東堂 みか
僕達は三上さんと東堂さんが止まっている宿までやってきた。
宿に押し掛けるとかちょっとどうかとも思ったけど、僕達の熱いパトスは誰にも止められない。
「こんな夜中に女子の止まってる部屋に行くとか修学旅行みたいだよな」
「そうだね。僕達は結局行けずじまいだったけど」
二人が泊ってる部屋の前でそんなことを言い合う。
そして、僕はドアノブへと手をかけた。
「ゆかこに私の気持ちなんてわかないんだよ!」
僕がドアを開ける前に東堂さんが飛び出してきた。
東堂さんは僕達がドアの前にいることに一瞬驚いたような表情をしていたが、何も言わずに走り去ってしまった。その目は涙でうるんでいた。
「東堂さん・・・・。和田君、僕ちょっと――――」
「ああ、行ってやれ。三上さんの説得は俺がしとくからよ」
「ありがとう」
僕は東堂さんの後を追って走り出した。
東堂さんも防衛戦や旅の影響でレベルは結構上がっていると思う。20レベルは超えてるんじゃないかな?だもんでとにかく早い。普通は女の子が走ったってすぐに追いつくんだろうけど、この世界ではそうはいかない。結構必死に追いかけたんだけど、追いつくころにはこの城下町の反対側まで来てしまっていた。
「いつまで追いかけてくんのよ。このストーカー!」
え~。そりゃあ、ないでしょう。
心配して追いかけたのに、ストーカーって酷くない?
「泣いてる女の子を放っておけるわけないでしょ」
僕はちょっぴりかっこつけてそんな風に言ってみたけど、きっとどぎつい返しが待っているんだろうな。
あー怖い。でもこれでちょっぴり気が和らいでくれればいんだけど。
「・・・・」
東堂さんはしかし僕が思っているような返しはしてこなかった。
というよりむしろ何も言わずにじっとこっちをみつめるだけだ。
「今日はともこちゃんの件で話があってきたんだけど、話したいことがあれば聞くよ?」
「私は何の役にも立たない人間なんだ。ケルベロスの時は武井君に怪我をさせてしまって治すこともできなかったし、昨日だって一生懸命けが人を癒してたけど涼宮さんみたいにはできなかった。私が1人救う間に、彼女は5人位救ってた。今日も病院にいってたけど、ゆかこのように患者さんの心まで救ってあげるようなことができんかった。私なんて、足手まといの駄目人間なんだ」
東堂さんは僕の言葉で一気に話始めた。
彼女がここまで自分を卑下していたとは思いもしなかった。ケルベロスの時に僕が彼女に小さな芽を植え付けてしまっていたのかもしれない。涼宮さんのすごいヒール力、まぁ杖の力なんだけども、を目の当たりにして一気にそれが芽吹き、自分への無力感となって表れてしまったのかもしれない。
でも、東堂さんは駄目人間なんかじゃない。
「それは違うよ。ケルベロスのときだって東堂さんがいなかったらきっと僕は焼け死んでた。しかも2回もね。僕は東堂さんに救われてるんだよ。もちろん昨日のときだって、人数は涼宮さんに劣っていたのかもしれない。けど、確実に救われてる人がいたんだよ。三上さんみたいに患者の心を救えない?そこは三上さんの良さなだけだよ。人には人の良さがあるってだけだよ」
「でも・・・・」
「色々言ったけど、東堂さんは駄目人間なんかじゃないし、足手まといでもないよ。でも仮にそうだったとしても何にも関係ない。そうだとしても僕は東堂さんと一緒にともこちゃんを救いにいきたい。少なくとも僕は東堂さんを必要としてる。だからどうかともこちゃんを救うのを手伝ってください」
僕は東堂さんの悩みを根本的に解決してあげることはできないかもしれない。人の悩みを他人がいくら言葉を尽くして解決しようとしたってそれはとても難しいことだからだ。
だから今は一緒に行動してもらえるだけでいい。
「こんな駄目人間でも出来ることはあるのかな・・・・」
「あるよ!」
僕は東堂さんへと手を伸ばした。
東堂さんは僕の手をじっと見つめる。
「わかった。私もともこちゃんのために頑張ってみる」
そう言って僕の手をとった。さらに涙を流し、しかしにっこりと笑った。
僕達は二人で宿に戻っている。
しかし、東堂さんはやっぱり笑うと可愛い。
普段のクールな感じとのギャップがいいのだろうか。
「何みてるのよ」
「いや、なんでもないよ。ははは」
「そう。ならいいんだけど」
こんなこと考えちゃだめだ。浮気になっちゃう。
僕はペロンギさん一筋。僕はペロンギさん一筋。
ふぅ、落ち着いた。
乱れた心はもとに戻ったぞ。
しかし、平穏な心は長くは続かなかった。
右手がふっと熱くなった。
僕は左側を歩いてて、東堂さんは右側を歩いてる。
僕の右手は東堂さんの方にあって、ということはつまり、まさか。
「戻るまででいいから。ちょっとだけ甘えさせて」
東堂さんが顔を真っ赤にしてうつむいている。
可愛い。じゃなくて、いや、ちょっとこれは。
心臓のドキドキがやばい。
このままだと口から飛び出してくるんじゃないだろうか。
僕達は手をつなぎ、宿までの道のりを無言で歩いた。




