第82話 怪物揃いのギルド
「あれ? 大剣オジサンたちを映してる配信画面が変じゃねえか?」
「ほんとだ。なんかあったのかな?」
ゴーシュたちが四人の男に取り囲まれた頃――。
中継を流している観客席ではざわめきが起こっていた。
『ニャニャニャ!? 《黄金の太陽》を映してた配信が突然真っ白になっちまったニャ! これじゃ何にも見えないニャ! っていうか音も聞こえねえニャ! どうなってんだニャ!』
何かのトラブルだろうかと、怪訝な表情を浮かべる観客たち。
その様子を見ながら、ギルド《黒曜の翼》のオーナーであるジルコーニが邪な笑みを浮かべる。
「クックック。《黄金の太陽》め。この私を侮辱したこと、後悔するがいい」
***
「これは……、霧か?」
四人の男に警戒しつつ、ゴーシュが呟く。
自分たちと、包囲する連中の外側には不自然な濃霧が発生しており、森全体を覆っていた。
「あなたたちは《黒曜の翼》ですね。四人とも配信で見かけたことがあります」
「おや、大勢のファンを抱えているミズリーさんにご覧いただけているとは光栄です。いかにも、私たちは《黒曜の翼》の一団です」
「霧を発生させたのも……」
「ええ、もちろん私たちがやりました。この霧は魔法で発生させた特殊性でしてね。これならば配信にも映らず、音も拾えません。私たちが中でどんなことをしようが分からないというわけですよ」
眼鏡をかけた男の言葉を聞いて、ゴーシュはわずかに眉をひそめる。
開会式の後に現れた、ジルコーニという男がオーナーを務めているという配信ギルド。
ゴーシュに突っかかってきただけでなく、過去にミズリーの姉であるメルビスを貶すような配信を行っていた集団である。
――他人を貶めて利益を得ることに躊躇も遠慮もない連中。
それはゴーシュたちのギルド《黄金の太陽》とは真逆の存在だった。
「あの強烈な刺激臭。おそらくさっきの針に塗ってあったのはネムリトゲバチから採取した成分だろう。俺たちを妨害しようというわけだな」
「ご明答。まあ、農家をやっていたゴーシュさんならそのあたりも知っていて当然ですか。完全に隙をついたはずだったのに防がれたのは驚きでしたが」
男は不敵な笑みを消さず、眼鏡の位置を直しながら呟く。
その余裕めいた態度から、何か策を講じていそうだなとゴーシュは男に対する警戒を強めていた。
「フフフ。他のチームを妨害してはいけないというルールはありませんでしたから、そういう意味では霧で満たさずとも良かったのですがね。最近の配信業界は視聴者の心象とやらも気にしなければいけませんから」
「配信者でありながら配信に映らないようコソコソするなんて。姑息な連中ね」
「そーだそーだ。パルクゥが狙われたのは別にいいけど、ミズリーちゃんやロコちゃんに手出しするのは許せんぞ」
「ギギは黙ってて」
「はい」
「とにかく、やるからには容赦しないわ」
言って、パルクゥは杖を構える。
ゴーシュたちも同様で、四人の男たちを迎撃しようと構えを取った。
「ルール上問題がなくても仲間を攻撃されて黙ってはいられない。そっちが戦いを挑もうというなら、迎え撃つまでだ」
「おやおや、これは誤解されているようですねぇ。私たちは別にあなたたちと戦おうとしているわけじゃありませんよ」
「何?」
「あなた方と共倒れするつもりはないということです。ジルコーニオーナーから受けた指示は、あなたたちを蹴落とし、かつ優勝することですから」
眼鏡の男は言って、パチンと指を鳴らした。
すると、突如として現れた土壁がゴーシュたちを覆いつくす。
土壁は分厚く巨大で、それはさながらゴーシュたちを捕らえる土の檻だった。
「ハハハハッ! それではお先に失礼しますよ!」
眼鏡の男は作戦が上手くいったと、仲間を引き連れてその場を後にする。
これでゴーシュたちは出てこれず、足止めを喰らう。
その間に自分たちはポイントを稼いで首位に躍り出る。
それが《黒曜の翼》を名乗る男の策だった。
「クハハ! やってやったぜ! さすがはリーダーの魔法だ!」
「ったりめえよ! リーダーはウチのギルドの中でもエース級魔導士なんだからな!」
「閉じ込められる前の連中の顔、見たか? きょとんとしちまって、動くことすらできねえでよ。お前たち甘ちゃんとは違うんだっての!」
「フフフ。奴らは大会が終わるまで籠の中の鳥です。こうなれば首位どころか1日目の予選通過すら危ういでしょう。ジルコーニオーナーにも喜ぶに違いありません」
いい気味だ。ざまぁみろ。
ぽっと出のギルドのくせして自分たちより上に行きやがって。
図に乗るなよ――と。
《黒曜の翼》の男たちは鬱憤を晴らせたことにご満悦の様子で、森を駆けていく。
連中からすれば、目の上のたんこぶを潰すことに成功した直後である。
興奮気味にゴーシュたちへの誹謗を口にしていたが、それも無理からぬことだった。
先程眼鏡の男が使用した魔法は大規模なもので、常人には決して破れない堅牢ともいうべき代物。
その土の檻に閉じ込められた者はどうしようもない。
しかし――。
「まったく。この程度の魔法が策だったなんて拍子抜けもいいところだわ。《ブレイク》――」
それはあくまで中に閉じ込めた者たちが常人だった場合である。
中にいたパルクゥが杖をちょこんと当てると、巨大な土の檻は呆気なく崩壊した。
「た、隊長! 土の檻が!?」
「なっ――」
背後から轟音がしたため、《黒曜の翼》の連中は足を止めて振り返る。
そして、それが命取りとなった。
「はっ」
「えい」
「ぱんち」
いつの間にか接近していたゴーシュ、ミズリー、ロコによって、リーダーの男以外の三人が叩きのめされる。
ゴーシュとミズリーは剣の柄で、ロコは素手で、それぞれ腹部を殴打すると、男たちはガクリと倒れ込んだ。
もちろんゴーシュたちは加減をしていたが、それでも歴然たる力の差があり、《黒曜の翼》は一瞬にして壊滅状態へと追い込まれる。
《黒曜の翼》にとって幸いだったのは、これが配信されていなかったということだろうか。
「う……うぁあああああ!」
「あっ、逃げました!」
「仲間を置いて逃げるなんて、ふとどきせんばん」
絶叫しながら森の奥へと走り出すリーダーの男。
完全に戦意を喪失しているようであり、それならば深追いしなくてもいいかとゴーシュは剣を下ろそうとした。
と、その時――。
「ぷぎゅっ!」
「え?」
妙な声を上げ、リーダーの男は顔から地面に倒れ込む。
顔が地面に擦り付けられて実に痛そうだったが、ゴーシュたちが目を見張ったのはそこではなかった。
一瞬の出来事だったが、高速の何かがリーダーの男の大腿に直撃し、転倒させたのだ。
「やれやれ、みっともねえ。戦いを挑むなら最後まで立ち向かえっての」
「フフ。気絶しちゃったみたいね」
その声は木の上から聞こえてきた。
そこにいたのは、銃を手にした赤髪の男性と、巨大な戦斧を持った少女。
どちらも、深い緑色の瞳が印象的だった。





