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チートライフ終了のお知らせ

 村を出た俺たちは王都まで赴き、ギルドに登録して冒険者として活動を始めた。

 チートを有する俺はもちろん、多彩な魔法を使うファーナさんもあっという間にランクを上げていき、1年が経過した頃には知らないものはいない超有名人となっていた。


 そしてSSS級クエストであるドラゴンを倒した帰り道を、のんびりと歩いていた。


「今日もさすがですねコウヘイさん! あのエンシェントドラゴンは国すら滅ぼすとまで言われた凶悪なモンスターだったのに」

「ファーナさんがいっぱい援護してくれたおかげですよ。でも実は怖かったんで……今晩、いっぱい慰めてくれますか?」

「もう、そんなこと言われたらいやだって言えないじゃないですか~」


 イヤンイヤンと頭を横に振る彼女を見ながらほくそ笑む俺。


 ああ、転生する前はこんな日が過ごせるなんて夢にも思わなかったな~。


 転生マジ最高!


「そうですか。それはよかったですね、でも夢は覚めるものなんですよ」


 誰もいない空間から、いきなり声が聞こえてきた。



 気が付けばそこは真っ白な空間だった。見覚えがあると思ったら、ファーナさんと出会ったときと同じ場所じゃないか。


「そんな、ここは神の……」

「そう。神のみが展開できる特殊な空間です」


 ファーナさんの言葉に返事が返ってくる。見れば、いつぞやの天使が仁王立ちしていた。


「ほかの神々の協力を得て、やっとここまでできるようになりましたよ。さあファーナさま。わがままはもうおしまい。帰りますよ」

「そんな! 私はコウヘイさんと一緒にいるって決めたのに」

「だからそんなこと許されるわけないでしょうが!」


 彼女の懇願を一蹴する天使。

元はファーナさんの秘書だというのに、なんだあの態度は。

そう思っていると、天使はこっちを睨んできた。


「もとはあなたのせいでこんな事態になったんですよ。そこのファーナ様を連れて行ったせいで、各世界のバランスはおかしくなって大異変が頻発。それに乗じて邪神や、自分を神だと思い込んでいる頭イカれた連中が好き放題して、どれだけの混乱が起きたのかあなたにわかりますか!」

「そんなこと言われても……」

「そうよ、ちょっとオーバーじゃないの」


 俺たちは抗議するが、天使は「ダメだ、完全に頭がお花畑だ」と頭を抱えるばかり。

首を左右に振って、再び俺をにらむ。


「とにかく、これ以上はもう看過できません。ですが無理やりにでも連れて帰っても、女神としての役割を放棄するのは、その様子から明らかです。

ですので、選択肢を与えることにします」

「選択肢?」


 指を二本伸ばした天使は、その内容を伝える。


「女神としての役割に再び戻るか、力を全て譲渡し、ただの人間として生きるか。どちらかを選んでもらいます。

これはほかの神々からも賛同の意を貰っています」

「そんな!」


 ファーナさんが悲鳴をあげる。

つまり力を奪うってことじゃないか。なんて横暴なんだ。


「なんですその顔、まるで被害者みたいにしてますけど、原因あんただってこと都合よく忘れてませんか!?」

「そりゃ俺が一緒にいたいって言ったけど、いくらなんでもこれは横暴だろ。ファーナさんみたいな女神がなんでそんな目に……」

「だから世界を混乱させた責任をとらなきゃいけないんです。これほど言ってもわからないなら、もう何言っても無駄ですね」


 天使のその偉そうな態度にさすがにカチンときた俺は、銃を取り出しファーナさんをかばうように天使の前に立つ。

 それを見て彼女は「コウヘイさん……」と恋する乙女の顔をするが、天使は「いったいこいつのどこに惚れたのか……」と片手で顔を覆っている。


「ファーナ様、忘れているかもしれませんので言っておきますよ。女神であるあなたとこの男では、同じ時間を生きられません。寿命というものが生き物にはあるんです。

ほぼ不老不死である神々がどんなに願っても、人間はすぐに死んでしまいます。まさか神の力を使って不老不死にしようだなんて思っちゃいけないでしょうね。そんなことすればほかの神々によって存在そのものを滅ぼされますよ!」

「そ、それはそうかもしれませんが。でも理屈じゃないの。この愛を捨て去ることなんてできはしない!」


 ファーナさんが言うと天使は「つまりそういうことですか」と冷たい目で睨み返す。さっきから俺のことは眼中にないみたいだ。


「わかりました。それがあなたの回答ですね」

「ええ、これが私の決意。愛の証明よ」


 かぶりを振る天使は腕をあげて、何か力を行使させたように光った。

 まぶしくて目をつむったのも一瞬。慌ててファーナさんの方を振り向くと、そこには一見すると何の変化も見られない彼女がいた。

 でもずっとそばにいた自分にはわかる。彼女からは、神気とでも呼ぶべき神々しさが消えてしまったことを。


「なんてことを!」


 頭に血が昇った俺は引き金を引こうとして―――握っていたはずの銃がなくなっていることに気づいた。


「え、なんで!?」

「当たり前でしょう。あなたの力はファーナ様より与えられたもの。そのファーナ様がただの人間になったのだから、与えた力もなくなりますよ。

今まで貰い物の力で好き放題してきたんだから、今後は身の丈に見合った生活を送るといいですよ」

「……ふざけるな!」


 こぶしを握って天使に突進した俺は、何かに転んで、何かに突っ込んでしまった。



 なんだこれは。

 自分が頭から突っ込んでいるものはほどほどの柔らかさと暖かさを持っていて、それがクッションの役割を果たしたのか痛みはない。

だが、匂いがひどい。臭くて仕方がない。感触も不快極まるし、ちょっと口の中に入ってしまった。

 というかこれって……。


「暴力は私の好むところではありません。代わりに精神的にお灸を据えることにしました。適当な牧場から集めた出来立てホヤホヤの馬糞の山ですが、どうですか?」


 そう、自分は肥溜めの中に突っ込んでいたのだ。


「ギャアァアアア!?」


 慌てて飛びのくが、頭上からさらに家畜の糞が大量に降ってきやがった。

必死に避けようとするが、無理だった。数分もしない間に、全身糞まみれになってしまった。


 その様子を見てやっとスッキリしたのか、天使はその姿を薄くしていく。

いや違う。薄くなっていくのは自分たちの方だ。


「次の神様は職場放棄なんてしないお方です。ファーナ様、もう会うことはないでしょう。せめてもの餞別として生活の拠点は用意してあげましたから、残り少ない一生をお過ごしください」


 指をパチンと鳴らして、完全に空間から追い出された。

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