二度目の旅立ち
タイムイズマネー。僕達は今日にでも出発できるように急いで準備を始めた。
遠征組は各自家に帰り旅の準備を進めることになった。
自分が準備する物は剣と楯と鎧と、旅道具一式だ。
今回はピッピのしずくの時と違いゴールが明確にわかっている。
何せ場所を知っている人が最初から一緒に行動するのだから。
ペロンギさんが言うには、ガガル王国まで2日、そこから山道で3日の計5日の旅になるそうだ。
だから今回はぴっぴのしずくを求めて冒険したときよりもかなり身軽だ。
あの時はいつごろたどり着けるかわからなかったからかなり色々持って行ったからな。
僕は解雇されてから同じ宿屋に泊っていた。この町で一番安い宿だ。ぴっぴのしずくを探す旅に出る前も、帰って来てからも、ずっと同じ宿屋の同じ部屋で暮らしていた。
今ではこの6畳ほどのスペースが第二の故郷のように感じている。
初めの時は蜘蛛の巣が張っているような汚らしい部屋であったが、最初の頃に大掃除をして綺麗にした。今では埃一つ落ちていない。のは言い過ぎか。しかし、とても綺麗な部屋になっていた。
しかしなぜだろうか。
ピッピのしずくを求めて旅だった時はこの部屋を出ることになんら感慨は抱かなかった。ペロンギさんのために帰ってくることが前提だったからだろうか。しかし今回はなぜだかこの部屋を出るのが少しさみしく感じられる。
奇妙な感覚だけど、この部屋に戻ってこれないように感じるのだ。
これがたんなる気のせいですめばいいのだけれど。
そんな感慨に浸りならがついに準備を完了し、僕は部屋を後にした。
門の前にやってくると、ペロンギさんと三上さん以外のメンバーが集まっていた。
門の前にも思い出深いことはたくさんある。最初の休日の時に和田君と東堂さんと三上さんでうろうろ散策したし、魔物の大群が攻めてきたときにはここで集合したっけか。今は鬼の襲撃で壊れた門を修復している最中だ。まだ5日ほどしかたっていないのにだいぶ修復されてきたと思う。本来の風景を取り戻しつつある。
「お、やっと準備できたか」
和田君達が僕に気付き、近くまでやってきた。
林君が歩きながら鞄をごそごそといじっている。
「これは念話石っていうんだ」
林君がなにやら赤く光輝く石2つを取りだした。
「念話石?」
初めて聞く名前である。
しかし、大体名前だけでどんな効果かわかる。きっと携帯電話みたいに離れた人と話せる魔法器じゃないかな。
「ああ、離れた人と会話ができるんだ。ただし一度使うと壊れちゃう超高級品だ」
「え!一回で壊れちゃうの?」
「だからもしもどちらかがともこちゃんの居場所を発見した時に使おう。もしくはそれ以上に重大な情報がわかった時に」
ともこちゃんの居場所以上の情報ってどんなことがあるのかわからないけど、僕は了解してその石を受け取った。一度きりか。“全知の賢王”の回答がわかりやすい回答だったらいいけど、ちょっとしたなぞなぞちっくなものだったら最悪だな。
って、採らぬ狸の皮算用はやめておくか。
今はとにかく上手くいくことだけを信じて行動しよう。
そうこうしてるうちに三上さんとペロンギさんもやってきた。
三上さんは相変わらずでっかいリュックを背負ってきていたが、ペロンギさんはほとんど荷物を持っていなかった。
「別に最低限の物さえあればいいからな」
これも魔物に育てられたからなのだろうか。この旅でもっとペロンギさんことを知れたら嬉しいな。
とまぁ、そんなわけで、僕達は二度目の冒険に出発である。
待っててね、ともこちゃん。必ずパパが見つけて見せる。
「出発しんこ~!」
三上さんが元気よく手を挙げて声を上げる。
和田君達が頑張れよ~と言いながら手を振ってくれているのを背中で感じ、僕達は歩き始めた。
なぜだろう。
部屋を出る時と同じで、僕は何やら不吉な気持ちになる。
これから先にとんでもない困難が待っているのか、はたまたこの町に脅威が迫っているのか。
僕達にはペロンギさんがいるし、この町には神宮寺君もいる。きっと大丈夫なはずなんだけど、なんなのだろうこの胸騒ぎは。
僕達が向かう先には曇天が広がっている。
不吉な予感。
「どうした?不安そうな顔をして」
「いや、なんだか嫌な予感がするというか、胸騒ぎがするというか、感慨深いというか。ちょっと胸がざわざわするんです」
「大丈夫?まだ旅は始まったばっかりだよ」
ペロンギさんと三上さんが心配そうにこちらを向く。
僕は、しょっぱなから何をやってるんだ。いきなり二人に心配かけちゃだめだろうが。
男は僕しかいないんだ。
ペロンギさんは僕より強いし、三上さんもけっこうたくましいけど、それでもやっぱり男である僕がしっかりしないと駄目だよな。
「いや、ごめん。なんだろう。ちょっとホームシックになっちゃったのかな」
僕は二人に心配かけないように努めて笑顔でそう答えた。
「ははは。ホームシックって。まだ手をふるけんじ達も見えるのに早すぎだろう」
「武井君、この前の時は意気揚々と旅だったのに、今回は変な感じだね。あれかな?天気のせいでちょっぴり気分がめいっちゃったのかな」
ペロンギさんは豪快に笑い、三上さんもちょっぴりくすりと笑う。
僕もそれにつられて笑う。
笑うと不思議と胸騒ぎもどこかへ消えた。
うん、大丈夫。きっと無事に帰ってこれる。なににおびえてたんだろうってきっと思えるはずだ。
こうして僕達の第二の冒険が幕を開けた。




