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最終話-1:最後のマカロン

 マリンジさんは召喚師を消滅させ、毛むくじゃらの男を連れて行ってしまった。

 プレジアがいうには、恐らく精霊王の城という精霊界の中心にある場所にいると思われるが、精霊王の城は、精霊王が拒否したものの侵入を決して許さない。

 当然拒否されているであろう我々にはどうすることも出来ず、魔王城へ戻って作戦会議を行うこととなった。


「私と麻衣子は此処に残り、召喚師がいなくなったことで起こるであろう事態に対応しよう。なに、私に逆らおうなどという愚か者は最早いるまい」

「助かるよ、レイコさん。次代の召喚師は早めに片がつくよう、働きかけておくから」


 玲子は一体、どれだけ召喚師の元で猛威を振るっていたのだろうか。

 しかし今はそれが有り難い。

 コンセルさんは玲子に頭を下げてこの場を頼み、私達は城へと戻っていった。




 魔王城に戻り、魔王様の様子を窺う。

 魔王様は微動だにせず、透明に近い白の肌と髪を広がらせたその身を、ベッドの上に横たえている。

 プレジアは魔王様の元に歩み寄り手首を握ると、眉間に皺を寄せながら眉尻を下げた。


「……むう。……やはり生命力が落ちておる……。……もって二十四時間……といった所かの……」

「それじゃ……それまでにマリンジ様を呼び出し、魔王様の魔法を解かせないと……!!」

「……だから、どうやってマリンジ様とやらを呼び出すか、でしょ?」

「そうだ! レイコさんに精霊王の城の魔法解除を頼めば……!!」

「……いや、それは無理なのじゃよ」


 コンセルさんが名案を思い付き、満面の笑みを浮かべて手を打ち、周囲を見回す。

 しかしプレジアは目を伏せたまま首を横に動かし、コンセルさんの提案を拒絶する。

 リアレスカさんもコンセルさんの案に笑みを浮かべた為、プレジアを怪訝そうに見つめていた。


「……何故?」

「精霊界は魔力に満ちておる。余程の魔力の持ち主でなければ外の魔力が体内に侵入することを防げず、内側から精神を破壊され、己を失う羽目になるのじゃよ……。レイコさんはどうやら魔力が皆無のようじゃし、流石に空気中全ての魔力に睨みを利かせることは不可能じゃろう……。精霊界へ入った途端、魔力に蝕まれて仕舞うであろう……」

「それじゃ……どうすれば……」


 全員が言葉に詰まり、黙り込む。

 暫しの沈黙を破り、私は気になっていた事柄を呟いた。


「……マリンジさんは、いつから魔物を人間の代わりにしようとしてたんですかね?」

「……そういえば、シホちゃんにあげる魔物の木が、五年経たずに出来そうなことをいってたな」

「……その頃には……魔族の生命錬金術師をさらってた……?」

「……かもしれんの。……元々魔物を加工することはマリンジ自身でも会得していた故、そこからの発想やもしれん……」

「……根幹は、シホに対する嫉妬って感じだけど」


 リアレスカさんの発言に、コンセルさんは苦笑いを浮かべて頬を掻く。


「……俺も結構な勢いで嫌われてたけど、シホちゃんに対する態度は度を越してるよな。異世界人ってそんなに嫌なものかな」

「……というよりは……シホが『女』じゃから、じゃろうな」


 コンセルさんが目をみはって唾を飲み込む。

 外見的には中性的だが、着ている服が学ラン風だったせいか、どうもマリンジさんを少年と思いがちだった。

 しかし精霊に性別はない。が、その元となる性質には、男女のような区別がなくもないようだ。

 つまり、本人が認めるかはさておき、マリンジさんは『異性』として魔王様に惚れており、その側にいる私に嫉妬をしたのだろう、という結論に至った。


 魔王様の全てになりたい。

 魔王様の全てが欲しい。


 自分が一番側にいる『女』だったのに、新参者が馴れ馴れしく近付いてきた。

 更に、精霊へ喧嘩を売る能力を持っているなんて、嫌な奴だ。

 壊してしまおうにも、何故か魔王様が庇い立てする。然も、自分よりも……。

 元々、あまり人間に対して友好的な感情を持っていないマリンジさんは、魔王様やコンセルさん達と、他の人間を区別して考える癖があった。

 そんな中、私という人間が現れ、全ての人間さえも嫌悪するようになっていったのだろう。

 その淀みは徐々に、魔王様やコンセルさん達をも蝕んでいく。


 ……全てが叶わないなら、全て壊してしまえ!!


 実際の、魔王様の胸中は『私』というより『私の作る菓子』に対する執着だと思うのだが、そこまで考えが至らないのは、嫉妬に狂ったマリンジさんの愚行なのだろう。

 しかし、嫉妬で人間を見限ろうとか、なかなか極端な考えに及ぶ人だな……いや、人ではないが。


「……ヤンデレ、か」

「……ヤ……? シホちゃん、何それ??」

「ヤンデレ。惚れた相手が自分だけを見つめてる時は、甲斐甲斐しくて愛らしいけど、別の人に目が向くと、途端に狂乱し凶行に出る、特殊な恋愛感情を抱いた人のこと……らしいよ」


 正直、私もあまり詳しい方ではないが、元いた世界の高校時代、一時期ヤンデレブームが男子の間で流行り、私達はその恐ろしさに震撼した。

 何が楽しくて発狂する女を好むのか、全く理解出来ない。

 それほどまでに強く愛されたいと思うのは分からなくもないが、それならそれで別の手法に出てほしいものだ。

 私の言葉にコンセルさんやプレジア、リアレスカさんも納得顔で頷いている。

 と、不意にコンセルさんが身を震わせ、顔を歪ませながら懐から連絡珠を取り出した。


「……か、各大陸の町や村に……突然、大量の魔物が現れて……人間を襲ってるって……!!」

「……えっっ?!」

「あ……彼奴……! 正気かっっ?!」


 コンセルさんがやっとの思いで発した内容に、みんなの顔色が青白く変化し、お互いの顔を見合わせる。

 こんな事が出来るのは、生命錬金術士を攫っているマリンジさん以外には、考えられない。

 皆の頭にもマリンジさんの顔が浮かんでいるのか、表情に嫌悪感が表れている。


「し、しかし……! 如何な生命錬金術師といえど、短期間ではさほど魔物を製造出来ぬはず……!! 恐らくマリンジが魔力を貸し、動物から魔物にしておるんじゃ……! 雑魚レベルの魔物じゃ、大した被害はない……はずじゃよ……!」

「……けど、確か、毛むくじゃらの召喚されし者は奪った魔力を特定の魔法に変換出来るのよね? ……マリンジとやらから貰った魔力で生命錬金術士と同じ魔術が行使出来ないとも限らないんじゃ……?」

「確かに……いや、それよりも! 町や村の平民は、野菜程度としか戦闘経験がない! 雑魚レベルでも……っ!!」


 周囲が静まり返り、各々が思案に沈む。

 魔王様が元気ならマリンジさんを説得してどうにか出来るだろうが、魔王様の命はマリンジさんに握られており、助ける為には私が死ななければならないらしい。


 ……しかし、私が死んだかどうか、どうやって分かるんだ……?


 私が俯いて考え込んでいると、コンセルさんがそっと私の肩を叩き、親指を突き上げて笑顔を振り撒いた。


「大丈夫! 各大陸の魔王と地人族王達と連絡を取って、至急手筈を整えるから、シホちゃんは何も心配しなくていいよ」

「うぬ!! 大人しく策を練るのは儂には向いておらん!! シホ!! マリンジを懲らしめに行こうぞ!!」

「……馬鹿。だからどうやって精霊王の城に入るっていうの?」

「儂とシホがタッグを組めば!! 出来ぬことなど何一つないのじゃ!!」

「うん、それじゃいっちょ、死んでみよーか」


 混乱状態で騒ぎ始める皆に、私は満面の笑みを浮かべ、語り掛けた。


「……は……?」


 全員、目玉が飛び出さんばかりの形相で、私を凝視している。

 私は床に向かって軽く息を吐き、改めて皆の顔を見つめ返す。


「……最後に……やっぱり菓子を作っときたいな。ちょっと作ってサクっと死ぬわ。最後の武器を色々検討したいから、プレジアとリアレスカさん、ちょっと手伝ってくれるかな?」

「……な、何を言っ……」


 みんなが私の行動を阻止しようと手を伸ばすが、私はそれを避け、厨房へと向かった。



 常温に戻した卵白に砂糖を加えしっかりと泡立て、そこに篩っておいた粉砂糖とアーモンドプードルを加え、サックリと混ぜる。

 一度凍らせ解凍した、サラサラの卵白を使うと成功率が上がるのだが、今回は割愛だ。

 ヘラの平らな部分でボウルの底から押し付けるように手を動かし、気泡を潰していく。

 滑らかな光沢が出、ヘラから落とすと流れるように落ちていく状態になれば、マカロナージュの完成だ。

 平らな円形に絞り、暫く乾燥させてから焼いていくと、側面にピエという綺麗なヒビ割れが入ってくる。

 そうなったら温度を下げ、蒸気を出しつつ更に焼き上げれば、マカロンの出来上がりだ。

 それに、火に掛けた生クリームに潰したチョコを混ぜ、滑らかになるまで混ぜ合わせて冷ました、ガナッシュクリームを挟む。

 バターにジャムと砂糖を混ぜた物を挟んでも美味しい。

 リアレスカさん用にレモンクリームを、コンセルさん用にコーヒークリームも用意する。

 と、そこに先生が駆け込んできた。


「シ、シホさん!! どうでしたか?! 魔王様は無事、元のお体に?!」

「うん、その為の最後の菓子作りなんですよ。先生も良かったらどうぞ」

「……は?」


 怒りなのか悲しみなのか、顔を歪め私を睨み付けるプレジアとリアレスカさんの様子に、先生は困惑しながら私の袖を掴む。


 ……先生も食べるなら紅茶クリームもいるよな。


 私は新たなクリームを作り、それらをトレイに載せて魔王様の寝室へと歩を動かした。


「……そうですか……マリンジ様がそのような……」


 先生が神妙な面持ちで紅茶味のマカロンを頬張る。

 プレジアとリアレスカさんも苦虫を噛み潰したような顔でマカロンを貪っている。

 私もマカロンを口に入れ、前歯を立てる。

 ホロリと崩れる軽い感触の表面と、苺ジャムとバターを混ぜたクリームのしっとりとした食感が混ざり合い、甘さが口の中でほどけていく。

 今まで作ったマカロンでも最高の品といってもいいだろう、その出来栄えに我ながら惚れ惚れとしていると、激しい音を立てて扉が開いた。


「各大陸のお偉方には連絡が取れました! 直ぐに各町村へ精鋭部隊を出していただけるようです!!」


 息荒く駆け戻ってきたコンセルさんが深い溜め息を吐きながら隣の椅子に座り、マカロンを口に運ぶ。


「ん!! カフィン味!! すげー!! 合うな、これ!!」

「マカロンが甘いから、クリームは甘さを抑えてみたよ。どうかな?」

「絶品!! 毎日これ食いたい!!」


 コンセルさんの言葉にプレジアとリアレスカさん、そして先生の動きが止まる。

 コンセルさんも周囲の様子から己の失言に気付き、口元を覆いながら視線を泳がせる。


「……な、なあ……シホちゃん、もっと他に方法が……」

「私、頭悪いしさ。これ以上の策が浮かばないんだ。ごめんね。一応、二人にレシピも渡したし、当座のクッキーも作っておいたから」

「……こんな汚い文字、読める訳ないでしょ。大体アンタが作らなきゃ、この味には……」

「シ、シホオオオッッッ!!! い、嫌じゃ!! こんなの嫌じゃあああ!!!」

「……シ、シホさん!!……本当に、他の手は……?!」


 コンセルさんと先生の言葉に、私は笑みを浮かべてゆっくりと顔を横に振る。

 そして私は、プレジアから借りた短剣で腹を掻っ捌き、大量の血を溢れさせ、絶命した。

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