4
「俺、朝倉とは、中学生の時から、塾の校舎が同じだった」
「そうなのね。でも、それだけ?」
楡井は、もっと何か言いたそうだけれど、それが言葉にならないといったような顔だった。
「塾の校舎が同じってだけの楡井君が、どうして物理のノートをコピーさせてくれたの?」
「……だから、それは、朝倉の友だちが、ノート集めをしているって聞いて」
そこまで言うと、楡井は首を振った。
「ごめん。そうだけど、違う。――知りたかったから。朝倉が、どうなったのか」
楡井が強いまなざしをわたしに向けてきた。
「ノートのやり取りの時、朝倉の友だちが、朝倉の病院での様子や退院してからのこと少し教えてくれて。気になることがあったから、話を聞けて、大丈夫なんだなぁと少し安心した」
「気になること?」
その発言が、わたしは気になる。
「事故についての詳しいことは新聞で知った。腹が立つというか悔しいというか、それはそれである。……でも、それとは別に。なんていうか、事故の後も、何か変なことが起きてないかとか心配していた」
「つまり、楡井君は、車同士の事故についても、何かあるかもって思ったの?」
「……そう。でも、わからない。朝倉は、こっちが何を聞いても話そうとしてくれなかったし」
「もしかして、笙子はトラブルに遭っていたの?」
わたしの言葉に、今度は楡井が大きく目を開いた。
「嘘だろ、知らないの? 朝倉は、家族に何も言ってなかった?」
「知らないから、聞いているんでしょ」
まじかよ、と楡井は言うと、視線が泳いだ。
「朝倉、怪我多かったじゃない」
「怪我?」
そういえば、母も言っていた。
笙子が、勉強のための寝不足で、転びがちだと。
寝不足で、足が滑ったって聞いていた。
「そーいうの、家では気にしないわけ?」
責めるような口調に、うっと詰まった。
わたしは、気が付かなかった。――というか、楡井の言うように、気にしていなかった。
そして母も、どうなんだろう。あの口調だと笙子の言葉をそのまま受け取っていたように思える。
――迂闊だった。
「学校で、誰かに、いじめられていたってこと?」
わたしが笙子として通い出してから、そんなことはないけど。
「学校じゃ、ない」
「学校じゃない?」
だったらどこよ、と思った瞬間、わたしの頭の回路がぱっと繋がった。
突然、塾をやめた笙子。
「塾ね。そこで何があったの?」
わたしは、楡井に詰め寄った。
楡井は、俺にもよくわからないんだと言いながらも話してくれた。




