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第69話 風のいたずら


「どう? これで一次試験はクリアでしょ?」


 パルクゥが魔法を使用し、ロコを場外に出した後のこと。


 皆が息を呑む中、パルクゥは魔女帽子の奥に得意げな笑みを覗かせた。


「す、凄い……。ロコちゃんをあっさりと場外に出しちゃうなんて」

「あれが彼女の使う魔法か。やっぱりかなりの使い手だったみたいだな」


 ミズリーとゴーシュが感心していると、その声が聞こえたパルクゥは「どうよ」と言わんばかりに胸を張る。


 一次試験の結果はリスナーたちにとっても衝撃的だったようで、コメント欄には勢いよく文字列が流れ出した。


【おぉおおおお! すげー!】

【あれが魔法か!】

【へぇ、面白いわね】

【凄いですわー! どっかーんって感じでしたわー!】


【ドヤ顔いただきました】

【見ろよ。満面の笑みだぞw】

【調子乗ってるw でもそこがちょっとカワイイw】

【ポンコツなのに強い! なんかこの子推せるわw】

【くっ……。さっきまでイジられてたのにカッコいいじぇねえか】


【朗報:残念系魔法少女、強かった】

【死角からの攻撃でござるか。拙者があれをやられたら避けられるであろうか……】

【しかしロコちゃんを吹き飛ばすって凄いな】

【ロコちゃん悔しがってるw 可愛いw】


【俺、魔法って掃除するのに使うものだと思ってたわ】

【他にも魔法って使えるんかな? 見てみたい】

【↑使えるんじゃね? 最初は杖で空飛んできたし】

【確かに。ということはこの後の試験で他の魔法も見られそうだな】

【オラ、ワクワクしてきたぞ】


「ぐぬぬ、くやしー」

「ま、今回は円の外に出せばオーケーってルールだったからね。とりあえず手っ取り早い方法でいかせてもらったわ」

「でも、一次試験はごーかくだね。次はミズリーの試験」

「二次試験ってわけね。望むところよ」


 そうして、パルクゥに対してミズリーが担当する二次試験が課されることになった。


 その試験の内容はというと……。


「ズバリ! 『鬼ごっこ』です!」


 ミズリーは意気揚々と宣言した。

 もはやルールの説明も不要な課題に、パルクゥはなるほどと頷く。


 ミズリーはレイピアを使った戦闘が得意であるが、元々かなりのスピード型と言える。

 以前クリスタルゴーレムという強敵を相手にした時など、ただの一撃ももらうことなく凌ぎきった実力を持つ。


 身のこなしや素早さもゴーシュのお墨付きというレベルで、そんなミズリーを捕まえるという課題は見ごたえのあるものになるだろうと、誰もが予想していた。


「フッフッフ。そう簡単に捕まりませんよ」

「フフン。そう簡単に逃げ切れると思わないことね」


 ミズリーとパルクゥ、二人の少女が不敵な笑みを浮かべる。

 互いに自信あり、という感じなのだが「美少女二人がドヤ顔し合ってるの面白いw」と一部のリスナーたちに好評なようだった。


「配信を見ていたからアナタの素早さはよく知ってるわよ、ミズリー」

「おお、それは感激です」

「ちなみに前から疑問に思ってたんだけど、何であんなに早く動けるの? アナタ、冒険者やってたってわけでもないわよね?」

「たはは。その、小さい時から野山を駆け回ってまして。あと、お父さんやお母さんが出かけるのによく付いていったりとかしてて、そのせいですかね」

「そ、そう。やんちゃだったのね」


【わんぱく少女ミズリーちゃん】

【なんか目に浮かぶわw】

【それだけであんな早く動けるものなのw】

【幼い頃の習慣って大事】


【私また何かやっちゃいました?】

【無自覚に強いミズリーちゃんw】

【わ、私もこれからお庭を走りましょうかしら……】

【↑公爵家の庭って広そう】


「まあいいわ。それより試験やりましょ」


 ミズリーの天然な一面にリスナーたちが盛り上がる中、パルクゥが気を取り直して声を掛ける。


 ミズリーもそれに従い、二人は少し離れた位置につくことになった。


「それじゃあゴーシュさん、開始の合図をお願いします!」

「ああ、分かった」


 二人の間にゴーシュが立ち、ロコや既に試験を終えた応募者たちが固唾を呑んで見守る。


 普通に考えれば、ミズリーに追いつき捕まえることは至難の業だろう。

 しかしパルクゥには魔法がある。


 どのようにしてこの試験を攻略するつもりなのかと、リスナーも関心を寄せていた。


「では、スタート!」


 ゴーシュの宣言とともに、ミズリーはパルクゥから離れた方向へとダッシュする。


 狩りから逃れる草食動物を思わせる素早さで、ミズリーはぐんぐんとパルクゥとの距離を離していく。


 しかし、パルクゥに焦った様子はない。

 静かに杖をかざす姿を見て、次はどんな魔法を使うつもりなのかと注目が集まる。


「いくわよ! 《サイクロン》――!」


 パルクゥが唱えると、ミズリーの進行方向に突風が発生した。

 それは竜巻にも似た形状で、ガリガリと地面を削る様子からも相当な威力を兼ね備えていることが窺える。


「くっ――」


 結果として、パルクゥの放った風の魔法はミズリーの行く手を阻むことに成功した。


「ミズリー、覚悟しなさぁあああい!」

「ま、マズいです! このままじゃ追いつかれ――ってアレ?」


 風の魔法で足止めされている隙に捕まってしまう。

 ミズリーはそんな焦りと共に振り返ったのだが、それはまったくの杞憂(きゆう)だった。


 パルクゥは必死な感じで走っていたのだが、ミズリーのいる場所まではまだかなりの距離がある。

 というより、パルクゥの走り方はどこか危なっかしく、ドタバタと手足を振る様子は走っているというより地上で溺れているようだった。


【おっそw】

【まだ全然遠いぞw】

【そこはさくっと捕まえるところだろw】

【悲報、パルクゥちゃん運動音痴】


【残念系魔法少女、やっぱり残念な子だった】

【ある意味期待を裏切らないw】

【パルクゥ、俺恥ずかしいよ……】

【生まれたての子鹿レベルw】


【きっとあれでござるな。魔法に慣れてて普段は運動不足なんでござろうな】

【日頃の行い(物理)】

【やっぱり運動は大事ですわね……】

【大剣おじさんに朝の運動習えよw】


【というか来た時みたいに杖で飛べばいいのに】

【↑あれじゃね? 連発して使えないとか条件あるんじゃね?】

天才ポンコツ

【なんだろう、このポンコツ具合がクセになってきたw】


「と、とりあえずチャンスです! 今のうちに別の場所へ逃げちゃいます!」


 パルクゥがまごついている隙に、と。


 ミズリーは進路を変更して走り出そうとしたのだが、そこで予想外のことが起きた。


「きゃあっ――!」


 パルクゥの魔法で発生していた風の影響で、ミズリーのスカートがふわりとめくれたのである。


「あわわっ」


 慌てて両手でスカートを抑え、狼狽えるミズリー。


 幸いにも配信画面にその醜態が映り込むことはなかったが、現地にいた者、特に目線の低いロコは別だった。


「ぴんく」

「ろ、ロコ、言わなくていいから!」


 ロコがぼそりと呟き、隣にいたゴーシュは慌てて止める。


 一方でミズリーは分かりやすく赤面し、完全に足が止まっていた。


 結果――。


「その……。なんかゴメン」

「あ、あうぅ……」


 追いついたパルクゥが申し訳無さそうに、涙目となった鬼の肩を叩く。


 そうして、ミズリーはぷしゅうと空気の抜けた風船のようにしぼみ、その場にへたり込むこととなった。


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「パルクゥ、俺恥ずかしいよ」もしかして作者さんは35P?
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