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プロローグ
今夜はいつもと違う予感がしたのだが、気のせいだったのかもしれない。
大木の枝に隠れて、目の前の大きな屋敷を監視し続ける。
ずいぶん時間が経ったが、なにも起こらない。
空には月が輝くばかりで、辺りは風一つなくしんとしている。
(今日も空振りか)
はあっ、と深いため息をついて、枝から飛び降りようと腰を上げたその時。
不意に、空気が揺れた。
はっとして動きを止めると、気配のしたほうへ目を凝らす。
(来た)
屋敷の屋根に、人影がすうっと降り立った。
黒い装束に身を包んだ小さな影。
その影はしばらく屋根の上でじっと動かずにいたが、やがて軽い身のこなしで敷地を囲む壁へと駆け、門の外へひらりと飛んだ。
月光がその姿を照らし出す。頭巾から一房の髪が零れて風に舞った。次の瞬間、黄金に輝く髪とともに、その瞳が視界に飛び込んできた。ルビーのような深い紅の瞳。
「――見つけた」
口角が上がるのを抑えることができない。
体中を歓喜に満ちた高揚感が駆け巡る。その感触に浸りながら、音も立てず地面へ着地し、暗闇へと消えていく彼女の後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。




