表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼さんコチラ、桃なる方へ!  作者: 四辻十壱
第三章 街と妖怪

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/99

第47話  お礼の約束


 ──六月も半ばになると、かなり暑い。

 今月の頭には生徒たちも夏服になっていたが、その時ですでに最高気温は二十五度を超えていた。現在はそれプラス十度程である。汗でワイシャツが張り付いて鬱陶しい。


 放課後になって準備室で隅に置いた扇風機に煽られながら、ネクタイを少しだけ緩めた。エアコンの設定温度は二十八度。それ以上下げるなと教頭からのお達しだ。校長室は二十五度なのはうちの教師ならみんな知ってるけどな。


「ねーセンセー、なんでうちの購買にアイスって売ってないの~。暑すぎだしアイス食べたくない? コンビニまで買いに行くのちょーだるいんだけど」


 窓際のソファの上で鬼村がだらけた格好で寝転んでいる。スカートが捲れ上がって中身が見えそうな為、俺はそっちに顔を向けることができない。


「お前はもう授業も何も無いんだからこのまま帰りにアイス買っていけばいいだろ」

「そんなこと言ってさぁー、あたしセンセーが心配だから一緒にいるんだけど?」


 鬼村の言う「心配」とは、俺がまた襲われないかということだろう。あれから五日ほど経つが、そういった気配は無い。鬼村もわざわざバイトを休んでまで俺といるが……。


「こないだ鞘も作ってもらって一応は戦えるんだ、大丈夫だろ。煙草もライターもある」


 ポケットの中の存在感に安堵し、俺は積み上がっている書類に目を通した。


「──それに、本当にいざとなりゃ鞘から抜くさ。俺だって馬鹿じゃない」

「ほんとかなぁ」


 鬼村はうたぐるような声を上げて起き上がった。一瞬そちらに目をやったが、俺は眉間に皺を寄せる。


「おい、暑いからってシャツのボタン開け過ぎだ。制服はちゃんと着ろ」

「無理でーす、暑すぎて脱いじゃいたいくらいだもーん」

「痴女か!」


 と、その時内線の呼び出し音が部屋の中に響き渡った。職員室からだろうか、と俺は椅子から立ち上がると受話器を取る。


「はい、化学準備室です」

『あっ、桃間先生でしょうか?』


 聴こえてきたのは、事務職員の女性の声。山上さんではなく、二年程勤めている大竹おおたけさんだ。


「あ、はい。桃間です」

『今職員玄関の方に姪っ子さんがいらしてるんですよ、なんでも用事があるとかで……』

「姪っ子??」


 俺は復唱しながら姪っ子というものを頭の中に思い浮かべようとする。俺にとっての姪っ子は二つ下の弟である雄二のところの三人娘だ。だが一番上の子でさえ今幼稚園生で、しかも住んでいる場所はかなり遠い。一人でこんなところまで来られるわけがない。


「……ええーと、どんな子ですか?」

「どんな? ああ、近くの加間倉学園さんの制服着てらっしゃいますよ! 礼儀正しい姪っ子さんですね~」

「………」


 俺の頭の中には小さな姪っ子三姉妹ではなく、あのちょっときつい物言いをする陰陽師少女が思い浮かんだ。


「──今行くんで待たせといて下さい」


 そう言うと受話器を元に戻した。なんでまたあの子が、しかもわざわざ学校に乗り込んでくるなんて。


「センセーどったの?」

「なんでか土御門さんが来たみたいだから行ってくる」

「土御門さん? ああ、ナツメちゃんかぁ。あたしも行こーっと!」


 そう言うと鬼村はソファから立ち上がり、床に置いていた鞄の中から財布を取り出した。


「ついでにアイス買ってきたげる~、何食べたい?」

「いらんいらん」

「嘘だぁー」


 確かにアイスを食べたいくらいには暑いが、まずは目の前に立ちはだかるかもしれない問題を片づけることの方が先決だった。



 ***


「遅かったじゃない、桃間さん──それに鬼も」


 職員玄関へ行くと、身体の前で手を合わせお淑やかそうに立っている土御門ナツメがいた。彼女は鬼村を見ると少し嫌そうな顔をしていたが、一つ息を吐くと気を取り直したように俺の方を向いた。


「何か話があるのか? 面倒事じゃないと助かるんだが……」


 土御門は事務室に繋がる窓口が締まっていることを確認して話し始めた。


「貴方、今度お礼をするって言ってたわよね?」

「え? お礼?」


 一瞬何のことか、と思ったが俺が狗谷木に襲われた時のことか。確かあの時はやたら高いお札を使ってまで助けてくれた……んだったよな。


「ああ……そうだったな。俺のできる範囲でなら、まあ……」

「それじゃあ!」


 土御門は今までに無いくらいぱっと顔色を明るくさせると、鞄の中からスマホを取り出して何やら操作すると俺に見せてきた。鬼村も横から覗き込んでいる。


「「──玉萌たまもえ杏狐あんこ、初コラボカフェ……?」」


 俺と鬼村は画面に映し出された文字を読み上げると、目を合わせた。土御門は何やら興奮したように画面を操作し、さらに俺達に何かを見せつける。画面に映し出されたのは大きな三角耳を生やしたキャラクターがにこやかに笑っているものだ。多分これは、あれだろう。今流行りの……Vテューバーとかいうやつか。


「私の最推し、杏狐様がようやくコラボカフェをやることになったのよ! 何が何でもグッズを揃える為にもあなた方の協力が必要なの」

「協力って言われても……」

「今度の休みに一緒にカフェへ行ってくれるだけでいいわ! お金は私が持つから!」

「ええ……」

「コラボカフェではドリンクやフードを一つ頼むごとにコースターがもらえるのだけれど、数種類あるうちのシークレットをどうしても引き当てたいのよ! これには運が必要。けれど、人数が多ければ多い程引き当てる確率は上がるの!」

「あー、なるほどな……?」

「そういうわけだから! 不本意ながら鬼も来ていいわ!」


 土御門が鬼村を指差すと、鬼村は「やった~コラボカフェとか初~」と何やら喜んでいる様子だった。ってことは何か、次の休みを俺はこいつらに使わなければいけないってことか。……お礼するなんて言ったのが間違いだったかと若干後悔する。


「あたしいっぱい食べれるから~、当たるまでがんばろ!」

「そうね……私のお金が尽きない限りは挑戦する価値があるわ」

「こら小学生、お金を無駄遣いするんじゃない」

「無駄遣いですって!?」


 土御門は途端に怒った表情になり、地団太を踏みだした。


「私が! 稼いだ! お金は! 好きに使わせてもらうわ!! あんなにも必死に毎日働いているんだもの好きなものに好きなだけ使うくらい良いじゃないの!!」


 ──どうやら地雷を踏んでしまったようだ、と俺は頭を抱えた。何故小学生がブラック企業で働く社畜のような台詞を叫んでいるのか。いやまずい。ここで騒がれてはまた周りに何を言われるかわかったもんじゃない。ただでさえ俺は『自分のクラスの女子生徒と婚約関係を結んでいるちょっと事情のおかしな教師』だ。


「……まーまーナツメちゃん。とにかく次のお休みはあたしら一緒におでかけしてあげるからー、とりま連絡先交換しよ♪ あ、コンビニ行くんだけどアイス食べる?」

「下校中の買い食いは禁止されてるのよ」

「下校中ここには寄ってくのに~?」


 鬼村は可笑しそうに笑いながら、土御門を連れて外へ出ていった。あとはまかせてもいいようだ。助かった。


「──桃間先生、何を騒いでらっしゃるんですか」


 後ろから声をかけられ振り返ると、山上さんがそこにいた。そういえば土御門にはまだ山上さんのことは話していない。顔を合わせれば何か不都合があったかもしれないと思うと、タイミング良く事務室から離れていてくれて良かった。


「いやぁ……まあ、ちょっと……。ちなみに山上さんは玉萌杏狐だかっていうVテューバーって知ってます?」

「はい?」


 強めの口調で返され、俺は苦笑いをした。


「……何でもないです」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ