魔王様へ視線を向け、破顔する。

 真っ赤な顔で食事を続ける魔王様に感謝を述べ、私も顔が赤いことを気にせず、食事を続けることにした。



「ファムルっっ!! 本っ当ーに有り難うおおおー!!」

「間に合って良かったー! それに、侍女兼友って、最高の職になっちゃった! シホちゃんこそ、アリガトー!」


 朝食を終えて食堂を出る。その廊下でファムルを発見した私は、ファムルへ飛び込み、抱き付いた。ファムルも私を抱き止め、二人で喜びを分かち合う。

 魔王様は、何処か羨ましそうに私達を見つめ、咳払いをして声を掛けてきた。


「ファムルの新たな部屋に、転移部屋をもうけた。シホの転移部屋へ直行するが、構わんか?」

「ほ、本当ですか? 有り難うございます! 精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」

「おお! 有り難うございます! それならむしろ、隣の部屋をファムルの部屋にしてしまうとか!」

「……流石にそれは、他の者に示しがつかん」


 私の名案は、呆気なく却下されてしまった。

 私なら、異世界人で菓子職人というよく分からない存在のため、融通が利いたのだろうか。

 ファムルは頬を染め、魔王様に感謝の言葉を述べている。

 その姿を見るに、どうもファムルは魔王様を、異性として想いを寄せている気がするのだが、どうなのだろう。

 勘はあまりよくないが、私にも女の勘という、根拠が全くないかは不明だが、妙に鋭い指摘をする、魔術のような力に開眼しても奇怪しくないのではないか。


 ……だが、もし開眼しており、勘が合っていたら私はどうすればいいのか……?


 ファムルはメイド長に新しい部屋へ案内してもらうため、私へそっと手を振り、移動していく。

 私もファムルへ手を振り返し、部屋に戻ってキッチンへと向かった。


 やはり纏まった時間と専用のキッチンがあると、作業する時間が長く効率的に使え、実に素晴らしい。

 午前中は魔王様への備蓄菓子焼成や、減った生地と素材を補充するために使え、今日の菓子の下準備も出来る。


「おっと。リアレスカさんの菓子も、だった」


 私は黒糖と水を煮て黒蜜を作り、冷ます間に片栗粉と水に砂糖を混ぜ、やや弱めの火で掻き混ぜながら煮、透明になったら火を止めてよく練り、氷水にスプーン二個で丸くり抜いた物を入れていき、冷やせば、片栗粉で作ったわらび餅の出来上がりだ。

 大豆もどきを乾煎りし、色が付いたらザッと砕き、擂り鉢で擂ってふるいに掛け、それを再び擂って篩って、と繰り返せば、きな粉が出来る。

 シガルは少し結晶が荒いので、砕いて混ぜておく。

 お気に召したというラムネも追加しておき、片栗粉で作ったわらび餅と黒蜜やきな粉を保冷器に入れ、リアレスカさんの菓子配達係に手渡した。


「念の為、作っておくか」


 トウモロコシの皮と硬い部分を取り除き、残った部分を乾燥させて粉砕する。

 粉にしてから水に浸けて放置し、比重で澱粉質とその他の成分が分かれたところを、澱粉質だけ取り出す。

 それを乾燥して粉末状にし、コーンスターチらしきものを作ってみた。


 コーンスターチは菓子の材料にも色々と使われるが、粉状に擂り潰したシガル……粉砂糖と混ぜると『泣かない粉糖』という、時間と共に生地の水分や温度などで溶けてしまいやすい粉糖が溶けにくくなるという、細工用粉糖が出来上がる。


 ……もっと簡単で正確に、澱粉だけを分別出来れば楽なんだが……。いや、それより、元世界の知識の方が有用だ。……まだ何も得てはいないが。暇潰しには丁度良い。

 ……とはいえ、最近、接続しにくいのは気のせいだろうか……?


「私が作ったんだ、故障箇所があるかもしれないよな……」


 最近、ネット検索のために『私』へ接続しようとするが、上手く繋がらないことが多い。

 流石に人間一体作るのは、私には荷が勝ちすぎていたのだろう。後でよく調べねば。

 だが今は、こっちの作業に集中せねば、それこそ失敗の元だ。


 私は気を取り直し、米のとぎ汁に黒糖と塩を溶かし、発酵液を加えて培養する。

 ヨーグルトは、牛乳とヨーグルトがあれば増やせるので、主に発酵クリームと発酵バターに使っている。

 特に発酵バターを使って菓子を作ると濃厚な旨味が出、魔王様もお気に入りの焼き菓子が出来るのだ。

 魔王様好みの備蓄用焼き菓子を模索しつつ、私は保存用の生地を作成した。

読んでくださり有り難うございます。

感想や評価など、頂けますと嬉しいです。

誤字脱字などのご報告もお待ちしております。


次話は11月22日(金)更新予定です。

よろしくお願いします。

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