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SCHUTZENGEL ~守護天使~  作者: 河野 る宇
◆第六章~人にあらざる者
28/37

*重圧

 ──魔界

「それでのこのこと戻って来たのか?」

「申し訳ありません。まさかあそこまでの力を持っていたとは」

 マリレーヌは玉座に腰掛けるガデスの前にひざまずき、悔しげに応えた。しかし、ガデスはそんなマリレーヌに冷たい視線を落とす。

「油断するなと言わなかったか。人間界が欲しいんだろう?」

「お言葉ですが──」

 見ていられなくなったギルが横から割って入る。それは同情心や優しさというものではなく、上位である自分たちに元人間が居丈高いたけだかに口を開くことに苛立ちを感じただけだ。

「何故そこまで奴にこだわるのです。予想を遙かに上回る数の魔物たちが倒されている。これ以上戦力を損なえばますます人間界を手に入れることが難しくなる」

「なんだと?」

 意見したギルを睨み付け低く発した。

「わたしが何のために魔王となったのか知っていて今更か。人間界の侵攻はわたしのおかげでリスクを負うことなく行えている。それでも手こずるのはおまえたちの力が足りないせいだろう」

 そこまで言われては黙り込むしかない。大陽の光はもはや彼らの弱点ではなくなり、魔王という強い柱によってその力は増していた。



 ──魔王に報告を終えた三人は靴音を響かせて赤い絨毯の敷かれた回廊を歩く。

「なんなのよあの態度! 今まで散々私たちを怖がっていたくせに!」

 マリレーヌはヒステリックに叫んだ。それを、いつのもようにファリスが軽くあしらう。

「そりゃそうだろう。魔王になれば自身の持つ力がどれ程のものか理解する。いいじゃないか、魔王らしくて」

 しかし、マリレーヌは自分が叱られたためか不満そうに顔を歪ませる。

「そうだね、僕は好きだよ。魔王は尊大でなくちゃね。気弱な魔王に誰がついていくものか」

 仲間が叱られはしたが、堂々としている様子は褒めるべきものだ。そうでなければ、人間に恐怖を与える言葉を見つけられない。

「それよりも、どうすりゃいいのよ。デイトリアを捕まえることなんて無理っぽいわ」

 ため息混じりに肩をすくめた。

「じゃあ、次は私がやってみようかな」

「ファリスが?」

 マリレーヌはいぶかしげに薄笑いを浮かべているファリスを見やった。将ではあるにしても、彼はむしろ学者肌だ。二人は彼の知識には感服しているものの、少々面倒な性格に呆れてもいる。

 今まで自ら動こうとはしなかったファリスも、ようやく重い腰を上げたらしい。

「何か良い手でもあるのかい?」

 そう尋ねるギルに視線を合わせて再び笑みを見せる。

「奴の弱点──というよりも、人間の弱い部分に攻撃を仕掛けるのさ」

 意味深に発したファリスに二人は首をかしげ顔を見合わせた。



 ──夕飯の後片付けをしているデイトリアを久住はコーヒーを傾けながら眺めていた。マリレーヌが逃げ帰った日から二日が経っていた。

「デイってどれくらい強いの?」

 唐突に尋ねる。彼は飾る事のできない性格なのだ。

「どれくらいと訊かれてもな。何を基準にすれば良いのか」

「それもそうか」

 デイトリアは宙を見つめて発した久住に溜息を吐く。

「私に訊きたい事があるのなら、いつものお前らしく訊けばよかろう。いい加減に私もイライラする」

「えっ!?」

 静かだが棘のあるデイトリアの声に驚いた。

「怒ってるの?」

 初めてデイトリアの怒りらしい怒りに触れて新鮮な気持ちと共に戸惑いも感じた。

「怒ってるね。私の顔色を伺うように人の顔をチラチラと。そのくせ喋る時は私の目を見ない」

「で、でも」

 その知識と強さをずっと尊敬し、好意を抱き、そして今は少しの恐怖が生まれている。デイトリアはそれを感じたのだろうかと視線をそらした。

「私と接する事が怖いか」

 久住は下を向いて小さく頷いた。

「凄く怖い訳じゃない」

 詰まる喉から絞り出すものの、その先が言葉にならない。

「何をすれば拭えるのか解らないのだな」

 さらに頷いた事を確認すると、デイトリアは再び片付けを再開した。

「自分で解決しろ」

 片付けを済ませ、スタスタと自分の部屋にこもってしまった。何か言葉をかけてくれるのかと思っていた久住はなんとも素っ気ない態度に唖然とし、詰まらせていた息を吐き出す。

「なんだよそれ……。もうちょっと別の言い方ないのかよ」

 でも、いつものデイだ何も変わってない。俺の見方が変わった事で一番辛くなるのはデイだ。なのに、こんな事で見方を変えてしまった自分が恥ずかしい。

「いま俺がしなきゃならないことは解ってるん。こんなことで止まっていちゃいけないことも」

 しかし一度、心に芽生えた感情は簡単には取り去る事はできない。

「人類を守るなんて、あんまりにも大きい使命だから、ちょっと寄り道しただけさ──」

 組んだ両手に力を込め、自分に言い聞かせるように息を深く吐き出した。

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