第71話 喋る帽子の暴露
ゴーシュの質問に言い淀んでいたパルクゥ。
そこに割って入ったのは、パルクゥが被っている大きめの魔女帽子だった。
ゴーシュたちが突然喋り出した帽子に目を白黒させる一方、パルクゥは慌てふためいている。
「ちょっとギギ! 何勝手に喋ってんのよ! 人前では喋んないでって言ってたでしょ!?」
「あ? 別に良いじゃねえか。どうせいつかはバレるって。そんなら早めにオレ様のイケボで挨拶しとくべきだろ」
「このクソ生意気帽子は……」
どうやら帽子には名前が付けられており、パルクゥはギギと呼んでいるらしい。
両者が砕けた感じでやり取りをする中、ゴーシュはパルクゥに尋ねることにした。
「パルクゥ、その帽子は一体……」
パルクゥとしては帽子が人の言葉を喋ることは伏せておきたかったことらしい。
が、ここまでくれば説明するしかないと思ったのか、諦めた感じの溜息を吐き、それから説明を始めた。
「まあ、分かりやすく言えば私の使い魔ね」
「使い魔?」
「そ。普通は生き物なんだけどね。《ミストの里》の中でも帽子が使い魔になったのは私くらいのものよ」
「え? 《ミストの里》?」
パルクゥが溜息をつきながら言った言葉に、ゴーシュは思わず聞き返す。
それは少し後ろで聞いていたミズリーも同様で、ゴーシュと揃って目を見開いていた。
「ししょー。《みすとの里》って何?」
一方で地名に聞き覚えのなかったロコが、ピンと耳を伸ばしながら聞いてくる。
「あ、ああ。一言で言えば魔女の里だな。とはいえ俺も、解説されてる動画をチラッと見たことある程度だが」
「ふむふむ」
「《ミストの里》に住む人は皆、魔法の扱いに長けていると聞く。噂によると配信文化を世に広めた大賢者様もその里の出身なんだとか」
「おー。それじゃパルクゥも大賢者さまのお知り合い?」
「フフン。おば…………コホン。エルミナ様には小さい頃魔法を教わったからね。私にとってエルミナ様は魔法の先生みたいなものよ」
「そうか、大賢者様から魔法を……。どうりで強力な魔法を扱うわけだ」
パルクゥの話を聞いたゴーシュがなるほどと頷く。
――エルミナ・アルアート。
革命と呼ばれる出来事をいくつももたらしてきた人物である。
世に配信の文化を広めたのもその一つとされており、かつて非常に強力な魔物が跋扈していた時代から生きているとされている。
大賢者という名に相応しい、まさに傑物と言える人物だった。
そんな人物に師事していたとなれば、パルクゥの実力にも納得がいくというものだ。
「とにかく、パルクゥの強さには合点がいったよ。それで、そのギギという帽子のことなんだが……」
「お? 何だ、ようやくオレ様の話かよ。待ちくたびれちまったぜ」
「そ、それは悪かった」
パルクゥの被った魔女帽子が「ふぃー」と溜息をつく。
なんとも不可思議な光景である。
「さっき話した通り、ギギは私の使い魔でね。《ミストの里》の魔女は成人したら使い魔を持つ決まりなんだけど、何で帽子が使い魔になったのかは私も分からないわ。猫とか鳥とかが良かったのに」
「ま、いいじゃねえか。オレ様みたいなナイスガイが相棒になってやったんだからよ。そこは素直に喜んどけよ」
「素直も何も、普通に残念がってるんだけど。というかナイスガイってどこにそんな要素あんのよ」
「ほら、ここの口周りのシワとかいい味出してるだろ?」
「分かんないってば」
またしてもパルクゥとギギによる珍妙なやり取りが交わされる。
ここだけ配信しても面白そうとミズリーは思っていたが、まさしく少女と帽子の会話にリスナーたちも盛り上がっていた。
【朗報。パルクゥさん、ただでさえ属性盛り盛りなのに奇妙な帽子までつれてくる】
【この帽子、生意気であるがどこかクセになるでござるな】
【帽子が喋ってますわー! 不思議ですわー!】
【なんつーか、コント見てる気分w】
【ロコちゃんが興味津々に見てるの可愛いw】
【ミズリーちゃんも目を輝かせてるぞw】
【あれは絶対に配信のネタになると思ってる目w】
【口悪帽子、俺もなんか好きだわw】
【それにしてもパルクゥは《ミストの里》出身だったか】
【ミストの里って熟練の魔女もたくさんいるとか】
【フフ、だからあんな強力な魔法が使えるわけね】
【ひっそりと暮らしてるとかで、人里ではあんまり見かけないらしい】
【ところで試験の方はどうなった?】
【大剣オジサンが困惑しているw】
【話が逸れたまま戻ってこないw】
「ところでパルクゥ。そろそろさっきの質問に戻りたいんだが、君は何故俺たちのギルドに入りたいと思ったんだ?」
そういえば元はその話だったなと、ミズリーもロコも、パルクゥの方へと視線を向ける。
それを受けて、やはりパルクゥは答えにくい質問だったのか、モジモジしてしまう始末だった。
「しゃーねーな、オレ様が答えてやるよ。ズバリ言うとだな、パルクゥはアンタの大大大ファンなのさ」
「え? 俺の?」
「ちょっ――!?」
ギギが言って、ゴーシュは困惑し、パルクゥは顔を真っ赤に染める。
パルクゥが慌ててギギの口を抑えようとするが、ギギはそれをひょいひょいと躱していた。
傍から見ると、自分の帽子を掴もうと暴れている変な少女である。
「いやー、コイツってば凄いんだぜ? 飯を食う時はいっつもアンタの配信を見ててな。いや、それだけじゃねえ。一日の中でアンタの配信見てねえ時間の方が短えくらいだ」
「そ、それはギルドの配信内容が面白いってだけで! ゴーシュさん目当てってわけじゃ――」
「お前、大剣オジサンが農家やってた時の過去配信まで漁ってたじゃねえか。あげくの果てには、大剣オジサンが過去に勧めてた野菜まで植えたりしてよ」
「あれは魔法薬の調合に必要だから調べてたの! 決して動画に影響されたとかじゃないんだから!」
【草生える】
【パルクゥ、ツンデレ属性も追加w】
【まあ大剣オジサンの配信面白いからな。気持ちは分かる】
【俺も農家時代の配信見つけて漁ったことあるわ】
【フフン。私もゴーシュおじ様の勧めたお野菜は網羅しておりますわ】
【とりあえず微笑ましい動機でホッとしたw】
【当のパルクゥはめっちゃ慌ててるけどなw】
【魔女の里にまで影響もたらす大剣オジサンw】
【帽子グッジョブ】
【畜帽子w】
【暴露系魔女帽子は面白すぎるw】
【深刻なパルクゥのプライバシー侵害w】
「ふふ。パルクゥさんが私並みのゴーシュさんファンだったなんて」
「私もパルクゥとおんなじ。ししょーの動画はたくさん見た」
「ハハ……。嬉しいけどちょっと照れるな」
ジタバタするパルクゥを見ながら、ミズリーとロコは微笑ましげに笑う。
一方でゴーシュは気恥ずかしそうに頬を掻いていたが、やがてミズリーやロコと顔を見合わせ、笑顔で頷き合った。
「まあ、そんなわけでよ。パルクゥの奴はアンタらと一緒に配信がしたいんだと。動機ってのはそういうんで良いだろ?」
「ああ、そうだな」
ギギの問いに対して、はっきりと答えるゴーシュ。
パルクゥに対して伝える言葉は既に決まっていた。
「それじゃパルクゥ、試験は終わりにするよ。どうか俺たちのギルドに入ってほしい」
「あ……」
ゴーシュに告げられ、パルクゥは思わず声を漏らす。
そして――。
「フ……フフン。それじゃこれで決まりね。これからお世話になるわ!」
パルクゥは努めて平静を装おうとしたが、喜びは全然隠しきれていなかった。
そうして、選抜試験は無事終了。
ゴーシュたちのギルドは新たなメンバーを迎えることとなるのだった。
◆◆◆
選抜試験が終わり、しばらくして。
解散して誰もいなくなった岩場地帯に、一人の男がやって来ていた。
「ふむ……」
男の外見は小柄な老人と表現するのが正しいだろうか。
白ひげを生やし、いかにも寡黙そうな見た目である。
但し、その体は筋骨隆々とした鋼のような肉体であり、小さな体躯に似合わない斧を所持していた。
――ドワーフ族。
男の特徴的な外見は、まさしくそれだった
「残念ながら、もう終わっちまったらしいの。来るのが遅すぎたか」
ドワーフの男はそう呟き、残念そうに息を吐いた。
「まあ仕方ない。また機会はあるじゃろ」
また言葉を呟き、ドワーフの男は来た道を引き返そうとする。
岩場地帯から引き返し、街道から外れた草原へと。
ドワーフの男が歩くその傍らには、来る途中で倒した魔物の屍がいくつも転がっていた。





