うるさい白馬(1)
本当に、遅れて申し訳ありません! 研究室が“卒論”という凶器で殴り掛かってくるのを必死に捌いていたら、こんな時期になってしまった!!
と、言う訳で。第十話となります。ここから同タイトルの連番を使って、お話を書きます。今回はPart.1です。ガールズサイドの内容となっていますので、三連星の茶番回です。
それでは後書きにて。
追記(2013年10月13日):ユニークが200件を超えている……だと……?
追記(2013年10月14日):600PV突破しました。
追記(2013年10月22日):700PV到達。頑張ります!
その身体的特徴故に、明日香は中学校に入学してから旅行とは縁遠くなってしまった。大学生という今に至るまでに、周囲の人と同じ数だけの長期休暇を過ごしてきたはずだが、いつも休み明けの土産話を聞いては海や山を思い描いていた。
「ねぇ、みーちゃん。今まで旅行でどこに行ったことある?」
「行った場所? そうだなぁ…………う~ん、思い出せない……。でも、ぶどう狩りとか、宿泊先の付近にあった美術館とかに行った記憶はあるよ。楽しかったなぁ」
明日香の友人の実来は少し上を向いて目を閉じた。明日香の背後にいる実来の視線の動きは分からないが、車いすの押される力が一瞬だけ緩んだことから予想した。
「夕ちゃんは?」
「あたしか? 旅行ねぇ……。山に行っては走り回り、海に行っては沖で遭難する手前まで泳いだ記憶しかないなぁ……。あと、滝壺で危うく死にそうになったのはいい思い出だよ」
「「「(武者修行……?)」」」
夕を除く三人の顔が笑顔のまま固まっていた。そんな中、花帆だけが疑問を口にした。
「でも、突然旅行の話なんか聞いてどうしたの?」
「え? いやぁほら、こんな足でしょ。最後に旅行したのが小学生時代だったから、急に懐かしくなっちゃって……」
真後ろを見ることができないから、斜め前に言葉を発する。
「あー、えっと……。こんなことを言っていいのか悪いのか……」
花帆が歯切れの悪い言葉を並べる。
「花帆ちゃん、なに?」
「うん、最近は車いすでも利用できるような施設とかあると思うんだけど、そういう場所とか選んでみたらどうかなぁ~って思ったんだけど……だけど……」
なぜか視線がだんだんと遠くなる花帆。どうやら言いたいことを全て言えたわけではないらしい。
「気にしないで話してよ」
語尾を笑いで飾って花帆の緊張を取る。力のバランスが左右で一瞬だけ崩れた実来の介助。きっと肘で花帆を小突いたに違いない。明日香はそう確信した。
「……でも、そういう場所って特別料金とかありそうでしょ? それに、大抵は健常者と一緒に行動することになるじゃない? 明日香が気を使ったりしないかなって、そう思ったんだよ……。楽しむための旅行が、悲しい気分で終わったら…………ねぇ?」
明日香は内心で驚いていた。行こうと思えば行けた旅行だが、たった今、花帆が言ったことは一度は明日香も考えたことがある。健常者の友人でも同じことを考えているとは、明日香にとって意外であった。
「明日香」
「なに? 武者……じゃなかった、夕ちゃん?」
夕が、“スゴくいいこと思いついた”と言わんばかりの(悪そうな)笑顔で明日香を見つめた。また車いすを押す力のバランスが一瞬崩れる。今度は逆の腕だった。
「ふむふむ……ほうほう、へぇ~。それは妙案だねぇ……。」
真後ろから聞こえてくる実来のわざとらしい相槌に、明日香は夕が何を思いついたのか気になった。
「夕ちゃん、聞くのが怖いけど……何、考えてるの?」
これまた、わざとらしい咳ばらいが夕から聞こえた。
「明日香クン、君は白馬の王子様を信じるかな?」
「…………は?」
“信じる”と言う代わりに、恥ずかしさが先行した。意図を読んだ花帆のため息が、明日香の耳に届いた。
お久しぶりです、赤依 苺です。
『それほど長くないくせに、よくも更新を遅くしたな!』というセリフは、どうか皆様の心の中だけに留めておいてください。取りあえず聞こえてますので、引き続き生暖かい目で見守っていてください。
それでは、次話にて。