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繰り返しになるけれど、朝倉 笙子とは、中学1年生から同じ塾だった。通う中学校は、違ったけど。
朝倉は真面目で、塾でも勉強ばかりで、あまり誰とでも話すってほうではなかったけど、俺とは志望校が同じって分かってからは、少しは話すようになって……。
でも、同じ高校になっても、クラスも違うし。
おまけに、高校に入ってからは、男には一切かかわらないような、そんな空気を醸し出してきてさ。
だから、朝倉が塾の自習室で勉強する様子や、塾の同じクラスの女の子と話す様子は知っているけど、でも、まぁ、それだけっていえばそれだけ。
塾の講師に、俺の兄がいた。
朝倉は、同年代の男は避けていたけど、兄は講師だし、年も上だし、立場の違う奴なら男でも平気みたいで、結構普通に話していた。
朝倉は、兄に相談もしていたみたいだ。芦田とのトラブルも、俺は兄から聞いた。芦田との事は、担任が入りとりあえずは解決したと、兄から聞いた。
でも、あるとき、朝倉が塾の帰りに足を引きずっている姿を見たんだ。他の奴に聞いたら「塾の階段で滑ったらしい」と返って来た。
まぁ、確かに朝倉は動作が大人しいから、そういったぼんやりとしたことがあったのかなぁと、気の毒に思いながらもスル―して。
その少しあとから、朝倉は兄とさえ話さなくなった。
あれっ? って思った。
兄に聞くと「まぁ、思春期の女の子って気まぐれだしね」なんて、軽い言葉でしか返ってこなかった。兄は、そういう奴なのだ。塾では教え方がいいとか、わかりやすいとか、人望が厚いと評判で、あちこちの教室に出向いて教えているけど、生徒個人に関しては超ドライで、あまり深く人と付き合わない。
でも、俺は朝倉の様子が、なんか気になった。
だから、朝倉に思いきって聞いたんだ。
「なんか、あったか?」って。
「笙子に、聞いてくれたんだ、楡井君」
ちょっと嬉しい。
「そりゃ、なんか、気になるし」
それだけじゃないでしょって突っ込みは、しないで黙る。
頼もしいじゃない、楡井。
「でも、朝倉、何も話してくれなくて。そりゃ、いきなり、俺からそんなこと訊かれても答えようがないとは思うけど」
「まぁ、そうかもね」
「それから、俺、注意して朝倉を見るようになった。そしたら、朝倉が、ちょこちょこと怪我をしていることに気が付いて。指先を切ったりとか、擦り傷があったりとか。絶対におかしいと思って、朝倉のあとをつけたら、塾の廊下の隅で、朝倉が手紙を読んでいて」
手紙!
「それいつ?」
「たしか、6月」
「どんなだった?」
「どんなのって。……手紙だよ」
「もう、だから、どんな手紙かって聞いてるの」
すると楡井は、眉間にしわを寄せた。
「どんなのって、白い普通のやつだよ」
楡井の言葉に、がくりとくる。
「でも、書いてあったことは覚えている」
「それが聞きたかったんだってば。続けて、続けて」
「朝倉が俺に気付いて、びっくりして、手紙を落としたんだ。便せんが、ふわっと、俺の足元に落ちてきてさ」
「それで、何が書いてあったの?」
「変なんだよ。真っ白い便せんに、日にちと時間しかなかったんだ、その手紙」
体中の力が抜けた。
それ。
それが、欲しかったのよ。
椅子の背にもたれかかり、天井を仰ぐ。
あぁ、神様。
ありがとう。
もう少しだ。
もう少しだから。
笙子、もう少しだから。
笙子を光の中に。
わたしの手で。




