不吉な影
丘の上でお弁当を食べながらおだやかな時間を過ごしていると、ふとペロンギさんの表情が険しいものになった。
「ん?どうかしたんですか?」
僕がそう尋ねると、ペロンギさんが唇に指をあて静かにするよう指示する。
空気がぴんとはりつめる。
僕達もそれぞれが警戒態勢をとる。
ペニーニャ城がある側とは反対側にある森の方へと視線を向けるペロンギさん。
すると、突然黒い影が森から飛び出してきた。
そして、そのまま僕たちの前へと着地した。
一件すると普通の男のように思える。
「あらあら、気付かれてしまいましたか。気付かれないように一気いに方をつけるつもりだったんですが。あなたそうとう優秀なんですね」
男が僕達に向かってそう言い放つ。
ペロンギさんの額を汗がつたう。
「俺が合図したら、お前達は城へ逃げろ。こいつも相当に危険だが、森から異様な魔力を感じる。おそらく魔物が大量に城に攻めてくるだろう。城に戻ったら、騎士団と冒険者ギルドに伝えてくれ。」
ペロンギさんが僕達に小声で指示をだす。
ペロンギさんだけ残して逃げるなんてできない、そう言おうとしたところで、男が話始める。
「おやおや、俺だなんて。淑女が使う言葉じゃないですよ。騎士だからって強がらないでください。それに、その子達を逃がすわけないでしょうが」
そう言うと、突然男からまがまがしい気があふれだした。
今まで普通の男だと感じていた存在が、一気に恐ろしいものに変わる。
外見も背中から黒い羽のようなものをはやし、額には角のようなものが生え、まるで悪魔のようなものへと変貌する。
「逃げろ!!!」
ペロンギさんが叫ぶと同時に、男が僕達に向かって迫ってくる。
それをペロンギさんが剣で受ける。
「行くぞ!!」
林君の掛け声とともにみんなが走りだした。
僕はその場にとどまる。
「ともたけ!!急げ!!!」
和田君が僕に向かって叫ぶ。
しかし、僕は動かない。
いまだつばぜり合いを続けるペロンギさんと男に向かって、僕は雄たけびとともに駆け出した。
「うおおおおおお!!!」
本当はペロンギさんの言うとおり逃げるべきなのかもしれない。
しかし、惚れた女の人が危険な状態で逃げることはできなかった。
ペロンギさんが強いのは十分に理解していたが、それでもこの得体のしれない男と二人にするのは危険だと自分の全細胞が告げていた。
僕は男に向かって剣をおもいっきり切りつけた。
しかし切っ先が届く瞬間、まるで煙のように消え距離をとっていた。
「なんで逃げないんだ!!」
ペロンギさんが僕に向かってどなる。
それに対して僕は大声で応える。
「ペロンギさんのことが好きだから放っておけなかったんです!!」
それを受けて、ペロンギさんは苦い表情をする。
「く・・・・しょうがないやつだ。こうなったら二人でなんとかあいつを倒すぞ」
「はい!」
男がくくくと笑う。
「あのこ達は逃がしてしまいましたが、いまさら何がどうなることものないのです。見逃してやることにしましょう。しかし、あなたたち、今私を倒すと言いましたね?傲慢なあなたたちは確実に息の根をとめてやります」
そう言って、さらにそのまがまがしい気を増大させる。
「!?」
僕が一瞬ひるんだ瞬間、男は一気に僕へと迫ってくる。
いつの間にか持っていた剣を僕の首もとへと振り下ろす。
しかし、それをペロンギさんが阻止する。
「気を抜くな!!」
そのままペロンギさんと男が激しく打ち合う。
速すぎる・・・・
二人の激しい攻防に入り込む余地がない。
ペロンギさんのするどい一閃を、男はものすごく少ない動きでよける。まるですり抜けるかの如く無駄な動きがない。
「ははははは。まさかこれほどの強者とは。久しぶりに血が騒ぐぞ!!」
男が喜々としてそう話す。
そして、さらにその攻撃が激しさを増していく。
ハイオークの討伐や、昨日のヤンキーを軽々制圧できたおかげで、自分もある程度は戦えるようになったと思っていたが、その自信が軽く打ち砕かれた。
ペロンギさんが男に剣を弾き飛ばされる。
「く・・・・」
「これで終わりです。楽しませてもらいましたよ」
そう言って男がペロンギさんに迫る。
僕は体が自然に動き、ペロンギさんと男の間に割り込む。
「ち・・・・邪魔です」
男が剣を持っていない方の腕を降ると、当然横から衝撃が僕を襲う。
予想外の衝撃に、割り込むのが精いっぱいだった僕はなすすべもなく吹き飛ばされた。
しかし一瞬のすきを作ったおかげか、ペロンギさんが腰にさしたもう一つの剣を抜き、男の一撃を受ける。そして、剣を交えた後、すっと男が距離をとった。
「く・・・・あの小僧め。戦いの邪魔をしてくれやがって。死ね!」
男が僕に向かってまたしても、腕を降る。
すると黒い何かが僕に迫る。ハイオークの時以上の衝撃によって、全身に力が入らない。
意識を保つので精いっぱいだ。
----死ぬ
そう思った瞬間、ペロンギさんが僕の前に立ちふさがり、その黒い何かを全身で止めた。
「ぐふっ」
「ペロンギさん!!!!」
黒い何かがペロンギさんの体に突き刺ささった。
がくっと、ペロンギさんが膝をついた。
「なんというあっけない幕切れか。しかし、これも戦いというのもか」
男がゆっくりとペロンギさんに近づく。
黒くまがまがしい剣をペロンギさんに突き刺した。
「ペロンギさん!!!」
男が剣を抜くとばさりとペロンギさんが倒れこんだ。
そんな・・・・
途絶えそうな意識をなんとか保っていたが、あまりの衝撃的なできごとに僕は意識を保っていられなくなった。
視界が黒く染まっていく中、森の中から2つの人影が飛び出してくるのが見えた。




