第76話 恋占いと占い師の女性と
「えっと……」
ゴーシュとミズリーが入り込んだ裏路地は謎めいた雰囲気に満ちていた。
精霊祭の喧騒で満ちた表通りとは打って変わり、面妖とも神秘的とも取れる独特な空気感が漂っている。
その出処はゴーシュたちの前に佇む占い師だった。
「ほれほれ、何をぼうっとしとる。はよ占いたいことを言わんかい」
ゴーシュとミズリーは漂う不思議な空気に酔わされていたが、占い師から発せられた言葉で我に返った。
フードを目深に被っているため顔の全容は把握できないが、どうやら占い師は女性であるらしい。
話し方は老人のそれらしいが、声は高く澄んでいて、かなり若いことが窺える。
「占ってほしいことがあるからこんな人気のない裏路地に来たんじゃろう? それとも何か? 人前では見せられぬアレやコレやをしようと――」
「ち、違いますよ!」
赤面したミズリーが慌てて否定するが、その反応が面白かったのか期待通りだったのか、占い師の女性はフードの奥でくっくっと喉を鳴らしていた。
異質な気配を漂わせている割に、性格的にはどうやら気さくな人物らしい。
ゴーシュとミズリーは立て札に書かれていた占い料を支払い、一人ずつ占ってもらうことにした。
「まずはお嬢ちゃんからじゃ。ここからはプライバシーな内容じゃからな。待っている方は話が聞こえぬよう離れておれ」
占い師に追い払われ、ゴーシュは少し離れた場所へと移る。
ミズリーが何を占ってももらうのか気にはなったが、聞き耳を立てるのも野暮というものだろう。
ゴーシュはミズリーの占いが終わるまでの間、大人しく待っていることにした。
まず最初に占ってもらうミズリーが、少し緊張した面持ちで占い師の前に立つ。
「占い事ですか。どうしようかな」
「お嬢ちゃんならそうじゃのぅ。恋占いとかどうじゃ?」
「こっ――!」
またも赤面したミズリーを見て、占い師は満足気に笑う。
対してミズリーは目が泳ぎまくり、時折離れた場所にいるゴーシュをチラチラと見やっていた。
「ま、まあ占いといえばという感じの定番中の定番ですよね占い事としては一番人気と言っても良いかもしれませんし私もそうするべきでしょうか他に占ってもらいたいことも思いつきませんし占い師さんをお待たせするのも申し訳ないですし早く決めなくちゃいけないとですよねうんそうですねそうしましょうここは占い師さんのお勧めでお願いします」
何やら思い切り早口になったミズリーは、言い訳めいた言葉を並べまくる。
そして結局、ミズリーは恋占いをお願いすることにした。
「くっくっく。見んでも分かるし相手は聞かんでおくわい。では――」
占い師の女性が卓の上に置かれた水晶に手をかざすと、淡い光がぽうっと灯る。
使っているのは魔法だろうか、などと考える余裕は微塵もなく、ミズリーはただどんな結果が出るのかと固唾を呑んでいた。
「ふむふむ。ほうほう」
「ど、どうでしょうか?」
「結論から言うと」
「結論から言うと?」
「上手くいく」
「おお!」
「……かもしれん」
「ガクッ」
占い師が付け加えた最後の一言に、ミズリーは文字通り肩透かしをくらう。
「そんなに気を落とすでない。良い兆候が出ているのは間違いないんじゃ。ただ何と言うか、そういう対象として見られるまでにいくつか障害はあるかもしれんのぅ」
「そうですよね……。ま、まあ絶対に無理とか言われなくてホッとしました」
「それから、お嬢ちゃんはどうやらめっぽう運が良いらしい。豪運の持ち主と言っても良いくらいじゃ。これは重畳じゃぞ」
占い師の女性が告げた言葉に、少し肩を落としていたミズリーは顔を上げる。
確かに、ミズリーは運が良い。
以前行った「レアモンスター発見するまで帰れません配信」では、ゴーシュが300体近くの魔物を倒してようやく見つけたのに対し、ミズリーは僅か3体目で見つけていたほどである。
他にも商店街の福引が当たったり、ダンジョン探索の配信で偶然隠し宝箱を見つけたりと、ミズリーは何かと運が良いのだ。
そもそもずっと追いかけてきたゴーシュと、今では配信ギルドを作り、こうして一緒に祭りを回るようになっているのが良い証拠である。
「運と言うとオカルト的なものに聞こえるかもしれんが、この世界に存在する微精霊の働きが関係しているんじゃ。見えない力に助けられた、なんて話がよくあるが、あれは微精霊が助力した結果であることが多い。お嬢ちゃんもだいぶ微精霊に好かれとるらしいの」
「な、なるほど。それは凄くありがたいというか。でも、それって恋占いと関係あるんでしょうか?」
「大アリも大アリじゃ。よいか? 色恋事なんてのは、大半が巡り合わせじゃ。少しのすれ違いで上手くいかんかったりするし、ちょっとしたきっかけで好転するもんなんじゃ」
「そういうものですかね?」
「んむ。そもそも運が良くなけりゃ出会うことすらできんじゃろ? 今では配信で世界中が気楽に繋がれるようになったかもしれんが、それでも今ある縁というのは様々な奇跡の上に成り立っておる。出会うことができんかったら恋もへったくれもない」
「た、確かにそうかも」
「んで、お嬢ちゃんの場合は運がめちゃくちゃに良い。これは恋愛にとっての最強スキルと言っても過言ではない。さぞ大きなアドバンテージが得られるじゃろう」
「おおー」
さすがは占い師ということなのだろうか。
徐々に乗せられてミズリーの興奮度は高まっていく。
「そうそう。運が良いといえば――」
占い師はちょいちょいとミズリーを手招きする。
耳を近くに寄せろ、ということらしい。
ミズリーが言われた通りにすると、占い師の女性は身を乗り出し、そっと耳打ちした。
(例えば、さっき表通りの方で密着した状況になったのもそうじゃ)
(――っ! ななな、何でそれを!?)
(あんな読み物の中でしか起こらんようなベタな展開、普通はないじゃろ。あれこそミズリーちゃんの運が良い証拠じゃ)
(うぅ……。ってあれ? 私、名前お伝えしましたっけ?)
占い師の女性は答える代わりに笑みを浮かべ、ミズリーから離れる。
「とまあ、これからもその幸運体質がプラスに働く可能性は高い。……が、それを活かすためには本人のアクションも重要じゃ。『最後の一歩は自分で飛び越えろ』ということじゃな」
「最後の一歩は自分で飛び越えろ……」
占い師の言葉が色々と気になりつつ、思案顔になるミズリー。
と――、占い師の女性がパンパンと手を叩いた。
「さあさあ、とりあえず一人めはこれで終わりじゃ。次はゴーシュの番じゃ」
その言葉に、ミズリーは占い師の女性をじっと見つめる。
(やっぱりこの人、私たちのことを知ってる? 配信を見てくれているリスナーさんでしょうか? 何か、それだけじゃないような気も……)
怪訝な顔を見せるミズリーだったが、結局明確な答えは出ない。
そうして、ミズリーと入れ替わりになったゴーシュが占い師の女性の前に立つ。
「さて、それじゃ始めるとしようかの」
占い師の女性はそう言って、フードの奥にニヤリと笑みを覗かせていた。
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