7ワイバーン
「コウ、なるべく離れて」
コウは少しずつ高度を下げていく。
森の影を操れるようになるまであと十メートルほど。
しかしそこでワイバーンが動いた。
「!速っ……」
あれだけあった距離がどんどん縮まる。
視認できるほど近づいて、ぴたりと止まった。
「コウ、今のうち!ちょっとずつ下がって」
構わず高度を下げていく。
影魔法発動可能距離まであと数センチ。
そこで何かを感じ取ったのか、ワイバーンは風魔法を横に放ってきた。
『ご主人様!!』
コウが避ける、が、私は振り落とされて森へと落ちていく。
ワイバーンは機動力のあるコウを追い回すのをやめ、私を追って急降下。
『待てぇぇ!!!』
それを追ってコウも急降下。
コウは翼をたたみ、いつも浮くのに使っている魔力を自分への負荷へと変換しワイバーンに追いついた。
しかし羽を畳んでいるためバランスが取りずらいのか、攻撃ができないでいる。
ワイバーンに雷の魔力を感じ取る。
ワイバーンの体全体から魔力がくちばしに収束している。
人など一瞬で消し炭にされる雷魔法が今放たれて、
『ご主人様ーー!!!』
ここで私は死、ぬかと思ったか?
「影魔法、全力で掴め!!」
とっくに影魔法の使える範囲には落ちていた。
あとは機会を待つだけだった。
森の巨大な影は雷魔法ごとワイバーンを包み……
私は魔力切れで意識も保てず森へと落ちていった。
『ご主人様!!』
目が覚める。
ここは、森の中?
「どうなってるの?」
『ご主人様は私がちゃんと受け止め、ました、』
ごほっ、とコウは血を吐く。
「は?」
起き上がってコウを見る。
どうやら落ちる私を受け止めたことによって、背骨が折れているみたいだ。
「動ける?」
『……』
必死に体を起こそうとしているが、どうにも力が入らないみたいだ。
もうコウは戦力としては使えないな。
「……ワイバーンは?」
『この森の、何処かにいます。僕たちとはかなり離れているはず、です』
魔力探知。
二十キロほど先にそれらしきものを確認。
そこには私の影魔法の残滓も多く漂っているため、魔力を全て使って作った影の檻はまだ機能しているみたいだ。
あと三十分は持つだろう。
私の魔力は三分の二ほど回復している。
「……じゃあ行ってくる」
倒せたらワイバーンを調教使役するか他の飛べる魔物を探すか。
そのあと何処かに落とした魔導書を探して……。
もうコウは役たたずのお荷物だ。
このまま放っておけばいずれ死ぬだろう。
『ご主人様!!』
身体強化をかけて、走っていけばワイバーンのところまで二十分ほどで着くだろう。
筋肉痛で足が、体全体が痛い。
『ご主人様、!』
「何?さっきから。うるさい」
役たたずはいらない。
この場で殺してやらないくらいには慈悲を与えている方だろう。
『っ置いていかないでください!』
「主人に命令するのか?」
もう殺してしまおうか。
うるさい元下僕のコウモリなど私の人殺しの旅にはいらない。
「お前を生かして、連れて行って、私に何か得はあるか?重傷を負ったお前はそこまで価値が高いのか?」
『策が!策があります!ワイバーンを倒すための!何でもします!ご主人様に逆らったり致しません!影魔法よりも強い魔法の扱い方を知っています!』
早口で頭に響くその声は必死だった。
「何故そこまでして私について来たい?」
『ご主人様に忠誠を誓っているから、です!』
忠誠を誓っているならさっさと死んでくれるかその傷を治して欲しいものだな。
『傷は、治せます…!』
「は?」
『僕の魔法適性は、闇と光です』
対立する二つの属性を持つものは必ず偉大な魔法使いになる、これは魔導書に書いてあった何処かの偉い魔法使いの言葉だ。
相性の悪い二つの属性を従える強い魂があるのだとか。
それが、魔物に?
こんなコウモリに?
私の、使い魔に?
本当か?
『だ、だから、魔力さえあればこんな傷治せるんです!』
「……いいだろう。魔力は分けてやる」
使い魔の印、額に触れ、魔力を譲渡する。
『ありがとうございます…!』
傷が光り輝いて癒えた。
これは本物だ。
私はすごくラッキーだ。
「忠誠を誓っているのなら一生私の下僕でいろ」
『もちろんです』
「私のやることに口を挟むな」
『承知しております』
「では、ワイバーンを倒す作戦とやらを聞こう」
『っはい!』
コウは有能な部下になる。
育て上げる。
私が怪我をしても傷を癒せる。
コウの作戦でワイバーンが倒せたら有能な作戦立案者にできる。
コウの利用価値は私が思ったよりも遥かに大きかった。
一生こき使う、そう決めた私なのであった。
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