12 ルディン・リンフェル ①
ルディン・リンフェル。
リンフェル王国の第一王子にして、王位継承権を持たない『呪われた闇王子』。
彼の運命は、産まれた時に既に決まっていた。
『リンフェル王家の双子の兄弟は不吉だ。王位を継ぐのは弟王子。兄王子は生涯、西の塔に幽閉しなければならない。兄王子は呪われていて、国に不幸をもたらす不吉な存在である』
王家に伝わるその言い伝えにより、ルディンは生まれてすぐに西の塔に閉じ込められた。
母親である王妃の強い希望により、乳母をつけられどうにか生き延びたが、ただただ『生かされている』だけだった。
彼が五歳になって間もなく、王妃が亡くなった。
彼女は最後の望みとして、公爵であり、リンフェル王国の将軍であった父親にルディンの後見人になって欲しいと頼んだ。
王にはなれず、それどころか死ぬまで幽閉されると決まっている王子の後見人になってくれる人物などいるはずがなく、家門のためにならないとわかってはいても、自分の父にしか頼むことができなかったのだ。
「いくら可愛い妹の頼みだからって、それは無理な話だろう」
「うちは王妃の実家なのだ。次期王となる弟王子の後見人となるのが筋ってものだろう」
家族も親類たちも皆そう言ったが、父は結局、娘の願いを聞き入れた。
この国のもう一つの公爵家が弟王子の後見人となり、自分はいわゆる『ハズレ』の方を選んだのだ。
王妃の葬儀が終わり、公爵は一度も会ったことのない孫に会いに、西の塔に赴いた。
そこには、弟より小さく細い、ボサボサ髪のみすぼらしい子どもがいた。
体には無数の傷があり、小さく暗い部屋の隅で震えながら、怯えた顔で自分を見上げていた。
「……儂は、お前の母親の父だ。これからお前の後見人となる」
「…………」
「言葉がわからんのか。……今まで係わりをさけ、すまなかった。これからは儂が、お前を教育しよう。いつか状況が変わり、ここを出られる日が来ることを祈って……」
そうしてルディンは、西の塔の中でいろいろな事を学んだ。
あまり楽しいものではなかったが、生きるためには大いに役立つ事だった。
「やだ! まだここにいたのですか? 早く中に入って下さい。厨房からいい物をもらってきたので、一緒に食べましょう」
部屋を出て行ったセルネイアが戻って来て、テラスから動かずにいたルディンにあきれた様子で言った。
「カリナがお茶を持ってきてくれますから」
「俺はいらねぇから、自分の部屋で食べろ」
「あっ! カリナに叱られるのが怖いんですね、もう遅いですよ、諦めて下さい。それにこれ、戦に持っていく携帯食の試作品なんです。ルディン様の意見も聞かせてください」
セルネイアは部屋の中へと姿を消し、ルディンも渋々その後を追う。
中に入ると、すでにカリナがお茶を淹れているところだった。
「ルディン様、お茶の後で包帯を替えさせていただきますので、もう絶対に! 隠れないで下さいませ」
凄むように言ってふたりの前にお茶の入ったカップを置き、少し離れた場所で待機しようとしたカリナに、セルネイアが手招きをする。
「カリナも一緒に食べましょう。これ、例の試作品だから」
「ですが、ルディン様もいらっしゃいますので……」
「いいですよねルディン様、カリナも一緒で」
「……構わねぇが……」
「ありがとうございます! カリナもこれで、今日のこと許してあげてね」
そう言って笑うと、セルネイアは「じゃーん!」と皿に掛けられていた布を取った。
「現在の携帯食クッキーの改良版です。これまでのは硬くてボソボソだったので、木の実を沢山入れました。噛みやすくなったうえに、カロリーアップ……なんだ? カロリーアップって……えーと、噛みやすくなったうえに、滋養に富んだものになっているはずです」
「セル様は時々、セル様ご自身でもわからない神の国の言葉をお話しになることがあるのです。力のある巫女に見られる現象だそうです」
「ああ、さっきも何だか言ってた。それより、これってここで作っていたのか?」
「フフフ、驚きました? ルディン様も食べていますよね? 実際戦に持って行くのを作っているのは軍の方でしょうけど、考案したのはわたしなんですよ、クッキー」
「このクッキーという物自体、セル様が作り出した物なのです」
「で、軍の偉い人が、戦の際の携帯食にしたいって言うから作り方を教えてあげて、その後も改良を重ねているんです。さあ、食べてみて下さい」
そう言われ、ルディンは皿から一枚つまんで口に運ぶ。
「……確かに、これまでのよりうまい」
「よかった! あ、お茶をどうぞ。保存性を高めるために、どうしてもパサパサにはなっちゃうんですよね。まあ、これからも改良していきますから期待してて下さい。あ! なにか希望はありませんか? 今後の参考にしますので」
「……ない」
「えー、じゃあ、なにか思いついたら教えてくださいね」
そう言うと、セルネイアもクッキーを口に運んだ。
「……うん、おいしい。うまくいったわ。……そうだ、干した果物を入れてもいいかも。蒸留酒に漬け込んだりしてから」
「蒸留酒って……あの、やたら飲みにくいお酒ですか?」
「初めて作ったものは、樽に入れて三年経つでしょう? 美味しくなっているんじゃないかと思うの。あ、ルディン様はお酒飲みますか?」
「まぁ……」
「じゃあ、それも後で試してもらえますね」
「セル様は葡萄酒を使って、とても強いお酒を作っているのです。……あまり美味しいとは言えないのですが……」
「だからぁ、作ってすぐは美味しくなくても、寝かせておけば美味しくなると思うのよ、なんとなくだけど」
楽しそうにそう話すセルネイア。
「……お前、変わってるな」
思わずそう言ったルディンに、セルネイアは「あ~」と苦笑する。
「わたし、宿屋の娘なんですよ。で、小さい頃から宿の名物料理を考えるのが好きで、ここでも新しい料理を考えてカリナと一緒に試作しています」
話を聞きながら、ルディンはもう一枚、クッキーを手に取った。
「……巫女姫が、これを……」
甘くて、サクサクカリカリしていて……初めてクッキーを食べたとき、こんなにおいしい食べ物があるなんて、と驚いたことを思い出した。
以前、英国の有名ビスケット食べて「異世界もので冒険者が『携帯食はなぁ(苦笑)』って言うのはこういうヤツなのでは!?」と思ったことがあり、なかなかのボソボソガサガサ具合だったのですが、時々無性に食べたくなります。が、その後みつけられません!




