最終章:癒えない傷
あの事件がおきてから、1ヶ月が過ぎた。
崇史も彩音も、未だに事件を完全に忘れ去ることが出来ないでいた。
未だに、とはいっても、この傷は数ヶ月やそこらで治るほどのものではないだろう。もしかすると、一生心の傷として残るかもしれない。
でも、それでもいいかもしれないと崇史は思う。
その傷の痛みを覚えている限り、優の苦しみもまた忘れていないということなのだから。
一切の苦しみを自分たちに明かしてくれなかった優。
それが自分たちに余計な心配をかけまいとしての行為だということは分かるが、それでもやっぱり、一言でも相談してほしかった。
迷惑かけて、かけられて。
そういうのが友達というものなのだと、崇史は思うのだ。
だから一言でも、言ってほしかった。
そうすれば、もしかしたら、もしかしたらだけど、何かが変わったのかもしれないのに。
隣に親友がいない不自然さ。
その穴は、しばらく埋まりそうにない。
「ねえ、崇史。あたしたちと一緒にいて、笑いあってたとき、優はどんなことを思ってたのかなぁ?」
真っ赤な夕日に全身を赤く染めた彩音が、崇史の横を歩きながら言った。学校から帰宅しているときのことだった。
彩音の視線は前に向けられたままで、崇史のほうは向いていない。
意図的に見ないようにしているのかもしれない。あの事件以来、彩音とは目と目を合わせていない。
それもそのはずだ。
いくらそれが真相だったからといっても、優の犯行を暴き出し、告発したのは自分なのだから。泣きながら優を庇おうとした彩音とは、違う。
崇史は彩音のほうを横目で見ながら答えた。
「何でそんなこと、俺に聞くんだ?」
崇史の言葉に、彩音が立ち止まる。
「・・・・別に。深い意味なんて、ないんだけどさ」
無理に笑おうとしているようだったが、明らかに失敗していた。
泣いているんだか笑っているんだか分からないような顔で、彩音は崇史のほうを見た。
久しぶりに、目と目がしっかりと合った。
『・・・・でも、死んでもいい人間なんて、きっとこの世にはいないんだよね。たとえそれがどんなに罪深い人だったとしても』
優自身が言った言葉。
あれは、自分に向けた言葉だったのだろうか。その言葉を言ったとき、いったい優はどんなことを思っていたのだろう。
ふと頭に浮かんだその言葉に、崇史はふと笑みを浮かべた。
「優なら、きっとこう言うだろうな。『とっても楽しかった』って」
胸にあいた大きな穴は、しばらく塞がりそうもない。
でも、今はその痛みを大切にしたいと思う。
いつか帰ってきた優に、「おかえり」を笑顔で言えるように―――。
これで最終話となります。
最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございます。
未熟な文章力のせいで、読みづらかったところも多々あるかと思います。それらも全部まとめてバネにして、次に役立てて生きたいと思っています。
読者の皆様、こんな作品を読んでくださり、本当にありがとうございました。