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デジャヴ、とは、このことか。
和可奈について図書室に行く途中の渡り廊下に、またもや芦田が立っていた。
渡り廊下の上のアッシー。
今日は、楡井との勉強会はない。
なのに、なんでここにいるのか。
どうやって、笙子がここを通ると情報をキャッチしたのか。
恐るべし、アッシー。
アッシーはわたしに近づくと、一冊の小冊子を差しだしてきた。
差しだしたものの、わたしが手を伸ばさないものだがらアッシーは作戦を変え、それを和可奈へぐいっと押しつけた。
迫力負けしたのか、和可奈は、思わずといった感じでその冊子をキャッチした。
「えっ、なんで? わたし受け取っちゃった! なんか、キモチ悪い」
巻き込まれた和可奈は、わけもわからぬといった具合だ。
けれどアッシーは、どこ吹く風である。
「よくよく考えたら、朝倉さんは事故に遭って、忘れたのかもしれないって思ったんだ。だから、もう一度読んでもらうために届けに来たんだよ」
アッシーは、きりっとした表情でわたしを見た。
「朝倉さん、これを読んで、また僕にレターをくれるね?」
レター?
手紙?
なんでいきなりそこだけ英語? なんて突っ込んでいる場合じゃない。
「あなたが読んでほしいのって、この冊子だったの?」
「そうだよ。朝倉さん、思い出してくれた?」
「そういうわけじゃないくて……」
アッシーが、見るからにがっかりとした表情を浮かべる。
「わたしに冊子だけじゃなくて、他に、例えば手紙とか。……そういったものは、渡してない?」
「手紙をくれたのは朝倉さんだよ」
「わたし?」
「高校1年のとき、ぼくは初めての作品集を朝倉さんに渡したんだ。そうしたら、朝倉さんはぼくの感性にいたく感激して、返事の手紙をくれたんだよ」
つまり、笙子の部屋で見つけた手紙の主は、彼ではない。
それなら、もう、芦田には用はない。
「わたし、勉強がすごく忙しくて、芦田君の作品を読む暇がないの。だから、悪いけど返すわ」
「返品は受け付けないよ」
「だったら、捨てようかしら」
「捨てられたら、また届けるまでだ。いずれにしろ、紙は有限だ。失われていくもの。しかし、言葉は無限。それは生き続ける。そうだよね、朝倉さん」
アッシーはわたしの言い分に耳を傾けることなく、名言を言ったとばかり満足そうな足取りでわたしと和可奈の前から去っていった。
アッシーの言うことは、まぁ、そうだ。
紙は有限だけど、言葉は無限。
だけど、なぁんか、感じが悪い。
前も思ったけど、この感じの悪さが、アッシーの個性でもあるんだろうな。
――ってなことも、この子が自分よりも8歳下だから、そう思えるのだ。
もし同じ年だったら、わたしだって、アッシーをどう受け止めていいかわからないだろうし。
だから、和可奈が、きもち悪いと思う気持ちも、わかる。
要は、バランスの問題なんだろうな。
もう少し、なんというか、世間との距離とか接し方を学べば、彼は彼でなかなかに味のある人物として認められるんじゃないかな。
――なんて、しなくてもいい考察をしてしまった……。
「笙子、これどうする?」
「一応、見てみるわ」
和可奈から冊子を受けとる。
表紙には、森の絵をバックに熊や兎が踊っていた。
ちょっと、和んだ。




