うるさい白馬(2)
第十一話。申し訳程度のボーイズサイドを含みます。
また、メール表現を多用したので、意外に文字数は少ないです。
追記(2013年11月22日):800PVを超えていました。こちらの更新は、少しお待ちください。
追記(2013年12月27日):300ユニークを超えました。先にこちらを更新しようかと考えています……が、どちらがいいのでしょうか?
「あの~夕ちゃん? さすがにこの歳で白馬の王子様を信じる人はいないと思うよ?」
当たり前だ、居るわけがない。このご時世、幼稚園児だって現実を見るくらいだ。夕の意図を汲めなかったのは明日香だけだった。
「ふーん、リアリストだね~」
「絵本の中の世界じゃないでしょ?」
「じゃぁ……機械の馬に乗った王子様なら?」
「………………」
黙ったら負けの状況だったが、既に遅かった。夕たちは渡がバイクに乗ることを知っている。いつかの“恋バナ”から発展して、つい、口を滑らせた明日香の失態だった。
「竹下さんのこと? だめだよ、頼めるわけがない」
「どうして?」
実来の疑問。
「どうしてって……。足の悪い私なんか……迷惑だよ……」
俯いた明日香を見下ろし、夕は楽しそうに言った。
「誰にでも旅行をする権利はある。腕が折れても、足が動かなくても。“旅行がしたい”。その意志さえ伝われば、きっと誰かが助けてくれる。ただ、今回は私たちじゃない。明日香をエスコートする“馬”を持った人に頼るんだ」
「……海が…………見たい」
明日香の右手は、自分でも気づかないうちにポケットの中の携帯電話を握りしめていた。
><><><><><
数日後。渡はまるでロボットのように無表情だった。
「行広くん、大変だ」
「渡くん、大変ならもう少し慌ててくれ」
相変わらず製図用紙に向かう二人。机の上は修正のために消した黒鉛のカスが散っている。
「行広くん、デートに誘われた」
「へぇ、そう。…………ナンダッテ!?」
ボキリッ。今度は行広が筆記具の芯を折ることになった。
「おい、渡。昨日はしっかりと睡眠時間は確保したか? 朝食は食ったか? どこか違和感を感じたらいつでも教えてくれ、お前を病院まで運んでやるから」
「……行広が慌ててるのに違和感を感じる」
「それなら正常だ。病院は必要ないな」
行広からこれほどまでの興味を向けられたことがあっただろうか。渡は自分を見つめてくる正面の目を見ていると、ちょっとした優越感に浸れた。
「相手は……もちろん」
「あぁ、上浦さんだよ」
「よかったじゃないか、デートに誘われて。でも……その、なんだ。大丈夫なのか?」
「大丈夫って、何が?」
無意識に視線を外しているのだろう。行広の目線が急に定まらなくなった。
「だから……相手は車いすだろう? どうするんだよ?」
渡は筆記具を置き、両手は膝に、視線は行広の双眸を貫いた。緊張を深呼吸で抑え込み、震える両腕は拳で誤魔化した。
「相手は“車いす”じゃない。上浦さんだ」
「…………負けたぜ」
片側の口角だけを上げた行広の笑みが、今の渡には心地よかった。
「あー、でも、デートってのは言い過ぎだったかもしれない。ただ、海が見たいって言ってたけど」
「その連絡を受けて、後ろに乗せる決心が付いたんだろ? デートじゃんか」
「いや、違うだろ。デートってのはこう…………な?」
「前言撤回だ、このチキン野郎め」
「黙れ色男」
渡のスマートフォンの受信ボックスには、明日香から届いた二通目のメールがある。そこにはもう、件名に名前を入れる丁寧さはない。代わりに、親しみが込められていた。
-=-=-=-=-=-=
<Time> 20XX/08/05 16:55:21
<From> 上浦明日香
<To> 竹下渡
<Subject> 無題
<Text> 0.2 Kbyte
------------
お久しぶりです。
突然ですが、今週の7日にご都合は付きますか?
よろしければ、どこかに一緒に行ってみたいで
す。無理してお時間を作っていただかなくても
結構です。
車いす整備のお話でなくてごめんなさい。
返信待ってます。
-=-=-=-=-=-=
-=-=-=-=-=-=
<Time> 20XX/08/05 17:30:04
<From> 竹下渡
<To> 上浦明日香
<Subject> Re:無題
<Text> 0.2 Kbyte
------------
こんにちは。
車いすの調子が良くて何よりです。
上浦さんはどのような映画がお好きですか?
自分はあまり映画を観ないので、よろしけ
れば参考までに教えてください。
それとも、映画以外がいいでしょうか?
-=-=-=-=-=-=
-=-=-=-=-=-=
<Time> 20XX/08/05 16:55:21
<From> 上浦明日香
<To> 竹下渡
<Subject> Re:Re:無題
<Text> 0.2 Kbyte
------------
海を見たいです。
-=-=-=-=-=-=
次回には、“機械の馬”を出すことができる……かな?




