学園探索(3)
葵「え…それでその窓にキスしてる妄想変態生物はどうしたんですか?」
リュ「それがどういう訳か、その生物は2階の窓に消えていったよ(…妄想変態生物?)」
それから数分して葵が魘され始めて起きたという説明を受け納得する。
しかし、今の話を聞いて疑問に思った事があり、疑問の対象となっているソルと龍の方を見る。
葵「あの、今の話だとソル君と龍さんは怪我した筈ですけど、その…怪我が見あたらないのですが」
二「あ~、実はね、保健室にある薬品を調べてみたところ…なんと1種類しかなかったんだ~」
ニッコリはゆっくりと落ち着いた口調で言った。
葵はぜんぜん理解できていなかったが、何も言わず話を聞く。
二「その薬品というのが凄い早さで傷を治しちゃったんだ~。流石ゲームの世界、何でもありだよね~」
ニッコリは名前の通りいっつもにっこりとしていたが、こんな危機的な状況であっても変わらない精神力に葵は感心する。
実際、ここに来てから全くといっていいほど心が乱れていない者は、最初にラボメンという存在を創設したメンバー達だった(みけを除いて)。
しかしここで葵はここで違和感を感じた。
“何故ラボメン創設者全員がこのチームに揃っているのか”
AIの話通りだと他のラボメン達もチームに分けられてこの世界を探索している事になる。
だから何故、奇跡的にもラボメン創設者達が1人も欠けることなく同じチームになれたのか気になったのだ。
もちろん偶然という事もありえる。
しかし偶然ではなく誰かによる意図的なものだったとしたら…。
葵は嫌な悪寒を感じ、夢でみた存在を思い出す。不気味な雰囲気のラボメンを。だが夢だったということもあり顔が思い出せない。
黒「ん?どうしたの葵さん?怖い顔しちゃって」
そこで葵は我に返る。
周りを見るといつの間にかこれからの行動方針を話合っていた。
リュ「まだどこか気分が悪いなら休憩してて大丈夫ですよ」
葵「あ、大丈夫です。少しその…緊張してしまって」
そんな葵の言葉にその場のラボメンは少しだけ笑い口々に言った。
「フォローするから」と、「守るから安心しろ」と、「仲間だから大丈夫」と。
そんな優しいラボメンの言葉に葵のさっきまでの疑問は消える。
葵「(あぁ、私はこんなにも良い仲間に出会えたんだ…私は馬鹿者だな、仲間を疑うなんて…皆をこの命に代えても守りたい。絶対に)」
数分間の話し合いにより1階にある普通教室とは異なる部屋が見つかり次第そこに入ることとなった。
βから聞いた話だとそういう場所にはたいてい何かがあるということだった。
それを聞いた多々羅は「安全かつ効率良く攻略するなら特別なアイテムなどは取っていった方がいい」と提案した事もあり、どこにどんな教室があるかも分からなかったため、この行動方針となったのだ。
そして、運がいいことに廊下のゾンビ達はいつの間にか消えていた。
未「さっきのようにがむしゃらにいっても厳しい状況になるだけだから静かに行こう…龍、リュックに結構な量の薬品入れてたけど重くない?」
龍「ああ、不思議とこのリュックに入れると重さを感じないから動きに支障はない」
全員の状態が大丈夫なのを確認し、ソルはドアの前に突き刺した鉄筋を引き抜き静かに開ける。
通路を確認すると予想してた通り少しだけゾンビが徘徊していた。
βは言っていた、あれに見つかるとどんどん仲間を呼び寄せるから見つからないように行動した方がいい、と。
しかし、ラボメンは今はとても危険な状況のため犠牲者を少なくするのにそんなこそこそと行動するのは躊躇われた。
そこでラボメンが出した答えが“気付かれる前に排除する”だ。
幸い『フェンリルの怒牙』は発砲音が小さいためある程度はばれずにすむ。
そして先の戦いでゾンビから弾を大量に採取できたため、銃弾の心配もしばらくは大丈夫そうだった。
そして、多々羅は保健室から少し顔を出しゾンビの数の確認をすると、射撃を開始する。
時を同じくして、12個の扉がある大きな部屋、そこの中心にはAIが縮こまっていた。
静かな時が流れる空間、静かに滞在するAI。
しかし、このまま動かないと思われたAIが縮こまっていた体勢を解き周りを見回す。
その瞬間、この部屋に1の人物が現れる。
その人物を見てAIは少しだけ停止する。
顔は無表情と全く変わってないが、動きが止まったその姿は少し驚いてるように見えた。
AI「……あなた様がここに戻ってきたという事は主人も無事脱出できたのですか?」
??「………」
その人物はAIを見ると唇を噛み締め涙をこぼす。
その様子からAIは理解する。
主人は助からなかったのだと。
そしてこの人物がこの世界に戻って来た理由を。
AI「……この世界の修繕および破壊は可能で御座います。皆様を救える可能性は―」
そこでその人物はその先を言わなくていいというように手で制する。
AI「…了解しました、あなた様なら主人の愛したラボメンを救えると願っております、どうかラボメンの皆様をよろしくお願いします」