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ごめんね、もう少し  作者: 仲町鹿乃子
2・香奈→楡井君
11/50

1-4

「遅くなった。ごめん」

 楡井にれい さとしが、教室の入り口からこっちに向かって歩いてくる。その姿は、なるほど、さまになっているかも。モデルさんなんて人種にとんと縁がなかっただけに、つい、じろじろと見てしまいそうになる。

 ――が。

「見てしまいそう」なところで、ぐっと我慢した。

 おそらく、笙子しょうこだったらそんな目で楡井を見ないだろう。それに、よくよく考えれば、わたしだって高校の頃は、そんなことはできなかった。

 友だちは男女ともに多かったけど、だからって、じろじろ男の子を見るなんてことはしなかった。

 やっぱりそこには、思春期特有のはじらいというか、過剰な意識というか、そういったものが、わたしにもあったのだ。


 宗田そうだ 邦彦くにひこのことだって、側にはいても、まともに直視するなんて出来なかった。いつも、制服のネクタイとか、そこらへんを見ていた。

 宗田のことをじっと見ることができたのは、あいつが走っている時だけだった。

 応援にかこつけて、ここぞとばかりに見ていたものだ。


 今、25歳で高校生として生活をしているからこそ、わかることもある。

 高校生は、はたから見たら自由なように見えるけど、本当は窮屈なのかもしれない。

 学校という限られた世界や空間、男子や女子との微妙な距離、思春期ゆえの過剰な反応が、そうさせているのだろうと思う。

 笙子が男子に勉強を教えないっていうのも、つまりがそういうことなんだろうから。


 胸がきゅっとなる。

 ここにいると、どうしても、自分の高校時代が蘇ってしまう。

 宗田を好きだった自分。

 一方通行だった想い。

 ……なんか、遠いなぁ。

 うん、遠い。

 そんなこと全ては、もう思い出の中にしかないのだから。



 楡井は、わたしの前の席の椅子を後ろに向けると、そこに座った。

 誰もいない教室に、椅子の足を引きずる音が響いた。

「テスト、出して」

 18点のテストを、机の上に出す。

 朝倉あさくら 香奈かな史上でも、最も低い点数だ。

 18点か。

 2でも3でも割れる、なかなかいい数字だ。ここまで低いと、むしろすがすがしさすら感じる。すがすがしいってよりは、点数的には寒々しいけど。


 楡井は、この点数を見るのが初めてでもないくせに、珍しそうに人のテストを見たあと、徐に自分の答案を出してきた。

 100点。

 満点。

 パーフェクト。


 ここで香奈だったら口笛を吹いたり、手を叩いたりするところだけど、笙子はどっちもしなさそうなので、シンプルに「凄いね」と言ってみた。

 すると、楡井の顔が途端に赤くなった。

 え、なに。

 その純情な反応は一体、どうした。



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