ゴブリンの森攻略 Ⅲ
振るわれる鈍器を掻い潜り、一筋ずつ傷を刻みつけていく。
「――ハアッ!」
相手の右腕を正面から新たに切りつけて、そのまま刃を身体に引き付ける。
「烈火!!」
――斬法 烈火。
頭上、上方にいる敵に対して、低い姿勢からの突きを放つ技。
刀がアッパーカットにも似た軌道を描いて、ボスゴブリンの首元に突き進む。
散る赤いエフェクト。
寸前で首を逸したボスゴブリンの棍棒が迫る。
ギリギリの回避によって、多少のダメージと引き換えに攻撃を差し込んでくるか。
しょうがない。被弾したら、罰ゲームだし。
やりたくは無いんだけど……。
「――捉えた」
身体を限界まで仰け反らせて、足先の到達時間を短縮する。
ゴブリンの攻撃は至近距離であったがために、得物を握りしめる手が存外近くに存在する。
振るわれるタイミングに合わせて、手に私の足先を添える。
そのまま、勢いに乗って、バックジャンプ。
その結果、私の身体はゴブリンの膂力と私の脚力とその他位置エネルギーなどの影響により、軽く数m程の距離を飛び越える。
空中で体勢を立て直して、着地を図る。
でも、それを逃すボスモンスターではない。
ボスゴブリンが追撃とばかりに、迫りくる。
フィールドの壁が近く、更に彼我の距離が今度はさっきよりも離れるだろうから、同じ退避の仕方は通用しない。
まあ、ボスゴブリンが私のもとに辿り着けばだけど。
……ね、アンバー?
「――――オオオオッッ!」
剛と振るわれる戦斧。
その凶刃は、ボスゴブリンの背に叩きつけられ、動きを無理やりに縫い止める。
そこを穿つは、炎の一撃。
「『ファイアアロー』!!」
効果範囲が狭い代わりに、一点に威力を集中させた火矢がまたもや背に突き刺さる。
「お姉!」
「アンバー!」
合図は極短く、でも、私達ならそれで十分。
「神風!」
一回転からのかかと落としを肩口に叩き込む。
そのまま、肩を蹴って、サニーのいる方に跳躍する。
私が飛び上がった瞬間、アンバーもまた飛び上がる。
「オオラアァッ!」
――歩法・撃法混合 風蝕
地面を攻撃することで、強引に加速するための荒業中の荒業。
体にかかる負荷が大きいけど、ゲームだからそこは問題ない。
このような身体に負荷がかかったりするような力技を得意とするのが、アンバーというプレイヤーにして、琥珀という太刀上流門下生なのだ。
今回、アンバーは風蝕を応用して、ボスゴブリンの背中を地面として、攻撃とともに、反動で私達のもとまで帰ってきた。
「ふいい……、いい手応え」
「風蝕を躊躇なく出来るのは、ゲームならではだよね」
現実でやるとしたら、足腰への負荷でどうなるか分からないもん。
私も習ってはいたけど、今まで一度として、使ったことはないかも。
「いや、このゲームも反動ダメージあるぞ。……まあ、私には関係ないがな!」
うわ、後ろで高笑いあげてる人がいるぅ。
今のサニーの言葉的に、魔法職は反動がない。
ということは、放った物理攻撃の威力がプレイヤーの防御力からかけ離れてたりすると、起こるのかな。
まあ、後で聞こう。取り敢えず今気にすることはそれじゃない。
「あとの6割、どう削る?」
「お姉と私が突っ込んで、サニーちゃんに合間合間で焼いてもらう。――攻撃は止めるから」
作戦らしい作戦は無いのか。
………………まあ、うん。臨機応変に行こう。
(思考放棄とも言う)
「行こうか」
「ほいほい、了解でっす」
――歩法 迅雷
姉妹揃って、迅雷を以て飛び出した。
AGIでは私が、武器と体重ではアンバーがお互いに対して勝っている。
更に言えば、練度と歩幅も私の方が上。
でも、アンバーには私にあるようなブランクはない。
何やかんや、大凡の速度は殆ど差がない状態で私達は飛び出したことになる。
ボスゴブリンは、同時に突撃してくる私達に対して選択したのは、右からの横薙ぎ。
左手もそう長くない柄に添えて、片腕のときよりも強力な一撃が放たれることだろう。
「オオオッッ!」
相対するは、茶髪を靡かせた少女。
アンバーの全力の横薙ぎが、ゴブリンとのちょうど真ん中で激突する。
ガギンッ!!
強かに鼓膜を打ち据える。
両者の攻撃の威力が近かったのか、鏡合わせのように武器を弾かれ、体勢が崩れる。
その隙間を縫うのが、私の役割だ。
アンバーがこれからも打ち合う気だというのなら、まず狙うべきは、脚だろうね。
「伐刀!!」
膝関節にこれまた横薙ぎを叩き込んで、すぐに離脱。
ゴブリンの意識が私に逸れた瞬間、うねりを上げて『ファイヤボール』が迫る。
「――ギッ」
顔面に火球が直撃して、ゴブリンが苦悶の声を漏らす。
その直後、ゴブリンの焼かれた顔に影が掛かる。
「『スプリット』!」
『斧』のレベル5で開放されるアーツによる上段からの振り下ろし。
多分技名の元ネタは、薪割りという意味のSplit Woodから。
太刀上流には、斧を用いた技なんてものはない。
態々戦場に斧を持ち込むことは無いだろうしね。
いや、草刈り用の鎌とかは、流派によっては技みたいなのがあるらしいけど。
話を戻して、斧を用いる技がないから、現実の流派とかを気にせずに好き放題、やれるんだろうね。
『スプリット』も割と動作のエネルギーロス多いけど、それを補えるだけの攻撃倍率があるんだろう。
斧での攻撃とか見るからに威力高いし。
振るわれた斧は、肩口からゴブリンの身体に深々と食い込む。
アンバーは一切躊躇なく、斧を手放す。
ゴブリンの身体に食い込んだままの斧は、そのまま落下せずに留まる。
そこが狙いだろうね。
「――ハアアアッ!!」
――撃法 神風
空中で一回転した後の踵落としが、斧の柄に叩き込まれる。
初心者装備のブーツの靴底の硬質な素材と斧の金属素材が、斧と棍棒の衝突に負けず劣らずの轟音を響かせる。
玲瓏の応用……かな。神風を使う関係上向きが限られるけど。
強引に身体を切り裂かれ、ゴブリンの動きは未だ止まったままだ。
「『ファイアアロー』!」
止まったゴブリンの顔を執拗に炎が襲う。
何がサニーを駆り立てるんだろうね?………………顔(不細工という意味で)?
まあ、兎も角、二人の攻撃によって、ボスゴブリンのHPは50%どころか40%をも下回った。
鬱蒼と生い茂る木々の合間を縫って、ずっと差し込み続けている木漏れ日に照らされたボスゴブリンの瞳が怪しく輝いた。
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