第77話 占い師の正体
占い師の女性の前に立ったゴーシュは静かに息を呑む。
単に占いをしてもらうだけのはずだが、フードの奥に除くエメラルドの瞳はミステリアスな雰囲気を纏っていて、何かを見透かされているようでもある。
「で、何を占い事は決まっとるか? 何でも占ってしんぜようぞ」
「ええ。俺にはこれしか思いつきませんでした」
「ほう? 面白い。では教えてみよ」
「はい」
言って、ゴーシュは占い師をまっすぐに見つめる。
その瞳は力強い意志の力を秘めており、これから告げる内容がゴーシュにとって真剣そのものであることを物語っていた。
占い師もその空気を感じ取り、ゴーシュが何を言うつもりなのかと期待感を持って待ち構える。
そしてゴーシュは自分の拳をグッと握り、はっきりとした声で言い放った。
「最近、ギルドの畑に新種の野菜の種を植えたんです。その作物の出来について占ってください!」
「…………」
思いっきり肩透かしを食らい、占い師の表情が白けたものへと変わる。
期待を返せと言わんばかりにジトッとした目つきのおまけ付きである。
「却下じゃ」
「ええ!? でもさっき、何でも占ってくれるって――」
「うるさいうるさい! もったいぶった末になんじゃそのクソつまらん占い事は! 普通そこはもっとロマンチックなやつとか重要そうなやつをお願いするべきじゃろうが! せっかくこんな場面を作ってやってるというに、空気を読まんか!」
「ええと、よく分かりませんが。畑の作物の出来は俺にとって重要なことで……」
「はぁ……。お主、ある意味大物じゃな」
そういえばこの男は農家をやっていたんだったかと、占い師は深く溜息をつく。
「それで、どうでしょうか? 新種の野菜の出来は」
「あーうん。良さそうじゃの。精霊祭が終わる頃には芽が出そうじゃ」
「よしっ」
結局占い師は律儀に言われた通りの占いをしてやることにして、その結果にゴーシュはいたく満足そうだった。
そうしてゴーシュとミズリーは礼を言って占い師の元を去ろうとする。
「ちょっと待てい」
と、占い師に呼び止められ、ゴーシュとミズリーの二人は何だろうかと振り返った。
「さすがにこのままじゃ味気ないしの。その男の方はもう一つ占ってやるとしよう」
「え、でも俺はもう特に占ってほしいものなんてないですよ?」
「お主には期待しとらん。儂が勝手に占うだけじゃ」
「は、はぁ……」
占い師にとっては先程の一連のやり取りが不満足だったらしい。
ゴーシュとミズリーが怪訝な表情で顔を見合わせる中、占い師は真剣な表情で水晶玉に手をかざしていた。
「ふむ。やはりの」
占い師は呟き、ニヤリと笑みを浮かべる。
そもそも何を占ってもらったかも分からないのだが、占い師にとっては面白い結果が出たようである。
「えっと、何か?」
「うむ。今後についてちょいと占ったんじゃがの。お主、どうやら精霊祭で大活躍するらしいぞ」
「大活躍?」
お祭りなのに大活躍とはどういうことだろうかと、ゴーシュは首を捻る。
一方、隣にいたミズリーはピンと来たらしく、目を輝かせた。
「きっと明日から始まる大狩猟イベントのことですよ、ゴーシュさん! そこでゴーシュさんが大活躍するってことではないかと!」
「ハハ……。だとしたら嬉しいけどな」
「ま、そこでのことかは断言できんがの」
占い師はそう言って、一つ咳払いを挟む。
「とにかくゴーシュよ。お主は常人とは異なる力を持っているようじゃ。ミズリーちゃんもそうじゃが、よほど微精霊に好かれとると見えるの」
「え?」
「もちろん本人の努力や日頃の行いあってのものじゃが、お主が太古の武術である四神圓源流を扱えておるのもそのあたりが関係してるのじゃろう。今回の精霊祭、お主のその力が鍵を握るじゃろう」
「ち、ちょっと待ってください。どうして俺たちの名前を知ってるんです?」
「私もさっき気になりましたけど。もしかして占い師さん、私たちの配信をご覧になってくれてたり?」
「ああ、それはの――」
ゴーシュとミズリーの問いかけに占い師が答えようとする。
その時、表通りの方からよく響く声が通り抜けてきた。
「あー! こんな所にいた! 探しちゃったじゃない!」
パルクゥである。
表通りで待っていると言っていたのに、いなくなっていたことに関してだろう。
少しお冠な様子のパルクゥが歩いてきて、そのパルクゥと手を握ったロコの姿も見える。
「ししょーとミズリーこんなとこにいた。これってもしかして『あいびき』ってやつ?」
「ち、違いますよロコちゃん! これには色々と事情が……」
占い師にからかわれた時と同じく、またもミズリーは慌てふためく。
ロコの方はパルクゥに色々と買ってもらったらしい。
リンゴ飴を片手に、先程別れる前に興味を示していた狐のお面を斜めに被っていた。
何ともお祭りらしい装備である。
「はは、良かったな。よく似合ってるじゃないか」
「ん。パルクゥが買ってくれた」
そう言ってロコは嬉しそうに尻尾を振っていたが、やがてゴーシュとミズリーの後ろにいる占い師に気づいたようだ。
「ししょー。あの人は?」
「ああ。精霊祭の催しで占いをやっていてな。俺もミズリーも占ってもらったんだ」
「へー」
ロコも占い師の異質な雰囲気を察したのか、じぃっと見つめながら耳をピクピクと反応させる。
と――。
「な、な……」
ロコの手を握っていたパルクゥが占い師を見て顔を引きつらせていた。
信じられないものを見つけたという感じで、パルクゥは言葉に詰まっている。
そんなパルクゥとは対照的に、占い師の女性は軽く手を挙げてにこりと笑みを浮かべていた。
「よ、パルクゥ。元気そうで何よりじゃ」
「な、何でエルミナお婆ちゃんがこんな所に……」
「パルクゥよ、その呼び方はやめろと言ったじゃろうが。まったく、久しぶりに会ったと思ったら失礼な奴じゃ」
そのやり取りでミズリーは何かに気付いたようで、慌てて占い師の方へと視線を向けた。
「ち、ちょっと待ってください。今、エルミナって言いました?」
ミズリーの言葉に、ゴーシュもロコも遅れて気づく。
その名前は、この世界に住む者であれば誰もが知っているものだった。
パルクゥが短く嘆息し、そして口を開く。
「そうよ。この人はエルミナ・アルアート。配信文化を世に広めた、時の大賢者様よ」





