1 終わり、始まる
以前投稿し、取り下げた話です。今度こそラストまで頑張ります。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
目を開けると、そこは一面真っ白だった。
……えーと、ここはどこ?
寝そべった格好のまま、右を見て、左を見て、そして上を見る。
……うん、白い。
上半身を起こしてみたけれど、四方八方ただ白い空間が広がっているだけ。壁もあるのか無いのかわからない。
ん~、夢かな? 夢だな、うん。
『夢ではない。寝ようとするな』
「!!」
突然声が響き、ギョッとして辺りを見回した。
「んっ?」
前方の空間に眩しく輝くモヤのようなものが出現し、どんどん大きくなり、人の形をとっていく。
それは眩しくて、よく見ようとするほどぼやけてしまうけれど、宙に浮いていて、足元まである長い髪がふわふわと揺れている。
……そう、まるで天使のような……。
「ああ、わたし、死んだのね……」
思い出した。
会社からの帰り、車に轢かれちゃったんだ。でも、
「信号、青だったよね!」
思わず文句が出てしまう。
そう! ちゃんと青だった。なのに横断歩道を渡っているときに車にはねられた。
なんてこと! 酷すぎる!
わたしはまだ三十歳。
仕事に打ち込んでいるから彼氏はいなかったけれど、この先きっと素敵な彼氏ができて、結婚、出産、といろいろあったはず。なのに、こんなにあっさりと人生終わってしまうだなんて!
『仕事に打ち込んでいたのが理由とは思えぬが……まあ、人生とは、ままならぬものなのじゃ』
あれ? わたし声に出していなかったよね? そういえばさっきも?
『我は神。おぬしの考えていることなど容易にわかる』
「か、神様ですか!?」
『そう。我はリンフェル王国の守護神、マールジューランである』
そう言われてみると、光っているし声は頭の中に直接響いてくる感じだし……でもリンフェル王国ってどこ?
『我はおぬしがいた世界とは別の世界の神である。おぬしには次の生を、我の守護するリンフェル王国で生きてもらいたい』
「え? 突然そんなこと……」
『よいか、心して聞け』
光り輝く神様は、ゆらゆらと揺れながら言った。
『我は守護神として、千年以上リンフェル王国を見守り発展させてきた。我は神なので、天災や隣国の不穏な動きなどを早くに把握できる』
うんうん、なるほど。
『しかしそれを教えてやりたくとも、力を持たぬ民達は我の声を聞くことができぬのじゃ』
ああ、それはもどかしいだろう。
「そちらの国には、神官とか巫女とか、神に仕える方はいないんですか?」
『おる。我の声を聞くことができる巫女姫がな』
おお、なるほど。
『ということで、おぬしにはその巫女姫になってもらいたいのじゃ』
んんっ?
それまで『うんうん』と理解しながら聞いていたけれど、いきなり理解し難い話になってしまった。
「どうしてですか? なんでわたしなんかが巫女に?」
『リンフェル王国の民は、我の声を聞くことができぬのじゃ。我の声を聞くことができるのは、なぜかおぬしら、異世界の者だけ。そこで我はそちらの世界の者をリンフェル王国に転生させ、我の声を伝えて国を栄えさせてきた』
なるほど、そういうことか。でも、
「なぜ、わたしなんですか?」
そう、どうしてわたしが?
これまで不思議な体験をしたことはないし霊感もない。全く心あたりがないんだけど。
『そちらの世界の者を連れて来られるのは数十年に一度。しかも 『その時』は突然やってくる。そしてそれがたまたま今日で、おぬしはなんとなく、巫女姫にふさわしそうなのじゃ。ということで早速契約を』
「ちょっと待って下さい! 今『なんとなく』って言いましたよね、適当じゃないですか! よろしく頼んだって言われても困ります! わたしには無理です、巫女姫なんて」
『できる訳がない』と続けようとしたけれど、つい考えてしまう。
……巫女姫……巫女姫って、素敵な響きよね……。
なにその特別感!
これまで平凡に生きてきたわたしが、別世界で神の声を聞く巫女姫様?
そんなの無理と思う反面、なんだかワクワクするような……。
『そうであろう、そうであろう。なりたくとも、なれるものではないぞ?』
またしても心を読まれてしまった。
『そちらの世界も楽しいであろう。しかし、新しい世界で新しい生活をしてみたくはないか? しかも、巫女姫として』
……なんて魅力的に聞こえる話だろう……よし、ここはいっちょ、話に乗ってみよう!
そう決心し、わたしは神様を見た。
「わかりました。あなたの国に転生し、巫女姫としてあなたの言葉を民に伝えます」
『うむ、では契約をしよう。名を申せ』
「○○○○です」
『我の名は――――――である』
「あれ? さっき、マールなんとかって……」
『それは人の国で呼ばれる名で、本来の名ではない』
不思議な、表記できないし発音できない名前。けれど記憶として、しっかりと頭に刻まれる。
『――――――の名において○○○○を我の言葉を民に伝える巫女姫としてリンフェル王国へと転生させる』
「キャッ!」
いきなり体が熱くなり、目のくらむような光に包まれた。
『○○○○に我の加護を与えよう!』
光と熱はすぐに消え、何事も無かったように、また白いだけの空間になったけれど、
「あ、見える……」
神様の姿が見えるようになった。依然、発光しているものの、表情もわかる。
金色の髪と瞳、小さい顔にすっと長い首、しなやかな長い手足。
「すごい……綺麗……」
『そうであろう、そうであろう』
……なんだか反応は神様っぽくないけど、うん、付き合いやすそうな感じだわ。
『おぬしはリンフェル王国で赤子として生まれる。生まれたらできるだけ今の出来事を思い出すよう努力せよ。ではこれで』
「ちょいちょいちょい! 待って! 今なんて言いました? 生まれたら今の出来事を思い出すように? なにそれ、このこと忘れちゃうの? それに赤ちゃんからスタート?」
『当たり前じゃ。その姿のまま転移させることはできん。おぬしは赤子としてリンフェル王国に生まれるのじゃ。ただ、赤子になるとこのやり取りを忘れてしまうらしくてのう。なにも思い出さず、我の声も聞こえず生涯を終える者もおる。がしかし、今リンフェル王国は危機に瀕しておる。近隣には好戦国があり戦争を仕掛けようとしているのに、年老いた現巫女姫に頼るしかない状態なのじゃ。人間は寿命が短いからのう……現巫女姫が亡くなったなら、リンフェル王国はおしまいじゃ。ということで、リンフェル王国の未来はおぬしにかかっていると言うても過言ではない。国が滅ぼされぬよう、必死になるように』
「そんなの最初に言っておくべきでしょう! あっ、こらっ! 待てっ! ――――――! 消えるなっ!」
わたしの叫びを聞きながら神様は笑いながらどんどん薄くなっていき……、
「くっ、逃げられた……どうすんのよ、わたしが物心ついたとき国はもう無くなっていた、とかならないでしょうね……うう、とんでもないこと引き受けちゃった」
こうして、わたしの人生は終わり、そして、始まったのだった。
互いの真名を告げ、契約成立です。




