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第五十九話

 帝都の監視塔で対峙するのは青年アクセルと分厚い本を持っている青年ルフレイ。

 アクセルは後ろにいる商人のイリスを庇うように自身の体に隠れさせている。

「フェンリル様の邪魔する奴は誰だろうと容赦しないから」

 戦う意志は十分と、二人を睨んでいるルフレイに対してアクセルは青みがかった髪を掻く。

「こっちは武器がないんだけど? 丸腰の相手を殺そうなんて酷い話だな」

「それは、武器なんて持たずに来た君が悪いんだよ」

 呆れているルフレイの手には分厚い書物があり、それを見たアクセルは苦笑い。

「まさかとは思うけどこんな狭いところで魔術使わないよな?」

 帝都の外を監視する為に建てられたこの塔で魔術を使ってしまえば一瞬で崩れてしまう。

「どうせ帝都はフェンリル様や仲間が破壊することになっている、一つ二つ壊れても問題ない」

「へぇ、そうだったか。イリスは先に逃げろ、シンシアが城にいるからそこへ行け」

「え、でも」

 逃げるように促すも戸惑っているイリス。

「早く行け、俺もちゃんと行くから」

「うん……わかった。絶対戻ってきてね」

 イリスは頷くと、アクセルを残して監視塔から下りていく。

「さ、ルフレイ、俺は見た通り丸腰だ」

 二人きりになったところでアクセルは両手を広げて武器を持っていないということを強調する。

「見たら分かるよ、それが何?」

 首を傾げるルフレイにアクセルはにやけてしまう。

「狼になりゃ簡単だろうが、俺は今この首輪を外すこともできない」

「あの時みたいに苦しいからでしょ」

 アクセルは目を丸くさせて、すぐに怪訝な表情を浮かべた。

「気付いていたなら助けるか何かしろよ」

「フェンリル様を探しているってすぐに分かったし、魔獣の森で迷わせておけばいいと思ったんだけどね」

「それは残念だったな、俺はこうしてシンシアとゾフィーに助けられて生きてるよ。それより、ゾフィー達を見殺しにしてお前はここにいるのか?」

「う、うるさいなぁ! ゾフィーの名前を口にするな!!」

 突然ルフレイは声を大きくしてアクセルを睨みつける。

 分厚い書物のページを広げたルフレイに向かって走り出したアクセル。

「俺は丸腰だ!」

 何かを唱えようとしたルフレイの腰を掴んだアクセルは軽々と持ち上げてさらに走る。

「な、ななぁな何を!?」

「俺が魔術に対抗できるわけないだろ! だから、落ちろ!!」

 ルフレイの後ろには外に続く通路があり、このまま突き進めば地上へ落下することになるがアクセルは止まらない。

「やめやめやめぇ、あぶ、な!!」

 止めるように訴えるルフレイに耳を傾けず、アクセルは外の通路に出て落ちないように設置された柵を突き破る。

 帝都の街並みに向かって落ち始めた二人。

 アクセルは片手で強引に深緑の宝石がついた首輪を外し、苦しそうに表情を歪めながら人の姿を獣同様の体つきに変形させていく。

 身長の高い体は縮み、狼となったアクセルは地上で待っていた同じ狼二匹を視界に映す。

『無茶ねぇ、無茶よぉ』

 小柄な狼は白銀の狼と一緒にルフレイの背中を見上げている。

『まぁ、なんとかなるさぁ』

 二匹同時に地上へ落ちてくるルフレイに向かって地面を蹴り跳ねると彼の背中を狙って頭突きを与えた。

 狼の頭突きで地面に落ちたルフレイは二回転ほどしてうつ伏せに倒れてしまう。

 灰色の狼も無事に着地したがすぐに力なく伏せてしまった。

『坊ちゃんは気絶しているみたいねぇ……アクセルよぉ狼になるのはよした方がいいと言ったのになぁ』

 唸るだけで立ち上がれない灰色の狼の側には深緑の首輪が落ちている。

『ま、坊ちゃんが死ななかっただけ有難い話さね。森に囲まれた町が騎士団によって焼き消されたことをまだ言っていないからね』

 小柄な狼は静かに、呟いた。


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