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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子
5・香奈→告白
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30/50

 繰り返しになるけれど、朝倉あさくら 笙子しょうことは、中学1年生から同じ塾だった。通う中学校は、違ったけど。

 朝倉は真面目で、塾でも勉強ばかりで、あまり誰とでも話すってほうではなかったけど、俺とは志望校が同じって分かってからは、少しは話すようになって……。

 でも、同じ高校になっても、クラスも違うし。

 おまけに、高校に入ってからは、男には一切かかわらないような、そんな空気を醸し出してきてさ。

 だから、朝倉が塾の自習室で勉強する様子や、塾の同じクラスの女の子と話す様子は知っているけど、でも、まぁ、それだけっていえばそれだけ。

 塾の講師に、俺の兄がいた。

 朝倉は、同年代の男は避けていたけど、兄は講師だし、年も上だし、立場の違う奴なら男でも平気みたいで、結構普通に話していた。

 朝倉は、兄に相談もしていたみたいだ。芦田(あしだ)とのトラブルも、俺は兄から聞いた。芦田との事は、担任が入りとりあえずは解決したと、兄から聞いた。

 でも、あるとき、朝倉が塾の帰りに足を引きずっている姿を見たんだ。他の奴に聞いたら「塾の階段で滑ったらしい」と返って来た。

 まぁ、確かに朝倉は動作が大人しいから、そういったぼんやりとしたことがあったのかなぁと、気の毒に思いながらもスル―して。

 その少しあとから、朝倉は兄とさえ話さなくなった。

 あれっ? って思った。

 兄に聞くと「まぁ、思春期の女の子って気まぐれだしね」なんて、軽い言葉でしか返ってこなかった。兄は、そういう奴なのだ。塾では教え方がいいとか、わかりやすいとか、人望が厚いと評判で、あちこちの教室に出向いて教えているけど、生徒個人に関しては超ドライで、あまり深く人と付き合わない。

 でも、俺は朝倉の様子が、なんか気になった。

 だから、朝倉に思いきって聞いたんだ。

「なんか、あったか?」って。


「笙子に、聞いてくれたんだ、楡井(にれい)君」

 ちょっと嬉しい。

「そりゃ、なんか、気になるし」

 それだけじゃないでしょって突っ込みは、しないで黙る。

 頼もしいじゃない、楡井。

「でも、朝倉、何も話してくれなくて。そりゃ、いきなり、俺からそんなこと訊かれても答えようがないとは思うけど」

「まぁ、そうかもね」

「それから、俺、注意して朝倉を見るようになった。そしたら、朝倉が、ちょこちょこと怪我をしていることに気が付いて。指先を切ったりとか、擦り傷があったりとか。絶対におかしいと思って、朝倉のあとをつけたら、塾の廊下の隅で、朝倉が手紙を読んでいて」

 手紙!

「それいつ?」

「たしか、6月」

「どんなだった?」

「どんなのって。……手紙だよ」

「もう、だから、どんな手紙かって聞いてるの」


 すると楡井は、眉間にしわを寄せた。


「どんなのって、白い普通のやつだよ」

 楡井の言葉に、がくりとくる。

「でも、書いてあったことは覚えている」

「それが聞きたかったんだってば。続けて、続けて」

「朝倉が俺に気付いて、びっくりして、手紙を落としたんだ。便せんが、ふわっと、俺の足元に落ちてきてさ」

「それで、何が書いてあったの?」

「変なんだよ。真っ白い便せんに、日にちと時間しかなかったんだ、その手紙」


 体中の力が抜けた。

 それ。

 それが、欲しかったのよ。


 椅子の背にもたれかかり、天井を仰ぐ。


 あぁ、神様。

 ありがとう。

 もう少しだ。

 もう少しだから。




 笙子、もう少しだから。



 笙子を光の中に。

 わたしの手で。



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