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第四十七話

 商店通りは露天市場を終えて閑散としている。

 その通りを今歩いている二人。

 セレスティーヌは隣に並行して歩いているアンを時々横目で覗いては顔を正面に戻した。

 少し歩いてはまた同じように横目で覗く。また正面を向く。

 再び横目で見ると、セレスティーヌを赤い目で見ているアンと視線が合う。

 驚いたセレスティーヌは反対へ顔を逸らした。

「アンはよくわからない、何かしたか?」

「うーん……あの、昨日商店通りでアンと同じローブを着ていた人に会ってさ」

 戸惑いながらも俯いて話すセレスティーヌにアンは口を紡ぐ。

「その人にアンに伝えろって言われて、帝都に来い、俺達は待っているって」

 アンは知っている、そう思いながら口を小さく開けたアン。

「アンは帝都に行く」

「え、帝都へ行って何をするつもりなの? 今は危ないって姉さま達も言ってたよ」

「アンは、仲間がいる。セレスティーヌにも仲間がいる」

 最初にアンは自身を指して次にセレスティーヌを指し、それ以上は何も言わない。

 まともな返答がないまま、セレスティーヌは自身の褐色肌の手を眺めて握り拳をつくると、ゆっくりと広げる。

「アクセルさんがここにいないから、仲間のところへ行くんだね」

 静かに呟いた。

「アンはアクセルもセレスティーヌもイリスもニーナも好き」

 好きという言葉がセレスティーヌの顔を上げさせる。

「アンは……アン達は帝国を守る為に生まれた暗殺組織。帝都へ行くことは使命、だから帝都に行く」

 そう言ってアンがローブの内側から取り出したのは、切っ先まで細い銀のナイフだった。

 無言でセレスティーヌに柄を向けて差し出す。

 少し戸惑ったが、セレスティーヌは素直に受け取り柄を強く握り締めた。

「ボクは姉さま達が心配だから行けないけど、また……戻ってきてね」

 微笑みを見せた途端、アンは口角を下げてフードを深く被って表情を隠す。

 二、三歩下がったアンは地面を蹴り建物の屋根に軽々と飛び移って姿を消してしまった。

 商店通りに残されたセレスティーヌは晴れていたはずの空を見上げて小さく息を吐くと、ワンピースドレスを風に靡かせながら娼婦館へと戻っていく。

「ただいまぁ」

 いつだって玄関を開ければ座っておかえりと言っていたはずの娼婦がいない。

 決して特別だったわけではないが、一人欠ければ寂しいもの、セレスティーヌは胸の空白を広げていく。

「セレスティーヌ、貴族の話を聞いた?」

 別の娼婦達がセレスティーヌに声を掛けた。

「貴族ってオリットさんのことですか?」

「違うわよ、近々戦争があるから下位貴族は戻らないといけなくなったのよ」

「え、戦争!?」

 物騒な話に驚くセレスティーヌ。

「よく分からないけど、帝国兵さんが言ってたわ」

「じゃあニーナのところもかな」

「ああ、あそこも下位貴族だからねぇ」

 眉を下げて、静かに口元を閉じると娼婦館から出ていく。

 商店通りを抜けて貴族街に向かうと何十人という大人達が荷造りをしていた。

 丈夫な馬が数頭、帝国兵も護衛として付いている。

「ニーナ!」

 セレスティーヌは黒い日傘を陽が出ていなくても差している低身長のニーナを見つけて名前を呼ぶ。

「セレスティーヌ、どうしたの?」

 目を丸くさせているニーナ。

「さっき姉さま達が話してて、本当に帝都へ行っちゃうの?」

「うん、私も父様と母様と一緒に戻るの」

 きっと乗り気ではないのだろう、暗い表情を浮かべているニーナを見下ろしたセレスティーヌは腰を屈めると目線を合わせて微笑む。

「ボクは帝都に行けないけど、待ってるね。アクセルさん達と一緒に帰ってきてね」

「うん……一緒に帰ってくる」

 これ以上は何も言えないセレスティーヌ。

 そして、苦笑いを浮かべるニーナ。

 周りは忙しそうに荷物を詰めた木箱を運んでいる。

 ただその景色を眺めているだけしかできない二人は無言のまま立ち尽くす。

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