第四十四話
森から離れて山の町に戻ってきた二人。
苦しい胸を手で押さえて、上半身裸の青年アクセルは俯いて座っていた。
腹筋が六つに割れているほど筋肉質な体格。
そんな彼を見下ろすシンシアは不機嫌そうな表情で口を閉ざしている。
「それで、治らないのか」
力のない声でシンシアに質問するも、シンシアは黙ったままで何も答えない。
不思議に思ったアクセルは気だるい顔を上げた。
シンシアは青いつり目を細めており、唇を噛んでいる。
「シンシア?」
名前を呼ぶと、ハッとしたのか目を丸くさせて今度はアクセルを睨む。
「お荷物だからあそこで気絶させましたのに、わたくしの邪魔をしないでほしいですわ。イリスさんを助けることもできず、あのドラゴンがわたくしを頼れですって? 治せるような術は持ち合わせていませんのに」
「なんだ嘘かよ」
リザードドラゴンの言葉を信用しなければ良かったと後悔したアクセルは溜息を吐く。
「とにかく今はアクセルさんの体をなんとかしなければなりませんわ、そのままではアヤノ隊長を助けることはできませんし、お荷物ですのも」
言い返すことができないアクセルは口をへの字にして何度か頷いた。
町を囲む山に視線を向けて気になることでもあるのか、蒼い目を細める。
「ルフレイは、フードを被った男はいたか? 分厚い本を持っている奴なんだけど」
「いいえ、見ませんでしたわ」
アクセルは壁に凭れて胸を手で押さえつけ、深い呼吸を始めた。
「狼になるのってこういうことなのか、あのじじい狼めちゃんと説明ぐらいしてくれよ」
ここにいない相手に文句を言っているアクセルにシンシアは呆れてしまう。
そんな二人を遠目から眺める女性。
矢筒と湾曲型の短弓を背負っているあまり表情に変化がないゾフィーだった。
「そんなに苦しいのならバスと同じ首輪をした方がいいと思うのだけど」
ゾフィーの言葉にシンシアはひらめく。
「そうでしたわ! すっかり忘れていましたの」
突然アクセルの腰ベルトに付いているポーチを探るシンシア。
アクセルは何も言わずに彼女の行動を眺めていると、ポーチから緑色に輝く石が刻まれた装飾品を取り出された。
「それはアヤノが付けていた狼化を抑制するやつだろ?」
「何を言っていますの! それ以外にも発作や貴方が悩んでいた発情期も防げますわぁ!!」
「そりゃ便利」
アクセルは感心したかのように驚いているが、ゾフィーは首に付ける装飾品を無言で眺めて呟いた。
「それ、女性用だと思うのだけど」
自信満々に鼻息をしたシンシアは腕を前で組んで答える。
「そんなの調整できますわ、なにせ魔術師の代物ですもの。わたくしの魔力で大きさも変えられますわよ」
「おおー」
小さい拍手に満足げなシンシア、ゾフィーは二人の姿に首を傾げていた。
「以前帝都に行ったときに沢山あったけど、それって簡単にできるもの?」
「いいえ、作成に一ヶ月掛かりますわ。アクセルさんは首回りも太いですから調整するのに一週間は必要ですわね」
「それ間に合うのかよ」
「いいえ、間に合わせますわ!」
気合の入った声、アクセルとゾフィーは押され気味になってしまう。
「魔術師としての意地、見せてやりますの!」
しばらく自由にしていてくださいと付け加えて町長の家に入ってしまったシンシア。
置いてけぼりにされたアクセルは横に立っているゾフィーを見上げる。
「随分変わった子だな、前に会ったときはあんな感じには見えなかった」
ゾフィーは目を丸くして先程のシンシアの興奮状態を思い返す。
「そうかぁ? いつもあんな感じだけどなぁ」
「そういう貴方も変わっている」
「じゃあゾフィー、さんもだいぶと変わってると思うけどな」
お互い目を合わせて、軽く笑うアクセルと口元に笑みを浮かべたゾフィー。
アクセルはもう一度深い呼吸をして、胸を抑えるのだった。




