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駅の改札で楡井と別れたわたしは、彼と反対側のホームへ向かう。
初めは、高校生をもう一度やるなんてとんでもない話だと思った。
勉強は面倒くさいし、テストは苦手だし、制服だって恥ずかしい。
その思いは変わらないけれど、日を重ねるごとに、笙子としての生活に馴染んできているのも感じていた。
そして、そう感じる自分が怖くもあった。
このまま――。
ダメだ、ダメ!
頭に浮かんだ考えを追いやるように、大きく深呼吸する。
そして、改めて、今日知り得た情報のあれこれを整理した。
最高の収穫は、なんといっても芦田のあの発言だ。
楡井の態度だって気になる。
彼は、話の肝心なところをぼやかすので、笙子との関係が今一つわからない。
うー。脳がキャパオーバーだ。
わたしは前髪を上げ、おでこを出した。
おでこを出して風にあてると、頭も冷えるのだ。
笙子の体でも、中の人物がわたしだと、癖はやっぱりわたしになるようだ。
「あ、朝――」
聞きなれた声に反応して、ついそっちを向いてしまった。
あぁ、宗田。
さっきとは違う熱が、わたしに宿る。
宗田は、わたし(笙子だ)を見て、驚いた顔をしていた。
なんだろう。
なにか、変なことをしちゃったかなと心配しつつ、髪から手を放し、ぺこりと挨拶をした。
うむむ。
宗田に、頭を下げる日が来るとは……。
「そうだったな。朝倉もこっち同じ方面だったな」
生徒らしく、笙子らしく、とりあえず頷く。
「電車、各停?」
またもや、頷く。
「俺は急行」
知っているよ、とは答えない。
「朝倉、勉強、頑張っているんだな」
宗田が、わたしの隣に立った。
笙子は背が高いので、香奈でいたときよりも、宗田を近く感じた。
宗田の顔の近さに、わたしの顔はますます熱くなる。
「図書室、俺もよく本を借りに行くから。今日も、楡井と勉強していただろ」
見られていたんだ。
どうか、間抜けな顔(って、笙子の顔なわけだけど)じゃ、なかったようにと願ってしまうわたしがいる。
「学校に戻っていきなり勉強で、大変だろうなって、先生たちも心配しているよ」
それは、感じているし、感謝してもいる。
「でも、朝倉が前向きなんで、そこがこっちとしても――」
よかった、とか、安心。とか、そんな言葉が続くものだと思い聞いていたわたしの耳には、宗田からのその続きの言葉はこなかった。
少しの沈黙の後、宗田がふっと笑う。
「ごめんな、偉そうなこと言って」
そう言うと、宗田は背負っていたリュックを前にずらし、そこに手を突っ込むと「元気の源」と言って、わたしの手の平に飴を一つのせてきた。
小さなビニールで包装された、一個の飴。
うわっと、涙が込みあげる。
宗田ってば、宗田ってば!
引っ込め涙、と命じても、涙腺は制御不能でどうにもならない。
「ありがとう。先生」
わたしは俯くと、袋から飴を出して口に入れた。
宗田の好きなパイナップル味の飴。
甘いはずのこの飴が、今日は少ししょっぱかった。




