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うるさい白馬(3)

お久ぶりです。

実は結構な量の設定を忘れていて、前の話と照らし合わせがら書きました。

2013年では最終更新となります。


それでは後書きにて。


追記(2014年1月5日):1,100PVに到達、早目に更新したいと思います。

 アスファルトで足元からじりじり焼かれることを気にもせず、明日香は再び渡の家の前に来ていた。インターフォンを押すことが出来ないため、事前にメールで来訪時間を伝えていた。あとは渡が玄関から出てくるのを待つだけだが、到着してから自らの失態に明日香は気づいたのだった。

 「馬鹿か、あたしは……」

 強烈な太陽光の反射で見づらい腕時計では、午前十時頃を示している。そして、問題の待ち合わせ時間は午前十時十五分。仮に渡が時間ちょうどに顔を出す場合、あと十分以上も外で蒸し焼き状態となってしまう。

 「あ……、クラクラする……。(日陰……どこかに、ないかな……)」

 首だけ動かして日陰を探すも、これまでこの場所で見かけたことがなかったことは明日香も覚えている。

 「(張り切り過ぎでしょ……。二十歳にもなってさ……)」

 仕方なく竹下家の塀によってできた幅の狭い日陰に助けてもおらおうと、ヨロヨロ近づこうとした。


 「あれ? 上浦さん。早いですね」


 腕に力を込めた瞬間、竹下家の玄関扉が開いて、渡が出てきた。この季節なのに厚手のジーパンを履いている渡を見て、明日香は挨拶も忘れて言ってしまった。

 「その……ズボン……暑くないんですか?」

 「え?」

 その後、明日香は以前にもお世話になった麦茶に助けられたのだった。




 「これでも安全運転を心掛けて、いつも走ってましたから……。コケたりすることはないと思いますけど、申し訳ないです」

 「気にしないでください。事前に知らせてくださってありがとうございます。流石に暑かったので、薄手ですけど……」

 「構いませんよ。念のためですから」

 車庫から渡の原動機付自転車を取り出す。それだけで一仕事になりそうな気温でも、渡は笑っていた。

 「あの……以前にも見かけましたけど、これって二人乗りできるんですか?」

 「ん? あぁ、この排気量なら大丈夫ですよ。ちゃんと法律で決まってますし」

 再び車庫に潜って、今度はヘルメットを出してきた。

 「これ、着けてください」

 「……ヘルメット」

 「まぁ、必需品なんで……」

 「乗ってからでいいですか?」

 渡はキョトンとしたが、考えてみればこれまでヘルメットを被って車いすを降りたことがないだろう明日香には当たり前のことである。

 「そうですね、じゃぁ、こちらに……」

 そう言われ、二輪の横まで車いすを押してもらった明日香。ここからが問題である。

 「上浦さん……。無理だったら教えてほしいんですが、一人で乗り移れますか?」

 「……無理……です」

 車いすを初めて整備してもらった時も目の前の二輪に座ったが、その時も渡の手助けが必要だった。玄関のような絶対に動かないと確信できる場所には、ゆっくりならば乗り移れるが、明日香は不安定な場所へと乗り移る勇気はなかった。

 「…………竹下さん。私を……持ち上げて、ください」

 どうやって?

 「腕を広げますから…………あなたの両腕で持ち上げて、ください」

 面倒なやつって、思われるかな……。

 「もし無理そうだったら、いいです。自分でやりますから……」

 じゃぁ、言わなけれいいのに……。腕なんか広げて……私、馬鹿みたい……。


 「……よいしょ!」


 「………………」

 言葉を発する暇すらなかった。気づいたら、明日香は渡の愛車のレザーシートに座っていた。何が起きた? 簡単だ。竹下さんが私を持ち上げたんだ。渡は再び明日香にヘルメット渡すため、再び車庫へと引き返し、同時に明日香の車いすを収納した。なんで? あの時だって面倒だったはずでしょ? 明日香の耳に『痛っ!』という籠った声が聞こえた。どうやら狭い車庫のどこかに渡が足を引っかけたらしい。どうして……? 分からない、これまで何度も同じお願いをしたことがあったけど……。嫌味が聞こえてくるはずだった、ため息が聞こえてくるはずだった、無視されたこともあった……。渡が先ほど明日香に渡そうとしたヘルメットを持って車庫から出てきた。もう片方の手には、かなり使い込んでいるのか、ところどころに塗装が取れたヘルメットを担いでいる。それが……『よいしょ!』だって? 私は本当に馬鹿か……。

 「はい、じゃぁ被って…………上浦さん?」

 「どうして……あなたは……」

 「待って、具合が悪くなったんなら言ってください。どうしたんですか?」

 「違う、違うの……」

 零れはしない涙が、明日香の視界を奪っていく。明日香へと差し出したヘルメットを持つ渡の手が、焦りだけを表す。

 「参ったな……。やっぱり気にしますよね……。これでも気をつけて持ち上げたんですが……」

 何を言ってるの?

 「……何を言ってるんですか?」

 「いや、その、だから……。変な場所には触ってない…………ですよね?」

 渡はついに赤面してしまった。当たり前だ。女性を前から抱え上げれば、どんな体勢になるかくらいは想像がつく。それでも渡は、恥ずかしさを隠して明日香を抱え、シートまで移したのだ。

 「あの……上浦さん?」

 「…………傷つきました」

 明日香はこれまで渡に聞かせたことがないトーンで応えた。

 「とても傷つきました。抱えるにしても、もう少し離れるとか、いくらでもやりようがあったんじゃないんですか? 顔見知り程度の相手に……家族でもない相手に……抱きつくなんて……。でも…………」

 両手をゆっくりと渡が差し出すヘルメットへ伸ばす。明日香の視線はヘルメットから離れない。

 「許せてしまう…………私は、馬鹿なんです。だから……」

 明日香の手がヘルメットを掴んだことを確認すると、渡の手がぎこちなく離れていく。かける言葉が見つからない渡はただただ黙っていた。

 「だから…………、海が見たいな」

 「…………驚かせやがって……。ほら、横向きに座ったままだと振り落とされるぞ?」

 渡は明日香の片足を持つと、明日香が体を回すのに合わせてシートに跨がせた。その後、ヘルメットのシールドを開けて明日香に被せた。先ほどから目を合わせてくれない明日香の顔を覗き込むことなく、いつしか機械の馬は嘶きを上げていた。

 明日香の手は最初、渡の腰に添えられていただけだったが、エンジンをスタートさせた数秒後には渡の腹部の前で祈りのように組まれていた。

 「(しっかりつかまれ……なんて、今更か……)」

 スタンドを上げたスプリング音が聞こえると、車体は地面と垂直になった。もうすぐ出発。明日香の腕が優しく渡を締め付け、初めて乗るバイクが怖いのか、渡の背中にヘルメットを押しつけてしまう。

 「(大丈夫だ……安全運転って言ってたし。そもそもお願いしたのはこっちだ。渡を信じなきゃ)」

 数度の空ぶかしを行って、ついに渡の両足がアスファルトを離れた。感じる風圧に、明日香は思わず目を閉じてしまう。

 「(明日香……)」

 一瞬だけ目だけを後ろに流す。下を向いているため、明日香の顔を確認できなかったが、心では通じてほしかった。

 「(明日香……。背中が、痛いです…………)」

到着したら言ってやろう、渡はそう決意した。

だから女性は怖いのよ……っと。


お読みいただきありがとうございます。

かなりの期間が空いてしまいましたが、今回の更新分で渡と明日香の関係に一段落つきました……たぶん。

こちらもどんどん更新していきたいですが、2013年度の更新は今回で最後といたします。それではみなさま、良いお年を。

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