第十話:人種別魔力の新たなる部屋
「……という理由から、ギューの派生である動物をギュー科とし、素材に使われるものは、同名で示すのが一般的です」
「ブェエエやベエーとかだと、味も大分変わるんですが、不思議ですね」
「販売目的になると、多少の違いでも名称が変更される可能性が高いですが、先ず、販売するほどの余裕がありませんので」
「……絞るのに精根尽きて、加工品まで、販売しようと思えないんですね」
「はい。ギューは、何しろあの巨体で暴れ回りますので、歴戦の戦士達ですら、十人以上揃わないと……ですので」
ブェエエは山羊で、ベエーは羊のことだ。
言葉を濁した部分は、殺される、という意味だろうか。先生の憂い顔が、どれほど大変な作業であるかを想定させた。
「まあ、拘束魔術を使えば多少は楽に絞れますし、徐々に、ギューの乳を加工した品が販売されている場所も出てきているようですよ」
「おお!」
色々と気性の荒い生物が多いこの世界、素材販売が流通すれば、今度はそれを使った料理を販売する総菜屋のような店が、この世界でも出来るかもしれない。
露店があるのだ、店を構えるのも可能だろう。むしろ、店の宣伝のために露店を出すのだと思っていたが、異世界では違うらしい。
問題は品数だが、それも売られる素材が増えていけば、徐々に解消するだろうとのことだった。
「……音は聞こえませんね? 作業、してるんでしょうか?」
「まあ、壁から遠いですし、壁が厚くて防音になってるかもしれないですね」
先生がキョロキョロと部屋を見回すが、比較的中央に近くベランダ寄りな勉強場所には、壁から何の音も聞こえてこない。
この世界では建築にも魔術を使うのかどうか分からないが、魔術でやってる可能性が高く、普通の建築作業だと思ってはいけない。それにこの世界の建築も音がデカいのが普通であったとしても、その辺の魔術師と魔王様を比べては可哀想だ。
取り敢えず、時間内は授業に専念しよう。
「そういえば妖精族は、纏めるには無理がありそうな特徴の人達が、かなり無理矢理集まっているようですが」
「見た目などの特徴はそうですね。ですが、それも妖精族ならでは、なんですよ」
最初に習った時、エルフ系とドワーフ系の両極端な人種が合わさり、リアレスカさんがどっち寄りかで混乱したが。細かくすると、他にもゴブリンやオーガといった、元世界のゲームに、モンスターとして出てくるような種族も亜種として存在しており、オークやケットシーのような獣部分がある人種は獣人族に属している者もおり、その性質は知っているものと異なり、名称も違う。
だが魔力の質で考えると、妖精族に分類されているものは全て『妖精』という人種の持つ魔力の質であり、獣人族に分類された人種は『獣人』の魔力の質を持つのだそうだ。
……やっぱり、妖精も人間の人種だとか、慣れる気がしないよな。
魔王様は全てを知っていなければならない立場なのでご存知だろうが、まだ一般的には知られていない特徴を有した人もいるらしい。
魔王様が魔族の中で稀有な種族であることも、実はまだ認知されていない。……正確には忘れられていった種族であり、同じような少数派もかなりいるそうだ。
「やっぱり、世界ってのは、どこも稚児しいですね」
「そうですね。やはり人間のこの魔力の性質の違いなどは、魔道具を使用しないと先ず分かりませんし、魔物や動物のように大まかで済ませられれば、魔王様も楽が出来ると思うんですが……」
と、ここで扉を叩く音が聞こえる。
壁時計に目を向けると、丁度、授業が終わる時間だ。
「魔王様も、早く見せたくて堪らないんですね! 愛されてますねー!」
「……だといいですが」
先生が興奮して燥ぐ姿に私は冷静な感想を呟くが、どうやら耳に届かなかったようだ。
教科書類を片し、授業を終了して扉を開ける。
そこには、ドヤ顔の魔王様とコンセルさんが、扉が開かれるのを今か今かと待っていた。
「ドアは、階段から出来るだけ、離れぬようしてみた。……どうだ?」
現在の部屋の扉から、今より階段へ近い位置。
ちょっと無機質な感じが格好いい、真鍮を銀仕上げしたような、やや金掛かった鈍い銀色をしたドアハンドルが付いている、光沢を抑えた黒い金属に暗めの赤ラインが入った、クールな雰囲気漂う扉が目に飛び込んでくる。
ドアの上部には金掛かった鈍い銀色で、シホの部屋と刻まれていた。
異世界の文字は蚯蚓ののたくったような線が繋がっている、元世界でいう英語の筆記体に似た書き方をする文字なので、それも相俟ってドアのアクセントとなり、更に格好良く見える。
……これは、期待出来るかも?!
希望としては、スタイリッシュモダンな部屋で、サイズ感がバグってなかったり、高すぎる天井を活かして、メゾネットかロフトなんかがあれば最高だが、そこまで期待しては悪い。
私は祈るような気持ちで扉を開けた。
「うわあ!」
途切れのない、艶がある天然石風の床は、淡いマーブリング模様の入ったグレーで、白い壁には、所々に黒の細長い石積み風タイルの箇所があった。
家具や建材などは、マットなモノトーンに赤をアクセント色とした、スチール風なものや硝子、天然石で作られた、スタイリッシュモダンなメインルームに心が奪われ、視線が釘付けになる。
そこにベッドはないが、誰か来た時に遊びやすいよう、家具が配置されていた。所謂応接間だろう。
突き当たりはサンルームとなっており、第二の応接間や、先生との授業にいいかもしれない。空調もバッチリ入っている。
メインルームには、ロフトと、引き戸と開き戸が格好良くレイアウトして配置されており、その戸は全て足下にスイッチがあり、それを押すと自動開閉する機能まで付いていた。
その中へ入っていくと、余裕はあるが広すぎない寝室や勉強部屋、衣装部屋は着替えも出来るように鏡張りの部分がある。
壁にブロック状の収納が一見無秩序に配置されている洗面所からは、脱衣所付のプールとしか思えない広い浴室や、自動機能満載のトイレへ行かれるようになっていた。
ロフトの割には、しっかりと広めに作られた階段を上ったところにある扉の中は、キッチンが店のもののように綺麗に配置されており、設備も完璧な状態で、貯蔵室や温度管理室まであり、奥へ進むと、サンルームへ出られる階段もあった。
ロフトで渡った逆側は、何故か、武防具用収納部屋とサウナルームに、小さな水風呂用付のシャワールームまである。
多少形状が異なるが、若干ダンベルっぽい物や、バーベルらしきものがあることで分かるトレーニングルームには、どうやって使うのか分からない、様々な器具が所狭しと置かれている。
その部屋にある扉を開けると階段があり、どうやら洗面所にある収納が階段を兼ねていたようで、プール……元い、浴室へ直行出来るように繋がっていた。
……これは、ロフトに見せかけたメゾネットだ! 完全に部屋の中が、二階建てになっている!!
然も、彼方此方が不思議に繋がっており、それが面白く、物凄-く好みの家……元い、部屋だ!!
使わない場所もあるが! 何であるのか分からない部屋もあるが! サイズもスタイリッシュモダンな雰囲気も、完璧すぎて感動しかない!!
私が嬉々として先生と部屋を見て回るのを、魔王様とコンセルさんが、微笑みながら私達を眺めているのが目端に移る。
「有り難うございます!! 物凄く好みの部屋で、感激しました!!」
「うむ。では最後に、隣と繋げる扉を付けるとするか」
「……はい?」
「今までの部屋は、今までの部屋で使って、気分で部屋を代えればいいだろうって、さ?」
「はあああいいい?!」
「よ、良かったですね、シホさん。今までの住み慣れた部屋で過ごしたくなることもありますよ、きっと」
いや、ない。そこはきっぱりと切り替えられる。
そう思う私の気持ちを余所に、隣の部屋とスタイリッシュモダンな部屋が扉で繋がれていく。
結局私はキッチンだけでなく、キッチン付の部屋まで新たに所有することになった。
……いや! 新しい部屋が好みすぎるんで、そっちばっか使うからいいが!!
……だがしかし……、汚すのは嫌、だな……。
私まで色々な感覚がバグってきてしまっているのを自覚する。
だから魔王城の人達は恐ろしい……。……ファムルは大丈夫か……? ファムルを新しい部屋へ誘って、お茶をしながら相談するか。
私は部屋を徘徊し、己の感覚が奇怪しくならないよう細心の注意を払うべく、心に深く刻み込んだ。
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次話は10月11日(金)更新予定です。
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