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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子
6・香奈&楡井君→推理
31/50

 楡井(にれい)に、彼が見たのと同じような手紙が、家にたくさんあることを伝えた。

 楡井は、驚きながらもそれを見たいと言ってくれた。

 よって、勉強は切り上げ、楡井を我が家につれて行くことにした。


 すると楡井は急に恥ずかしがり、腹も減ったなんて言いだすので、口に「元気の源」だよと、飴を放り込んだ。


 足早に駅へと向かう。

 一刻も早く、あの手紙を楡井に見てもらいたかったのだ。


「交通費も、わたしが払うからね」

「そんなことは別にいいんだけど」

 焦ったように楡井が言う。

「でも、ちょっとこれは、止めてほしい」

 がしりと楡井の腕を掴むわたしに、楡井の視線が泳ぐ。


「……もしかして、わたし、ずっとこうだった?」

「いや、ずっとじゃない。駅の近くにきたら、突然、こう、がしっと」


 楡井を、逃がすもんかといった思いが、つい行動となって出てしまったようだ。

 ぱっと、離れる。


「誰かに、見られちゃったかな」

「どうかなぁ」


 楡井がぐるんと駅の周りを見回す。

 中途半端な時間帯だったので、生徒の姿もあまりなく……。


宗田(そうだ)先生がいた」

「うぞっ」


「そ」が濁音になるほど驚きながら楡井の視線を追うと、確かに宗田がいた。

 しかも、宗田はわたしたちの方へと歩いてくるではないか。

 なんでよ? 

 生徒なんか放っておいて、ささっさと改札に入りなさいよ~

 心の中が大荒れのわたしのそばに、宗田が立つ。

「朝倉に楡井。今日も一緒に勉強をしていたのか」

「そう、デス」

 デスにちょっと色気が入ってしまい、自分でも恥ずかしい。


 宗田は頷くと、リュックの中から「元気の源だ」と言って、わたしと楡井に飴をくれた。


 パイナップル味の飴。

 楡井の動きが、一瞬止まる。


 そしてその頭が、ゆーっくりとわたしに向くのがわかる。

 もう、わたしの顔は赤いどころの騒ぎじゃない。

 ロケット花火のように、どこかに飛んで行ってしまいそうだ。


「――宗田先生。飴っていつも持ってるんですか?」


 うわぁ、楡井、なんてことを聞くんだよ、おまえさんは。

 すると宗田は、あはは、と笑うと少し困った顔をした。


「高校時代、いつも飴を持っている……友だちがいて」

 宗田のことが見られずに、俯く。

「明るくて、すごく気持ちのいい奴で、男女問わずにみんなから好かれていたんだ」

 耳から火が出る。

「面倒見がよくて、お人よしで、その子がいつも鞄に飴を入れててね。みんな彼女としゃべりたいもんだから、それにかこつけて『飴くれ、飴くれ』って、たかってさ」

 思わず顔を上げると、宗田と目が合った。

 宗田の目が優しい。

「みんな彼女としゃべりたい」って。

 もしかして、宗田も?

 なんだか、もぞもぞしてしまう。


「その飴をくれる友達の決まり文句が、『元気の源だよ』って言葉だったんだ。単なる飴なんだけど、陸上の試合でいいタイムがでないときなんかもさ、彼女のその一言で、すごく助けられたっていうか」

 え、そうなの? と宗田を見る。

 わたしも、少しは宗田の役に立っていたの?


 懐かしいな、と宗田がつぶやくように言う。

 そうだね、宗田。懐かしいよ。


「宗田先生、友だちってなんて言ってるけど、実は先生の彼女だったとか?」

 楡井がそんなことを聞く。

「……ガキには教えん」

 宗田はそう言うと、ポケットから定期券を出した。

「あんまり寄り道するなよ」


 そう言うと、宗田は一人改札を入っていった。


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