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第四十話:暴走後の会話時間

 翌朝になっても、ファムルを筆頭に、メイドさん達の暴走はまだ続いていた。

 何故か、朝食前の菓子作業を一切禁じられ、朝食は魔王様と別の部屋でとることになったのだ。しかも今日のメニューは、魔王様と同じものに変更されたとのことだった。


 ……私は地球の日本出身で、魔王様の菓子職人なんですがッッ!!


 それに、朝食での他愛ない会話も、魔王様との大事な時間だというのに、何ということだろう。

 私の朝食が和食となったことで、元世界での生活や習慣などの会話に花を咲かせていたのが無くなるのは、結構寂しい。シロップおじさんとも、和食の調理法などに会話を弾ませていたが。


 まさかとは思うが、これを毎日されては困るので、その辺は魔王様と相談することにしよう。

 とはいえ一番の不安は、安易な私の一言で魔王様まで巻き込んでしまい、二人で話す気が削がれていないかが心配だが。


 ……それにしても、ファムルがあそこまで暴走すると思わなかったな……。


 どちらかというと真面目で消極的だと思っていた、親友ファムルの裏側を見た気がする。

 前の自室にある食事用の場所で朝食をとる私は、給仕してくれているパーラーメイドさんに、ファムルの様子をそれとなく尋ねてみた。


 パーラーメイドさんも、ファムルは普段から大人しく、元は人見知りの激しい引っ込み思案だったこと、私と仲良くなってから少しずつ人見知りしなくなり、明るくなったことを教えてくれた。

 だが、昨夜からの行動は、明らかに異常だと苦笑する。


「……やっぱり、本当は嫌、なんですかね……?」

「いえ。嫌では無く、シホ様から頼られたことに喜びを感じ、張り切りすぎてしまったのでしょう。休憩中はいつも、シホ様の話ばかりですし」

「ええ?! わ、私の話を?!」

「はい。それはそれは嬉しそうに、シホ様の素晴らしさを皆に語っておりますよ」


 ……ファムル、そんなに私を……?!


 私は鼓動が高鳴り、正にトゥンクが止まらない状態となっている。

 だがらといって、ここまで暴走されるのは困る。

 張り切らなくてもいつもファムルを頼りにしているのだが、伝わっていなかったのだろうか。

 仲が良くなると勝手に伝わっていると思いがちで、言葉が足らなかったのかもしれない。反省せねば。


 食事を終え、食器類を片したパーラーメイドさんが、お辞儀をして去っていく。

 お茶を飲み、一息吐くと、ドアを叩く音が聞こえてきた。魔王様が来てくれたのだろうか。

 私は慌てて席を立ち、扉を開けた。


「シホ、朝食が終わったばかりであったか? ……大丈夫か?」


 そこには、七分袖を捲ったシャツの胸元から、小さな飾りのついたペンダントを覗かせている魔王様が、腕時計にチェーンブレスを絡ませた手の親指をアンクルパンツのポケットに引っ掛け、逆の腕を扉枠横の壁に体重を掛け、まるでファッション誌の表紙のような雰囲気を醸しながら現れた。


 服の着熟しもだが、小物の配置もさり気なく決めており、髪もいつもよりしっかり纏められて前髪が横に分けられたショートヘアにも見える。

 ポーズまで一々決まっている魔王様に、私は興奮のあまり意識が飛びそうになるのを感じた。


 ……スイマセン。いきなりですが、気を失ってもいいですか? いや、天に召されそうです。


 水着の時も思ったのだが、何時いつから何処どこ発信で何故なぜに、元世界のメンズファッションがこの世界にあるのだろうか。私を萌え殺すためだろうか。

 私が魔王様の前で固まっていると、魔王様は私を見、顔を朱に染めて片手で口元を掩い、視線を逸らした。


 ……その角度も格好いいんですけど!! 伏し目がちのその睫毛の長さが半端無いですよ!! スマホで撮りまくりたいのに!! けど拡大して部屋に貼ったらマジヤバい!! ガチで召されるぞ!!


「……し、シホ……。……中に入っても構わんか……?」

「あ! す、すいませんでした! どうぞ!!」


 私は魔王様をソファへ招き、いつの間にか用意されていたティーセットのチョクラドリンクを魔王様の前に、誰かが作ってくれたのか甘くないバターの風味豊かなラスク状の菓子を中央に置き、私は紅茶を持って向かいのソファに座った。

 張り詰めた空気の中、飲み物を飲む音と秒針の音が部屋に響き渡り、言葉が出てこない。

 菓子に手を出そうものなら、恐らくその音の大きさに、口から心臓が物理的に出ても奇怪しくない状況である。

 そんな静寂を打ち破り、魔王様が意を決したように囁いた。


「……シホ、……その……似合っている、な……。普段の格好や髪型もいいが……美しい正装も似合っていたが……愛らしい雰囲気も似合うのだな……」


 そういえば、髪もエクステを使って両横を編み込んでいたのだった。

 正装とは、ダブル精霊王の時に着たドレスだろうか。

 魔王様に褒められ、全身の熱が顔面に集中していくのを感じる。


「あ、有り難うございます。……ま、魔王様のそういう格好、凄く似合ってますね……。……格好良すぎて……鼻血、噴いて打っ倒れそうです……」


 私が真顔で真実を告げると、魔王様は大きく息を吹き出し、笑い声を上げた。


「愛らしい姿をしても、言うことは変わらんのだな。いや、シホらしくていいが」

「何か、ファムルに相談したら、初デートだからと色々着せ替えさせられて……。あ! 巻き込んでしまってすいませんでした! まさかメイドさん達が本気でやると思わなくて……」

「ああ。……確かに、シホの命だと突然現れた時は、何が起こったのか理解するまで時間が掛かったが。……シホが気に入ったのであれば、苦労した甲斐があったというものだ」

「元世界の服はそういう感じなので、よりリアルに妄想してしまって……。異世界こっちでも、そういう服があるんですね」

「うむ。第四大陸の地人族間で一昔前に突如流行し、それが各大陸へ広まり、未だ定着している地域もあるようだな。……もしや、召喚された者がいたのであろうか?」

「なるほど! 時々似た物があるのは、昔、召喚されてきた人が発案したんですね!」

「かもしれん。私にも把握し切れぬものが多くあるのであろう。その辺も調査すべきかもしれんな」


 今では無くなった召喚魔術だが、喚び出された異世界人は時代をも超え、様々だ。

 私と同じ時代の人や、少し昔の軍服をよく知る人が、色々なものを広めていても奇怪しくない。物凄く未来の人が広めたものもあるのかもしれない。

 そう考えると、この世界と元の世界がより身近に感じられるから不思議だ。

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