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6.朝の目覚め

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

               6.朝の目覚め



「ラエル、早く起きて来なさい。夕食が出来たぞい。今夜はお前の好きなホケホケ鳥の肉の入ったシチューだぞい」


 既に日が落ち、薄暗い部屋の中をランプの明かりだけが煌々と照らし出す。そんな部屋に温かみのある優しい老婆の声がドアの外から聞こえて来る。その聞き慣れたかすれた声に安心したラエルロットは、けだるそうにベッドから起き上がるとフと回りを見る。


「ここはどこだ。そうか俺の部屋か。あれ、そう言えば……」


 昨日の喧嘩の事を思い出したのかラエルロットは怪我をしたはずの体を丹念に手で探る。


「うぅ……あれ……怪我が無い。て言うか体中に受けたはずの怪我が直っている。昨日の午後にあれだけボコボコにされたと言うのに切り傷や腫れどころか打ち身すら無いなんて、一体どうなっているんだ?」


 昨日の午後、町の(小金持ち)意地悪三人組、アカイ・オジエル・キイオとの戦いの後、直ぐに気を失ったラエルロットは、フと気が付くと既に自宅のベットの上で横になっていた。


 深夜に一度だけ目が覚めた時、ラエルロットは起き上がろうと重い体を動かして見たが体中に走る激痛と熱で体が全くと言っていいほど言うことをきかない。そんな中、濡れたタオルを必死に絞りながら看病をする祖母の顔がおぼろげに目に映る。そのしわだらけの表情からして何だかとても心配している用だったが、ラエルロットは言葉を発する事も出来ず、おぼろげにハル婆さんの顔を見つめる。


 そんな祖母の思いにラエルロットは『いつも無駄に心配をかけて悪いな……ハルばあちゃん』と思いながら再び深い眠りにつく。そこまでは何とか覚えているのだが、そこから先の事が全くと言っていいほどに覚えていない。


 薄れ行く意識の中で……この怪我が完治するまでには最低でも一~二ヶ月は覚悟しておいた方がいいかなと思っていた。それが意識を取り戻し起きてみると体はどこも痛くない。それどころか傷もないようだ。まさかこんなにも早く怪我が直るとは流石のラエルロットも不思議に思っている。


 それだけ不可思議な事がラエルロットの身に起こっていた。


(これは一体どうなっているんだ。まさかまだ夢でも見ているんじゃないだろうな?)


 そう思いラエルロットは自らの頬を思いっきり抓る。


「痛ててて~ぇ!やっぱり夢じゃない!」


 赤く腫らした頬をさすっていると、腹部から腹の虫が勢いよく鳴り響く。どうやらかなりお腹が空いているようだ。

 ラエルロットは壁に立てかけられている古いゼンマイ式の柱時計を何気に見る。時刻は既に夜の十九時を過ぎていた。


「俺は怪我をして家に運ばれてから、丸一日寝ていたのか。そう言えば昨日の朝から何も食べていなかったな。流石に腹の虫も鳴る訳だ」


 小さく溜息をつくとラエルロットはゆっくりと靴を履き、自室の木製のドアを静かに開ける。


「ハル婆ちゃん、いろいろと心配をかけて澄まなかったな。婆ちゃんのお陰で体の痛みもすっかり消えてこの通り元気に戻ったよ。本当にありがとうな」


 昨夜は必死に看病してくれた祖母を気遣うようにラエルロットは満面の笑みを浮かべると急いで台所に来る。そこにはおいしそうな匂いのする鍋をかき混ぜる祖母のハル婆さんとテーブルに食器を並べる黒神子を名乗るレスフィナの姿があった。


「君は確か……黒神子のレスフィナだよな。なんでここにいるんだ?」


「行き成り出て来てそれはご挨拶ですね。意識を失い怪我をし、倒れているあなたをここまで運んで来たのはこの私です。あなたは明らかに私よりも体重がありますからね。なのでここまで運ぶのにはかなり苦労しました」


「ラエルや、ちゃんとレスフィナさんにお礼を言いなさい。大怪我をしているお前をわざわざここまで運んで来てくれたばかりか、お前さんのために特別に薬を調合して貰ったんじゃぞい。このお嬢さんの持っている薬がなかったら今頃お前はどうなっていたか、わからなかったんじゃからのう」


 ハル婆ちゃんはテーブルの真ん中にほんわかといい匂いのする大鍋を置く。その匂いを嗅いだ瞬間ラエルロットは大きく音を立てながらゴクリと生唾を飲み込む。


 先程ドアの前でハル婆ちゃんの言っていたように今夜の夕食はホケホケ鳥の肉のシチューのようだ。

 普段はまず絶対に食べられない鳥の肉であり、ラエルロットに取ってはとても贅沢なご馳走だ。


 ホケホケ鳥とはこの地方にいるニワトリのような三本足を持つ飛べない鳥だ。全身の羽が青と白のマダラ模様になっていてよく食用に食べられている貴重な食材でもある。そしてその鳥から産み落とされる卵もまた絶品だ。

 何を隠そうラエルロットもこのホケホケ鳥を使った肉料理には目が無いのだ。

 ただこのホケホケ鳥は若干値段が張るので最下層の家に住むラエルロットには特別な日にしか食べられない貴重な食材となっていた。


 余程待ち遠しいのかラエルロットはホケホケ鳥の肉の入ったシチューに意識を向けていたが、フと疑問に思ったのか自分の体をまさぐると徐に傷口があったはずの腕を摩る。


(おかしい……いくらよく効く薬草の傷薬をその体に塗り込んだとしても経ったの一晩と一日で傷口が完全に消えるくらいに回復などする物だろうか。それこそ高位の僧侶や神官、或いは光の天使と呼ばれている聖女達でなければ先ず出来ない事だ。本当に不思議な事がある物だな。やはり黒神子が調合してくれる薬は特別だと言う事なのかな?)


 そんな事を思いながらラエルロットは深々と黒神子レスフィナに頭を下げる。


「そうか、レスフィナ……君が俺をわざわざ家まで運んで来てくれたのか。君にはすっかり迷惑をかけてしまったようだね。昨日は奴らから助けてくれて本当にありがとう。お陰で助かったよ。しかもあれだけ酷かった傷まで直してくれて、君は文字通りの命の恩人だ」


 感謝の言葉で褒めちぎるとラエルロットは、レスフィナの様子を窺う。


 人々から忌み嫌われ意味もなく恐れられている黒神子と呼ばれる存在だが、ラエルロットがまだ知らない未知なる経験や何かを知っているのだろうと勝手に考える。

 そんな未知なる力に胸を弾ませるラエルロットは、想像力を勝手に膨らませる。


「礼には及びませんわ、何せあなたをここへ連れてきたお陰で、この村にいる間の衣食住の心配がなくなったのですから」


 満面の笑みで話すレスフィナの話を聞いたラエルロットは視線をハル婆ちゃんに向ける。するとその視線に気付いたハル婆ちゃんは着ていた割烹着で手を拭くと黒神子レスフィナを家に泊めた訳を語り出す。

https://37636.mitemin.net/i891084/

挿絵(By みてみん)

 ホケホケ鳥です。ラエルロットの大好物です。

 ご愛読ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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 この小説は毎日夜の19時に公開します。ストックの続く限り公開しますので、お見逃しなく。

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