ゴブリンの森攻略 Ⅳ
「――ガアアアアアァァァアアアーーーーッッ!!」
絶叫。
鬼哭とでも言うべき、おどろおどろしい声音でボスゴブリンは吠える。
瞬間、ボスゴブリンの後方で、控えめながら、目に付きやすいエフェクトが揺らぐ。
その数、10。
「ええ、またぁ……?」
思わず悪態が口をついてしまったけど、しょうがないとも思う(思いたい)。
折角、(サニーとアンバーが)苦労して倒したのに、取り巻きのゴブリンが再度出現したんだからね。
「ボスの方は一個も変化が無いから、有り難いよね」
「それな。――あ、ラピス。取り巻きよろしくっ」
ボスにバフがかかったりはないみたい。
それは、アンバーの言う通り素直にありがたいね。
――――ちょっと待って?
「サニー、私に全部押し付けるの?」
流石に10体相手は辛いんだけど……。
いや、まあ、純魔のサニーとパワーファイターのアンバーに対して、スピード特化の私は対集団がやりやすいのは確かだよ?
しかも、アンバーさえいれば、ボスの方を数分抑えるのは可能だろうし。
更に、サニーが援護すれば、より難易度は下がるか。
「サニー、アンバーに取り巻きが近づかないようにだけはして。なるべく抑えるけど、完全に出来るかは分からないから」
「おうともさ。あ、でも、なる早で」
「スピードキャラにそれは愚問でしょうに」
軽口を叩いて、各々行動を開始する。
――歩法 嚆矢
急激な加速を以て、ゴブリンたちの攻撃態勢が整う前に叩く。
ここで前回同様に、円環を使うと5体以上が二人のもとに行ってしまうだろう。
だから、円環や伐刀などの周囲だけしか攻撃できない技は使えない。
では、どうするのが正解か。
その答えの一つがこれだ。
「『サンダーボール』」
まずは魔法で、先頭の一体の動きを止める。
すぐに懐に入り込む。
先頭のゴブリン相手に袈裟の一撃を見舞う。
刀を振った際の慣性を頼りに、身体を別のゴブリンのもとに運ぶ。
2体目は、逆袈裟で切り裂いて、更に位置を変える。
3体目は、切り上げ気味の右からの横薙ぎ。
次いで、4、5、6体目にまで斬撃を繋げて、切り捨てる。
対単体用の太刀上流の中では珍しい6連撃の斬法の技、雪華。
それの対集団用アレンジ。
本来は移動を殆ど挟まずに、斬撃を繰り出すのだが、複数の敵を相手にするために、斬撃の慣性を利用して移動を挟むようにするのだ。
「――雪華・風花」
後は、消化試合だね。
二人の元へ行こうとする奴から、最速で切り捨てていく。
残りは、3体。
もう、一分も掛けない。
________________
「ガアアッッ!!」
「ラアアッッ!!」
幾度となく振るわれる棍棒と戦斧。
衝突の度に風が吹き抜けて、草木が騒ぐ。
轟音の中に、鋭き音が交じる。
「『ファイアアロー』! 『ウインドアロー』!」
火矢に続いて、風の矢を打ち放つ。
とは言え、風魔法は火魔法よりも弾速が速い傾向にあり、同一の形態の魔法ならば、速度は勿論風魔法の方が上なのだ。
今回も後に発動したのに、着弾は風魔法の方が速かった。
放たれた魔法の矢は、的確にボスゴブリンに突き刺さり、決して大きくは無いが、少なくもない隙きが生じる。すかさず、アンバーは深く一步を踏み込んだ。
「『フェルスラッシャー』!!」
発動するのは、『斧』スキル最初のアーツである横薙ぎ技、『フェルスラッシャー』。
戦斧がアーツ特有の光に包まれる。
赤い光芒を残して、斧はゴブリンの脇腹に叩き込まれる。
その一撃を以て、ボスゴブリンのHPは残り2割となった。
一瞬、ほんの一瞬だけ、アンバーとサニー二人の気が緩んだ。
その瞬間をボスゴブリンが逃すわけが無い。
ゴブリンは、強力な一撃を食らい、自然と地面に先がついていた棍棒を力尽くで振り上げる。
「――ッ?!」
アンバーが遅れて反応する。
更に遅れて、サニーが魔法を発動しようとする。
しかし、この瞬間間に合う者などいないだろう。
「――地嵐!!」
ただ一人を除いて。
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ギリギリ、後0.1秒でも遅かったら、間に合わなかったかもしれない。
流石のアンバーも無防備に攻撃を食らったら、ただでは済まない。
だから、飛び込んだし、それ自体に後悔は無い。
無いんだけどさ…………。
「ダメージ入っちゃったなぁ……」
視界の上部にひっそりと存在するHPゲージに隙間ができている。
強引に攻撃を止めに行ったけど、防ぎきれずにちょっと掠った。
これで私は、罰ゲーム確定ですよ。………………チッ。
「……はぁ…………」
今度は何をさせられるんだろうか。配信中のサニーは普段の数倍過激なんだよなぁ。
まあ、今考えても無駄か。
「ありがと、お姉」
「……いいよ、もう手遅れだしね」
「いや、ごめんて」
意識を切り替えよう。
まずは敵を斬ることだけに意識の全てを傾ける。
「サニー、顔執拗に狙って」
「りょーかい。今までのも半分くらいは顔に当てたけどね」
意地汚い笑みを浮かべてる。
ゴブリンが可愛く思えて来るくらいには、邪悪な笑みだね。
そもそも、言ってみただけだ。
私が言わなくても、サニーはそうしただろうし。
顔を狙う利点としては、視界などの五感の制限とか、飛来物に対して下手に見えてしまうから、どうしても対応しようとしてしまい、他の動きが鈍るんだよね。
だから、遠距離攻撃としては、個人的には相手の攻撃とか速度とかが厄介でない限り、顔狙いが良いと思ってる。
サニーもサニーで、柔道とかしてるし、視界が塞がれる不便さは十分に分かっているだろうし。
「アンバー、全力攻撃」
「任された」
サニー相手にも言葉なんて殆ど必要ないのだ。
更に長くの時間、共にいたアンバーにはなお不要。
お互いがお互いを限界寸前まで理解しているからこそ、かな。
……まあ、その分黒歴史とかも把握されてるんだけどね。
――歩法 嚆矢
くだらない思考を振り払うように、飛び出す。
「ガアァァアア!!」
性懲りもなく振るわれる棍棒。
何度見たと思っているんだか、そんなものに当たるわけがない(ダメージから目を逸して)。
――歩法 虚空
寸前で急減速して、すれすれで回避する。
そのまま一步踏み込んで、
「箒星!」
力の一切を全て鋒に集約して、叩きつける。
軽く抉ってから刀を引き抜く。
「ラアァァアッ!」
私が刀を引き抜いた直後、アンバーが戦斧を叩き付ける。
衝撃でノックバックを招くためでなく、叩き切るための一撃。
重量のある斬撃でボスゴブリンは仰け反り、体勢が崩れる。
「『ファイアボール』」
続いて、サニーが火球をボスゴブリンの顔面に放つ。
元々体勢の崩れていた所に攻撃を更にくらい、ゴブリンの体勢は修正が効かないレベルにまで達した。
二人共、体勢を崩すことを重視した結果、私とゴブリンの距離はそう離れていない。
この至近距離では、箒星などの技は使えない。
けれど、折角心臓を狙える位置にあるのだ。
突き技を使うほうが良いのは自明。
だから――
「鎧通」
――斬法 鎧通
上体の捻りだけで、放つ突き技。
至近距離で使うための技という意味では、渦潮に似ている。
技名の元ネタになった鎧通しは本来短刀なんだけど、多分至近距離で敵に突き刺すという用途と、動作が似ていたから、そういう名前になったんじゃないかな。
狙い通り心臓に刀が深々と入り込む。
急激に減少するHP。
けれど、まだ足りない。
拳を構える私の横に並ぶは、上段に戦斧を振りかぶるアンバー。
踏み込みは全くの同時。
「セエァァアアッッ!!」
「玲瓏・撞響!!」
――斬法 地嵐
――斬法 玲瓏・撞響
地嵐を応用して袈裟気味に振り下ろされた戦斧と、私が振り抜いた拳により急加速した刀が、交わること無く真逆の方向に通り抜けた。
瞬間、ボスゴブリンの身体の一切は、ポリゴンへと変わった。
『レベルが上がりました。Lv.13ー>Lv.14』
『『刀』のスキルレベルが上がりました』
『『敏捷強化』のスキルレベルが上がりました』
『『識別』のスキルレベルが上がりました』
『『格闘』のスキルレベルが上がりました』
『フィールドボスを討伐しました。次の街への通行が可能になりました』
……………………ん? 何か物足りないような……?
「――あっ」
「どしたの? お姉」
魔法を使ってない……。
今回のボス戦、殆ど使ってないから、スキルレベルが上がっていない。
「もう私、魔法スキル外そうかな……」
「そういや、ラピス魔法使ってた?」
「い、一回だけ…………」
………うん、もう止めようかな。それか今後使うように気をつけるか。
後者だね、するとしたら。
使えると便利だし。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。




