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楡井に、彼が見たのと同じような手紙が、家にたくさんあることを伝えた。
楡井は、驚きながらもそれを見たいと言ってくれた。
よって、勉強は切り上げ、楡井を我が家につれて行くことにした。
すると楡井は急に恥ずかしがり、腹も減ったなんて言いだすので、口に「元気の源」だよと、飴を放り込んだ。
足早に駅へと向かう。
一刻も早く、あの手紙を楡井に見てもらいたかったのだ。
「交通費も、わたしが払うからね」
「そんなことは別にいいんだけど」
焦ったように楡井が言う。
「でも、ちょっとこれは、止めてほしい」
がしりと楡井の腕を掴むわたしに、楡井の視線が泳ぐ。
「……もしかして、わたし、ずっとこうだった?」
「いや、ずっとじゃない。駅の近くにきたら、突然、こう、がしっと」
楡井を、逃がすもんかといった思いが、つい行動となって出てしまったようだ。
ぱっと、離れる。
「誰かに、見られちゃったかな」
「どうかなぁ」
楡井がぐるんと駅の周りを見回す。
中途半端な時間帯だったので、生徒の姿もあまりなく……。
「宗田先生がいた」
「うぞっ」
「そ」が濁音になるほど驚きながら楡井の視線を追うと、確かに宗田がいた。
しかも、宗田はわたしたちの方へと歩いてくるではないか。
なんでよ?
生徒なんか放っておいて、ささっさと改札に入りなさいよ~
心の中が大荒れのわたしのそばに、宗田が立つ。
「朝倉に楡井。今日も一緒に勉強をしていたのか」
「そう、デス」
デスにちょっと色気が入ってしまい、自分でも恥ずかしい。
宗田は頷くと、リュックの中から「元気の源だ」と言って、わたしと楡井に飴をくれた。
パイナップル味の飴。
楡井の動きが、一瞬止まる。
そしてその頭が、ゆーっくりとわたしに向くのがわかる。
もう、わたしの顔は赤いどころの騒ぎじゃない。
ロケット花火のように、どこかに飛んで行ってしまいそうだ。
「――宗田先生。飴っていつも持ってるんですか?」
うわぁ、楡井、なんてことを聞くんだよ、おまえさんは。
すると宗田は、あはは、と笑うと少し困った顔をした。
「高校時代、いつも飴を持っている……友だちがいて」
宗田のことが見られずに、俯く。
「明るくて、すごく気持ちのいい奴で、男女問わずにみんなから好かれていたんだ」
耳から火が出る。
「面倒見がよくて、お人よしで、その子がいつも鞄に飴を入れててね。みんな彼女としゃべりたいもんだから、それにかこつけて『飴くれ、飴くれ』って、たかってさ」
思わず顔を上げると、宗田と目が合った。
宗田の目が優しい。
「みんな彼女としゃべりたい」って。
もしかして、宗田も?
なんだか、もぞもぞしてしまう。
「その飴をくれる友達の決まり文句が、『元気の源だよ』って言葉だったんだ。単なる飴なんだけど、陸上の試合でいいタイムがでないときなんかもさ、彼女のその一言で、すごく助けられたっていうか」
え、そうなの? と宗田を見る。
わたしも、少しは宗田の役に立っていたの?
懐かしいな、と宗田がつぶやくように言う。
そうだね、宗田。懐かしいよ。
「宗田先生、友だちってなんて言ってるけど、実は先生の彼女だったとか?」
楡井がそんなことを聞く。
「……ガキには教えん」
宗田はそう言うと、ポケットから定期券を出した。
「あんまり寄り道するなよ」
そう言うと、宗田は一人改札を入っていった。




