今度こそ本当に
件名:海外留学について
吉野くんお久しぶりです。 ゼミの北方です。 海外留学の件についてお知らせすることがあるので・・・・
僕達が通っている大学には海外の学校と交換留学制度があり毎年何人もの人が留学に行っている。
留学の期間は半年から一年程度で単位も三十単位貰え、色々な刺激をもらいながら勉強ができる。
他の大学は知らないがうちの大学はアメリカの夢の国での研修もあるため夢の国が好きな人が勉強目的ではなく応募するので、教授からの推薦やTOEICの高得点順で二十名ほどが選ばれる。
僕も心絆さんも選ばれたことは無いが、昨年吉野先輩は推薦されていたみたいだ。
前回は適当な理由をつけて辞退したみたいだが、今回もし選ばれていたら前回のドッキリの時に海外留学の話を出していたしどうするのだろうか。
「お久しぶりです」
「見ないうちにおおきくなったのお」
親戚のおばあちゃんかΣ\(゜Д゜ )
最近ではガヤやその他大勢だけではなく主人公を何人か担当させていただいていたりしていて青星声の撮影に来るのは溜め録りしてから三ヶ月ぶり。 今日は九月二十三日。 秋分の日。
心絆さんとは毎日メールはしているが、お互いのオフが重ならなすぎて実質会うのは二ヶ月ぶり。 久しぶりに会えたことが嬉しすぎて心絆さんを抱きしめようとする。
しかし、心絆さんにアメフトやラグビーみたいにタックルされるのかと思ったと冗談を言われながら華麗にかわされた。
まあそんなことはどうでもいい。
今日はどんな動画を撮るのかな?
「拓真も来たし、撮るぞ。 しゃぁ〜! どうも皆さんこんばんは青星声のココナッツと」「ソラトと」「ミズタクだ」
あれ? いつもなら今日撮る動画の説明をしてから撮るのに今日はいきなり撮るんだ。
もしかして重大発表とか?だから、僕の素を撮りたいから説明なかったのかな?
「今回はミズタクが久しぶりに帰ってきたということで近況報告とかも気になるし、三人でカレーでも食べながらフリートークしましょう」
あれ? よみが外れたな。 でもカレー食べながらフリートークなら説明もいらないよね。
「いいですね! 僕も久しぶりなんで色々話したいですし」
録画を切ってカレーの準備を始める。
手伝おうと立とうとすると今日は私に任せなさいと心絆さんが吉野家の台所へと向かった。
「今日は何本くらいとる予定なんですか?」
久しぶりだからといって特に何を話そうとも考えていなかったが沈黙になるのはまずいと思って吉野先輩へ質問を投げかけてみた。
「・・・・」
あれ? 無視。 もしかして聞こえていないのかな?
「今日は何本くらいとる予定なんですか?」
「・・・・」
あれ? やっぱり無視されたよね。
「よ、吉野先輩?」
顔の前で手を振るとビクッと体を動かしすました顔で「どうした?」と聞かれた。
どうしたはこっちのセリフですよ・・・・。
撮影中もどこか上の空な吉野先輩。
何かあったのだろうか?
「久しぶり。 夏休みは楽しめたかい? そうか良かった。 動画も上がったら毎回チェックしているよ。 まあ前置きはいいだろう。 それでどうするんだ?」
吉野空翔は三年生に進級前だかもう内定を獲得している。
まだ、書類とかは出してはいないので単なる口約束なだけではあるが。
なぜ、口約束でも内定を獲得出来たかと言うと北方教授が起こした会社に就職するからだ。
だからインターシップにもいかなくても就職が可能なのだ。
そのため海外留学に行ってもなんの問題もない。
「・・・・僕にはYouTuberの仕事がまだあるの・・・・で」
「そうは行っても一度は行ってみたいんだろ。 留学に」
空翔は何も言い返せなかった。
「しゃぁ〜! どうも皆さんこんばんは青星声のココナッツと」「ソラトと」「ミズタクだ」
今日は十月七日。
「今日は二人羽織をして行きたいと思います」
コンビニでおでんが販売開始したからってなんでまた二人羽織なんかを。
「グッパで別れて一人になった人が具を選択。 残りの二人で二人羽織ややる感じでやりますか」
グッパをすると一発で
ミズタク・・・・グー
ココナッツ・・・・パー
ソラト・・・・パー
に分かれた。
「それじゃあどっちが前で指示係をやるんですか?」
公平に分けるためにじゃんけんで勝った方が前になるそうだ。
「じゃんけん・・・・ぽん」
結果はソラトさんが勝ったため前はソラトソラトさんに決まった。
二人羽織の準備が出来たところで僕がおでんの具で『こんにゃく』を選んだ。
「では、いただきます。 ちょうどコンビニのこんにゃくが食べたったんだよね。 箸を持って、あっ! こんにゃくが逃げちゃうな。 おしぃ〜。 後ちょっとなのに〜。 よし。 掴めたぞ。 いただきます」
なんか今日のソラトさん棒読みな気がするな。なんか前回同様上の空な時もあるしどうしたのかな?
と僕もボーッとしている大変なことになっていた。
「す、ストップ。 ストップ。 ナッツさん。 落としていいから一回手を離してください。 てか、ソラトさんも熱いなら熱いって言ってください。 これ、ドッキリとかじゃないですよね? 火傷しますよ」
ナッツさんが持っていた熱々のこんにゃくはソラトさんの頬にずっと当てられていたため頬が赤く少しやけどのように腫れていた。
急いで氷を持ってきて頬に当てた。
頬に氷があって初めてソラトさんは「冷た!」と体をビクッと動かした。
「あれ? なんで氷を当てられてるんだっけ?」
「え? 空翔本気で言ってる?」
「うん」
ソラトを除いたふたりが氷のように固まった。
カメラを止めた。
「一旦休憩しようか。 ね!」
休憩中は誰も一言も喋らなかった。
休憩明けにもう一度二人羽織を行い、今度はナッツさんが前でソラトさんが後ろになった。
ソラトさんはナッツさんの指示を聞かずにさつま揚げの断面を口に当てながら動かなくなっていた。
ナッツさんは二人羽織をしているため自由が気かず首を動かしているが全くよけられていない。
初めはわざとやっているのかと思って放っていたがわざとではなさそうなので慌てて二人を離した。
「もう。 遅いよ」
涙目で僕に怒り出したがごめんなさい。 ご褒美にしか見えないです。
「それはもういいとして空翔。 今日どうしたの?」
「この前から変ですよ。 何かあったなら相談乗りますよ」
空翔は首を横に振って何でもないと答える。
「何でもなくない。 私たちじゃもしかしたらなんの力にもなれないかもしれないけどお節介焼かせて」
それでもなお、空翔は首を横に振って何でもないと答える。
「じゃあ私たち解散だね」
心絆さんも本気で言った訳では無いだろう。 本当にただのお節介だとしても話を聞いてあげたいから言っただけだと思う。
「本当にそうかもね」
「本当にそうかもねってどういうことですか?」
少しの沈黙が続いた。
「本当に解散なら行きやすいよね」
どういうことかを聞くと、すんなりと海外留学について全てを話してくれた。
「同じドッキリをしている訳では無いよ・・・・ね?」
「僕は何も知らなかったです」
「それで、空翔はどうするの?」
空翔は口をギューッと結んだ後にこう言った。
「解散するなら行こうかな。 行くか行かないか悩むってことは行きたいって気持ちが心のどこかにあったんだと思うし」
「解散しないなら」
「いや、行く。 俺はここが・・・・。 青星声が好きだから昨年も教授からの推薦を断ってた。 けど心絆はちがかったんだね。 簡単に解散とか言うんだから」
空翔はスマホを取って教授に連絡をとろうとした。
「まって。 私も青星声好きだよ。 ただ、解散を口にしたのは空翔の悩みを聞きたかったから。 だから・・・・」
「だからなんだよ。 そんな理由で解散だなんて口にしたのかよ」
僕は二人が喧嘩する所を初めて見た。
高校からお世話になっている先輩方でいつも仲が良いところしか見てこなかったからどうすればいいのか分からずオロオロしてしまっている。
「もう。 そんなこと言うなら勝手にすればいいじゃん。 勝手に海外留学にでもなんでも行ってきなよ。 もう知らない」
心絆さんはそのまま吉野先輩の家を飛び出してしまった。
「勝手にさせてもらうよ」
それから日は立ち吉野先輩は半年間、海外留学へ出発した。
青星声は溜め録りをしていた分が尽きるとその後は動画を投稿しなかった。
今度こそ本当に解散なのだろうか。




