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第四十八話

よろしくお願い致します。

 魔術師であり、巫女である少女シンシアは青いつり目を細めて唸っていた。

 町長の邸宅内にある薄暗い部屋、長い机には深緑の宝石が埋め込まれた首飾り。

 宝石から眩しい光が放たれている。

 山に囲まれた町で、町民達は荷造りをしていた。

 左の中指に填めた赤い石が埋め込まれた指輪を首飾りに翳してブツブツと何かを唱えているシンシア。

 数秒ほどで終了し、首飾りを手に持って薄暗い部屋から出たシンシアは外で寛いでいる長身の青年アクセルのもとへ走っていく。

「できましたわ、一応」

 人相の悪い面が目立つアクセルは地面に座って木箱に背を凭れさせていた。

「おぉ、早いな」

 喋ると苦しいのか、短い感想で済ませて深く呼吸をする。

 首飾りを渡されたアクセルは直接首に装着。

 感想は特になく、アクセルは怪訝な表情で首を傾げた。

「効果が表れるまで少し時間が掛かりますわ、それまで休みたいところですが帝都へ急がないといけませんの」

「どうした?」

 アクセルは疑問を浮かべてシンシアに訊ねると、シンシアは少し俯いて眉をひそめる。

「内戦、ですの。帝都が大して戦力のないフェンリルの腹に帝国中の兵や下位貴族を集めて総攻撃、だそうですわ」

「皇帝が」

「皇帝が、なんですの?」

 シンシアは首を傾げた。

「フェンリル側が攻撃してこなければ、帝国は何もしないって、ゾフィーが言ってたんだがなぁ」

 口を紡いで、静かに目を細めたシンシアは他の人には聞こえない声に耳を傾けると小さく頷く。

「まぁ帝都に行ってからか」

「そうですわね、どうです?」

 装着している首飾りを指してシンシアは問う。

 アクセル自ら首飾りに手を添えて空を見上げると、短く唸る。

 先程よりかは呼吸が楽になり、次第に顔から苦しさは消えていく。

「だいぶ良い。魔術って凄いのな」

「当然! 魔術より優れるものなんて有りませんわ」

 自慢げなシンシアにアクセルは笑ってしまった。

「さぁ、帝都に急ごうぜ」

 ゆっくりと膝に手を添えて立ち上がろうとしたアクセルだったが、目の前の景色が二重に揺れて再び座り込んでしまう。

 呆れているシンシアから溜息が出る。

「まだ魔術が効いてませんわね。やはりわたくしだけで帝都に行きますわ」

「バカ、行くに決まってんだろ」

 木箱の角を掴んで立ち上がったアクセルはシンシアを見下ろす。

「アヤノ隊長を探すのがアクセルさんの役目ですわ、イリスさんは」

「休んでいる間に色々考えたがやっぱりイリスを助けるのが先だ、それからいくらでもアヤノは探せる。俺も助ける」

 はっきりと答えたアクセルの言葉にシンシアは自らの唇を噛む。

 山から狩りを終えて帰ってきたゾフィーが対面している二人を見つけて目を丸くした。

「もう直せた?」

 冷めた深緑の瞳、感情が伝わってこない声、そんなゾフィーの様子にアクセルは肩をすくめた。

「ああ、俺達は帝都に行かなきゃいけない、今までありがとうなゾフィー」

「さんをつけなさい」

「さん」

 感謝を言うつもりが注意を受けてしまったアクセルは苦笑する。

「こちらこそ、犯人は見つからなかったがゴーレムはいなくなった。ありがとう」

 アクセルは蒼い目を細めてゾフィーを視界に映すと、犯人について話始めた。

「ルフレイ、ルフレイがゴーレムを作ってこの町を潰そうとしていたのを俺は直接聞いた。けど、あいつは命令で動いていただけなんだよ……だから」

「だからあいつは悪くない」

 ゾフィーは背負っていた湾曲型の短弓を壁に掛けて、吊るした獲物を地面に置くとアクセルの言葉を遮って呟く。

 小さく頷くアクセルはゾフィーをずっと見下ろしている。

「ルフレイが犯人だと知っても別に驚かない。むしろ疑っていたから、けど彼が悪いか悪くないかを決めるのは貴方じゃない」

「そりゃそうだが」

「ルフレイの事は任せて、安心して行ってらっしゃい」

 町から追い出すかのように手を振るゾフィー。

 素直に応じたのはシンシアだった。

 動こうとしないアクセルの腕を無理にでも引っ張って町の外へと連れ出す。

 町民達も手を振って二人を見送ってくれていた。

「アクセルさん、何があったか知りませんけど帝都へ急ぎますわよ」

 自力で歩き始めたアクセルは小さく頷いて青みがかった黒髪を掻く。

「そうだな」

「内戦ですからこの町は特に被害を受けるかもしれませんわね」

 静かにシンシアは呟き青いつり目を細め、唇を噛んだ。

 苛立ちからなのか、焦りからか、分からない気持ちを抱えて彼女の足は帝都に向かう。

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