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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子
2・香奈→楡井君
20/50

4-4

 駅の改札で楡井(にれい)と別れたわたしは、彼と反対側のホームへ向かう。


 初めは、高校生をもう一度やるなんてとんでもない話だと思った。

 勉強は面倒くさいし、テストは苦手だし、制服だって恥ずかしい。

 その思いは変わらないけれど、日を重ねるごとに、笙子(しょうこ)としての生活に馴染んできているのも感じていた。

 そして、そう感じる自分が怖くもあった。

 このまま――。


 

 ダメだ、ダメ!

 頭に浮かんだ考えを追いやるように、大きく深呼吸する。

 そして、改めて、今日知り得た情報のあれこれを整理した。

 最高の収穫は、なんといっても芦田のあの発言だ。

 楡井の態度だって気になる。

 彼は、話の肝心なところをぼやかすので、笙子との関係が今一つわからない。

 

 うー。脳がキャパオーバーだ。

 わたしは前髪を上げ、おでこを出した。

 おでこを出して風にあてると、頭も冷えるのだ。

 笙子の体でも、中の人物がわたしだと、癖はやっぱりわたしになるようだ。


「あ、朝――」


 聞きなれた声に反応して、ついそっちを向いてしまった。

 あぁ、宗田(そうだ)

 さっきとは違う熱が、わたしに宿る。

 宗田は、わたし(笙子だ)を見て、驚いた顔をしていた。

 なんだろう。

 なにか、変なことをしちゃったかなと心配しつつ、髪から手を放し、ぺこりと挨拶をした。

 うむむ。

 宗田に、頭を下げる日が来るとは……。


「そうだったな。朝倉もこっち同じ方面だったな」

 生徒らしく、笙子らしく、とりあえず頷く。

「電車、各停?」

 またもや、頷く。

「俺は急行」

 知っているよ、とは答えない。

「朝倉、勉強、頑張っているんだな」

 宗田が、わたしの隣に立った。

 笙子は背が高いので、香奈でいたときよりも、宗田を近く感じた。

 宗田の顔の近さに、わたしの顔はますます熱くなる。

「図書室、俺もよく本を借りに行くから。今日も、楡井と勉強していただろ」


 見られていたんだ。

 どうか、間抜けな顔(って、笙子の顔なわけだけど)じゃ、なかったようにと願ってしまうわたしがいる。


「学校に戻っていきなり勉強で、大変だろうなって、先生たちも心配しているよ」


 それは、感じているし、感謝してもいる。


「でも、朝倉が前向きなんで、そこがこっちとしても――」


 よかった、とか、安心。とか、そんな言葉が続くものだと思い聞いていたわたしの耳には、宗田からのその続きの言葉はこなかった。

 少しの沈黙の後、宗田がふっと笑う。


「ごめんな、偉そうなこと言って」


 そう言うと、宗田は背負っていたリュックを前にずらし、そこに手を突っ込むと「元気の源」と言って、わたしの手の平に飴を一つのせてきた。


 小さなビニールで包装された、一個の飴。


 うわっと、涙が込みあげる。

 宗田ってば、宗田ってば!

 引っ込め涙、と命じても、涙腺は制御不能でどうにもならない。


「ありがとう。先生」


 わたしは俯くと、袋から飴を出して口に入れた。

 宗田の好きなパイナップル味の飴。

 甘いはずのこの飴が、今日は少ししょっぱかった。


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