第66話 ロコの一次試験と参加者たち
「はい、どーん」
「どわぁああああ!!」
選考会が開始されてからしばらくして。
ロコが担当を務める一次試験は折り返しに差し掛かっていた。
「もいっちょ、どーん」
「のわぁああああ!!」
ゴーシュたちのギルドに入るためと、意気揚々に挑む参加者たちだったが、怪力を誇る獣人族というのは伊達ではない。
参加者たちは一人、また一人と、ロコの張り手によって突き飛ばされていく。
未だに通過者は一人もおらず、ロコを円の外に出すことはおろか、開始位置から動かすことすらできていない状況である。
本来、配信で変わり映えしない状況が続くのはマズいのだが、選考会配信を視聴するリスナーたちは大いに盛り上がっているようだった。
【ロコちゃんすげぇw】
【怪力ケモミミ幼女が本気を出した結果】
【↑さっき怪我しないように手加減してるって言ってたぞ】
【↑マジかよ……】
【相手を突き飛ばす時の掛け声がお可愛いですわ~!】
【↑すごく同意】
【ロコちゃんの独特な言葉遣いが今日も人気】
【なんかほんわかするー】
【斬新な癒やし系動画】
【人が吹き飛ばされていく癒やし動画とはな】
【あ、また参加者が星に……】
【見ろ、人がゴミのようだ】
【まあ戦闘経験ありの人対象だからそこまで危険はないんだろう。たぶん】
【↑何人か悶絶してた気が……】
【てかこれまで通過者ゼロ? ハードル高すぎん?】
【配信としては面白いから無問題】
【フフ、楽しそうね。私も参加すれば良かったかしら】
【ロコ殿が拙者の国のスモウに参加したらとんでもないことになりそうでござるな】
【参加者の人たちも頑張ってほしいが……】
【同時接続数:836,011】
リスナーたちの打ち込むコメントも盛況で、ロコの無双っぷりに感心する者や何故か不思議と癒やしを得る者、参加者たちを応援する者など様々である。
一方でロコの行う試験を遠巻きに見ていたゴーシュとミズリーは、二人揃って浮かない顔となっていた。
「うーん、ちょっと難しすぎましたかねぇ。ロコちゃんのパワーが凄すぎて、クリアする人が出てきません」
「とはいえロコも無敵ってわけじゃないからな。体は軽いから、攻撃を当てることができれば円の外に出すことはできそうだが」
「もし全員落ちちゃったら再試験も検討した方が……。って、あれ?」
次の挑戦者が現れ、それを見たミズリーが声を漏らす。
参加者の列から歩み出たのは赤髪の青年で、見るからに軽薄そうな雰囲気を放っていた。
「アハーハー! 次は僕がチャレンジしちゃおうかな! ミズリーちゃんファンクラブの会長に就任した、このウェイスがね!」
ウェイスと名乗った青年は長髪をわざとらしく掻き上げ、これまたわざとらしく、ゴーシュとミズリーがいる方に向けてバチッとウインクする。
ゴーシュとミズリーがギルドを立ち上げる時にナンパ配信と称して絡んできたり、そのお詫びといって高級レストランのチケットを譲ったりと、何かと縁のある青年だった。
「お、あれはウェイス君じゃないか。応募してたんだな」
「あれぇ? 私、お断りしてなかったでしたっけ?」
ミズリーが首を傾げながらそんなことを言うので、ウェイスはがくりと肩を落とす。
「い、いや、ミズリーちゃん。ちゃんと本試験に参加できるって連絡返ってきたよ? てっきり、僕のアツいパッションが認められたと思ったんだけど……」
「うーん。間違えて送っちゃたのかもしれないですね。人数が多かったですし」
「えぇ……」
「だってチャラ男さん、ノリが軽いというか、悪い意味で派手というか。あんまりイメージ良くないでしょうし」
「ひどっ!?」
ミズリーの辛辣な言葉を受けて涙目になるウェイス。
それはそれで面白い光景だったのでリスナーたちもウェイスのことをイジっていたのだが、ゴーシュがそこに助け舟を出した。
「まあまあミズリー。せっかく来てくれたんだし、試験を受けるのはいいんじゃないか?」
「確かに私のミスっぽいですし、ここで駄目というのもさすがに不義理ですね。すみませんチャラ男さん、頑張ってください」
「オーケイ! 僕の華麗なチャレンジを見てておくれよ、ミズリーちゃん!」
その1分後――。
「てい」
「ぎゃっふーん!!」
ウェイスは華麗に吹き飛ばされていった。
「まあそうなりますよね……」
ミズリーが深い溜息をついて、ロコは変な人だったなと首を傾げる。
結局、選考会の配信を見ていたリスナーたちは盛り上がっていたが、通過者は未だ現れなかった。
***
一方その頃。
選考会の会場から遠く離れた、とある一族が住まう辺境の里にて。
「わぁあああああっ! 寝坊したぁあああああっ!!!」
一人の少女の絶叫が、里中に響き渡っていた。