第四十五話
アクセル達がいない商人の町では朝から買い出しに行っている娼婦のセレスティーヌが商店通りを駆けていく。
褐色肌で長い黒髪を左右に結んでいる。
ワンピースドレスを風に揺らすセレスティーヌの両手には食材が沢山詰め込まれた紙袋。
観光客で混雑している露天市場を慣れた様子ですり抜けて、路地裏に続く通路へ軽やかに走る。
「ねぇーアン! そっちも買えた?」
建物の屋根に向かってセレスティーヌは大きく声を出す。
「アンは買えた」
すると、どこからか颯爽と現れたアンは屋根から屋根へと軽快に飛び移りながら走る。
アンも紙袋を抱えていた。
「さっすが、これなら姉さま達も喜んでくれるね!」
「アンはセレスティーヌの為にしただけ」
「ボクの為? ありがと!」
微笑むセレスティーヌ。
路地裏を奥まで進むと二階建ての娼婦館に到着する。
人気のない場所に薄暗く建っている娼婦館の玄関には呼び鈴が付いており、白いヒモを引っ張って鈴を鳴らしたセレスティーヌと後ろに難なく飛び降りたアン。
元気のない返事が聞こえて、セレスティーヌは扉を開ける。
「おかえりなさい」
化粧をしていないのか、顔面が荒れているドレスを着た女がイスに座ったまま手を振ってきた。
その声は低く、女とは思えない。
「ただいま姉さま。一週間分の食料と頼まれてた化粧品を買ってきました」
アンの紙袋から娼婦達必需品の化粧品を取り出したセレスティーヌは女に手渡す。
「はいありがと、これは気持ちよ」
数枚の銀貨と金貨を貰ったセレスティーヌは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「ありがとうございます! 姉さま、ちょっとだけ出かけてきますね」
「ならもうひとつおつかいをお願い、貴族のオリットに手紙を渡してきて」
「はーい、わかりました」
白い封筒に包まれた手紙を預かって、セレスティーヌはアンと一緒に外へ出る。
仲良く手を繋いで通ったばかりの道を歩いていく二人は、商店通りの上にある貴族街へ。
道の両端に設置されたレンガの花壇には明るい暖色の花々が咲き、いい香りが貴族街に漂う。
「オリットさんって奥さんも子供もいるのにほぼ毎晩遊びに来てるんだよねぇ、ボク達としては嬉しいんだけど、家族を放って遊んでていいのかなぁって」
セレスティーヌはレンガでできた花壇を眺めながら呟いた。
「アンはよく分からない」
「うーん、なんていうか子供はきっと夜も仕事をしているんだなって思っているかもしれないのに、実は女遊びをしてましたっていう事実を知ったらきっと悲しいよね、というか呆れちゃうよね」
「アンは、よく分からない」
アンは二回、同じことを言う。
セレスティーヌはオリットが住んでいる邸宅の入り口で呼び鈴のヒモを引っ張って鳴らす。
ドラゴンの絵が彫刻された木製の扉が開くと、出てきたのはドレスを着た女性。
濃い化粧をしているのがすぐに分かってしまい、セレスティーヌは口を半開きにさせた。
アンも同じように見上げるが、口は閉じている。
「なんですか、この子達は……また主人の? 今度はこんな小さい女の子にまで」
二人を見るなり嫌そうな表情で頭を抱えていた。
「えっと、オリットさん宛てに頼まれたので手紙を届けに来ました」
セレスティーヌはそう言って白い封に包まれた手紙をオリットの妻に手渡す。
オリットの妻は口角を下げて二人を睨みながら受け取り、ありがとうの言葉もなく扉を強く閉めた。
「あーあ、絶対手紙を見てるよねあの人」
商店通りに戻るなりセレスティーヌは声を大にしてアンに伝える。
「アンもそう思う」
しっかりと頷いたアン。
「ま、どうせ怒られるのはオリットさんだし関係ないよね。姉さまに貰ったお小遣いを使って何か食べよう!」
気を取り直してセレスティーヌはアンと手を繋ぎ、まだ賑やかな露天市場に向かっていった。




