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SCHUTZENGEL ~守護天使~  作者: 河野 る宇
◆第五章~大いなる戦いの始まり
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*話し合い

<なるほど……>

 久住はデイトリアがシャワーを浴びているあいだにキャステルに定期連絡をした。本当は色々な煩悩が渦巻いているが命令を無視するわけにはいかない。

<他には何も無いですか?>

「あ、はい。何もありません」

 久住はふと勇介ガデスの言葉を思い出す。しかし、あの違和感は自分の聞き間違いかもしれないと思い今は伏せる事にした。

<彼は本気でデイトリアスを手に入れるつもりなのだろうか>

「わかりません。でもハッタリとも思えません」

<彼を自由にしたら、向こうにつくと思うかい?>

「そんなことありません! 絶対に──」

「何を電話に叫んでいる」

「あ、ごめ──ん!?」

 振り返りまた叫びそうになって慌てて口を塞いだ。風呂上がりのデイは実に艶っぽくて思わず押し倒したくなる。返り討ちに遭うのは目に見えているだけに、そんな発想は余計に虚しい。

「報告くらい静かにできんのか」

 呆れながら冷蔵庫からお茶を出し一気に飲み干す。久住にしてみれば常に上品だと想像していただけに、その行動は意外で驚きだ。

 曲がりなりにも一緒に生活をするようになって、色々と彼の事を知った。例えば皿におかずを盛りつけるときは思っていたよりも豪快だったり、結構めんどくさがりなとこがあったりと女性的な面や男性的な面がちらほらと顔を出す。

 別段、不思議な事でもないのだが久住にとっては全てが幸福なものだ。

「デイ」

「なんだ」

 ソファでくつろぐデイトリアスを見下ろし、詰まらせた言葉を絞り出す。

「あいつが言ってた秘密って何?」

「なんの事だ」

 無表情な声色で応えると部屋に向かった。

「なんで答えてくれないんだ。俺は──」

 デイは決して俺たちを裏切らない、裏切るはずがないと確信するためにもこれは絶好の機会だと考えていた。

 しかしどうだろう、小さな棘のように心にちくりと刺さった疑惑は消える事もなく膨らんでいく。信じている、信じたい。

「──っくそ」

 どんなに自分に言い聞かせても、心は一向に晴れなかった。



 ──暗く殺風景な世界は、決して人は住めないだろうと思わせる。

「一体いつ、人間界に進軍なさるのです。下僕たちが待ちきれずに今にも暴れ出しそうです」

 ルーインは玉座に腰を落としている魔王にひざまづき意見した。

「まだいいじゃないか。わたしのおかげでこっちは優勢なんだから」

 肘を突いて薄笑いで発した勇介ガデスにピクリと片眉を上げる。

「確かにあんたが魔王になったことでこっちは陽の光を気にしなくて済むぶん優位だが、相手に猶予を与えている今の状況はいただけない」

 魔王らしからぬ物言いにルーインも言葉を崩した。

「なるほど、それもそうだな。しかし向こうにはデイがいる。彼をこちらに引き込んでさらに優位に立ちたい」

「たかが一人の敵に何をためらう。あんたは単にあいつを自分の側に置きたいだけなんだろう。変な欲は捨てたらどうなんだ」

 その言葉に勇介は眉を寄せ鋭く睨みつけた。

「欲しい物が手に入ると言ったのはお前じゃなかったか? 魔王に対して随分な言い方じゃないか」

「今更性格は変えられないんでね」

 臆することなく応えたルーインに口角を吊り上げる。

「OK。さすが魔王の側近だ、頼れるよ。もう下がっていい」

 両手を肩まで上げて降参のポーズを示した勇介に一礼しルーインは玉座の間をあとにした。

 そうして閉じられた扉に目を眇める。

 本当に我々の側についたのだろうか……。魔王になったのだからそうなんだろうが。

「デイトリアか、確かに奴は大きな障害だ」

 つぶやいて大理石の通路を足早に進んだ。



 ──勇介の元マンション。人間界は未だ驚異に直面していない。

 通学中の学生たちが行き交う笑い声と車の音、足早に会社に向かう者の靴音が外を賑わせていた。

「醤油が無い」

 朝食の用意をしていたデイが困ったように口を開いた。

「昨日買うつもりがすっかり忘れていた」

「じゃあ、俺がちょっと買ってくるよ。コンビニが近くにあったでしょ」

 久住はソファから立ち上がり、嬉しそうに玄関に向かう。

「すまんな」

「いいって、いいって」

 久住を玄関で見送ったあと、遠ざかる足音を確認して表情を険しくさせリビングに戻る。

「何用か」

「なんだ、気が付いていたのか」

 声と共にルーインが姿を現す。

「随分な余裕じゃないか」

「は、まさか」

 口の端を吊り上げるデイトリアに肩をすくめる。

「戦うために来た訳じゃないことくらい解ってるんだろ。まったく、頭が良くてムカツクぜ」

「早く言わんと久住が帰ってくるぞ」

「どうせならもっと遠い場所にある品物を言えよ。醤油なんてすぐにみつかるぞ」

「ほう、随分と人間界の事に詳しいではないか」

「優位に立つためには当然だ」

「勉強熱心だな」

 半ば皮肉めいた口調にルーインは軽く舌打ちした。

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