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第44回(最終回) “ベルトの行方”

 それから治郎は左手に持ったままだったお面ライダー44号のフィギュアを本棚に戻すと、押入れを開け、縦長の箱を取り出して蓋を開けた。

 そこには、ライダーのフィギュアがたくさん入っていたが、治郎はその中に手を突っ込むと、その下からもっと大きなものを取り出した。

 それは、弘がしていたお面ライダー44号のベルトだった。


 治郎はそれを両手で持ったまま、先ほどと同じようにベッドの縁にもたれるように床に腰を下ろした。

 そして、足を延ばして変身ベルトを手に持ったまま太ももの上に置くと、それをじっくりと眺めた。

「ふ、ヒーローか。ずっと俺たちのあこがれだったもんな。確かに楽しかったし、お面ライダーになってる時のアイツは生き生きとしてて、よく口が回ったな。本当にヒーローになったのが嬉しかったんだよな」

 治郎は、しばらくそうやって変身ベルトを眺めていたが、ふと、弘と最初に観たストロンガーのDVDが観たくなって、テレビの下の台からその第1巻を取り出すと、テレビのスイッチを入れた。


 テレビでは地元の放送局がニュースをやっていたが、驚くことに、その内容は怪物が現れて銀行を襲っているというものだった。


 銀行の前に陣取り、人質を体の前で押さえているザリガニのような姿の怪物のそばに黒ずくめの男が何人かおり、その姿は明らかに、ニョッカーの改人と雑兵だった。

 今までと違って、ニュースはテレビカメラが現場に入ってリアルタイムで放送されていたため、改人の発する言葉も聞こえてきていた。


「お面ライダーのためにここでの計画は大きな犠牲を出して失敗した!その代償として、ここにある金は全部もらっていく!さらに、お前たちの命もな!」

 そう言うと改人は、ハサミのような右手で人質の首を掻き切った。


 近くにいた群衆から大きな悲鳴が上がって、その取り巻きの輪がかなり後ろに下がった。

 しかし、まだ、銀行の中に職員や客が多数いるようで、治郎がそのまましばらくニュースを見ていると、数分ごとに一人ずつ銀行の中から人を引っ張り出しては、同じように改人が首を掻き切っていった。銀行の前は、折り重なるように首から血を流した人たちが倒れているという凄惨な光景になったため、ニュースの画像は銀行の建物の上の方を映し、実質、音声だけの放送になった。


「くそっ!なんてことしやがる!」

 治郎はそう怒鳴ってからテレビを消して床に寝っ転がり、しばらく天井を見ていたが、「チッ!」と、舌打ちをすると腰に変身ベルトを装着して変身スイッチを押した。


 その途端、ベルトから「不正使用検知。エラーエラーエラー」と無機質な女性の声でメッセージが流れた。

「やっぱりダメか。そりゃそうだな」

 治郎はベルトをテーブルの上に置くと、

「仕方ないな」

 と、つぶやいて部屋を出て行き、外に出て愛車のH2 SXに跨ると、すごいスピードで発進して改人が暴れている銀行の方へかっ飛んで行った。



 先ほど、弘の家を訪れたお面ライダーの3人は、物陰からその様子を見て驚いて顔を見合わせた。


「どういうことだ?44号のベルトの信号はあの家から出ているから、あそこにあるのは間違いない。だから、こういう事態になれば彼が次の44号になってくれると思っていたんだが」

 1号は、納得がいかないという顔をしてフランス語でそう言った。2号と5号は、ギリシャ人とポーランド人だったので、その言葉は全く通じていなかったが、言いたいことはわかるので、二人とも無言で頷いた。

 1号は、その微妙な反応に言葉が通じていないのを感じ取り、

「あ、そうか」

 と言って、お面ライダーに変身した。

 続いて、2号と5号もお面ライダーに変身した。


「2号は、治郎くんが心配だから改人が暴れている銀行へ向かってくれ。治郎くんのことだから、生身で改人と戦おうとするかもしれない。5号は私と来てくれ」

「了解」

 2号はそう言うと、愛車のCBR1000RRに跨って勢いよく発進して行った。


 1号は、変身した姿のまま5号と一緒に弘の家に入り、玄関に近い部屋から中を検めて行った。しかし、最初の部屋も、2つ目の部屋も使われている様子がなかったので、そういう部屋はざっと黙視するだけにして、さらに家の奥へ進んでいった。


「しかし、広い家だな。弘くんはこんな豪邸に住んでいたのか」

 1号は驚きながらつぶやいた。

 結局、家の中をぐるっと回って玄関に近いの部屋のところまで来たとき、その1つ先の部屋のドアが開いているのが目に入った。


「ああ、たぶんあそこだな」


 1号と5号がその部屋に入ると、目の前のテーブルの上に無造作にお面ライダーの変身ベルトが置かれていた。


「ああ、やっぱりここにあったか。しかし、治郎くんはなぜ使わなかったんだ。我々の組織と繋がりを持つのを嫌ったのかな?」

「弘くんが実は生きているから変身できないということですかね」

「いや、それはない。彼が亡くなっているのを病院で私自身が確認したからな」

「ベルトを調べてみます」

 5号はそう言うと、ベルトのバックル上部のふたを開けた。ふたの裏側は液晶モニターになっていて、5号がバックルの中に並んでいるボタンのいくつかを押すと、モニターに何か文字が表示された。


「このベルト・・・使用者がある状態ですね」

「なに!?どういうことだ」

「ちょっと待ってください・・・このデータは弘くんのものではありませんが、治郎くんのものでもありません」

「では、ほかの誰かが装着者になっているということか!?」

「そうなりますね。しかし、お面ライダー組織に登録されているDNAデータには該当者がないため誰なのかは特定できません」

「なんと!困ったことになったな」

 1号はそう言ってから、

「仕方がない。今の装着者がわかるまで少しこのままにしておこう。治郎くんは、我々がベルトの場所を把握していることを知らないしな」

 と、言って、ベルトを元の通りにテーブルの上に置くと、家を出てそれぞれのオートバイに跨り、治郎と2号が向かった方向に走っていった。




 10年後。


 44号のベルトについて、お面ライダーの日本支部ではしばらく監視を続けていたが、この10年間、一度も使われることはなかった。

 治郎から回収しても使用者が登録されている状態では使えないため、お面ライダー組織のデータベース上は2年前から廃棄扱いになっており、すでに誰も注意を払わなくなっていた。


 一方、治郎は、お面ライダー組織には加担せず生身のままで、いまだ市内に出没するニョッカーと戦い続けていた。

 もちろん、改人には苦戦をしたが、高性能な愛車のNinja H2を利用して、車体の前部に鋼鉄製の体当たり用の衝角を、後ろには有線で数メートル先まで飛び出すスタンガンを装着し、時には改人にもある程度のダメージを与えることができており、実際、その仕掛けを使って3体の改人を葬っていた。

 しかし、そのようなハードな使い方をしていたマシンは、当然のごとく戦闘に使用するたびに少しずつ壊れていったので、すでに4代目になっていた。

しかし、治郎はこのマシンが気に入っていたため、程度の良い中古車を探してきては乗り換えていた。弘が遺した遺産があったためその費用には困らなかったが、その金は他のことには一切使わなかった。


 そして、その日も破壊行動を起こそうとしていたニョッカーの雑兵と戦っていた。


「くそっ!応援だ、近くに強化工作員がいるはずだから応援を要請しろ!」

 雑兵の一人が、強化工作員、つまり改人の助けを求めるためにそう叫ぶと、別の一人が治郎に背を向けて駆け出して行った。

「あ、待て!」

 治郎はそう言ってその雑兵を追おうとしたが、別の二人の雑兵に行く手を遮られた。

 雑兵も日々進化しており、最近は、弘と戦ったいたころのように簡単には倒せなくなっていた。


 その相手をしながら、走っていった雑兵が50メートルほど先のビルの角を曲がるのを悔しい思いで見ていたが、その直後にその雑兵はビルの陰から吹っ飛んできて道路の上に転がってぐったりとなった。

「え?」

 治郎が驚いていると、ビルの陰からスラリとした長身で顔立ちの整った女の子が現れてこちらに走ってきた。


 その女の子は、治郎の方を向いている雑兵の一人の背後に走り寄ると、素早く回し蹴りを側頭部に食らわせて吹っ飛ばした。

 治郎は驚きながらも、もう一人の雑兵の顎に下から蹴りを食らわせて倒した。


「クミちゃん、キミ・・・」

「治郎お兄ちゃん、危ないからもうやめなよ!弘お兄ちゃんも喜ばないよ!」

「え?・・・・ああ、そうかもしんないけど・・・それより、クミちゃん・・・」

「私だって弘お兄ちゃんを殺した奴らが憎いから、空手を習って体を鍛えたのよ!」

「えー!?・・・てことは、人にはそんなこと言っときながら、自分はニョッカーと戦う気満々ってこと?」

「だって、治郎お兄ちゃん一人じゃ大変でしょ!ホントは、かなり前から治郎お兄ちゃんがニョッカーと戦ってるのを見かけたときは、ピンチになったら助っ人に入ろうと思って待ち構えていたんだけど、治郎お兄ちゃんが強すぎてそのチャンスがなかったのよ」

「・・・そ、そうなんだ。全然気づかなかったよ」

「そうよ!これでも、相当強いんだからね!」


「なんてこったい!・・・ここまで見込み通りになるとはね」

「・・・え?」

 治郎の意外なセリフにクミは驚いた顔で治郎を見つめた。


 その時、ワニのような改人と雑兵が3人、先ほどクミが来たビルの角を曲がって現れ、こちらに向かって走ってきた。

「ああ、俺がここにいるのを気づかれちゃったか。まあ、デビューにはちょうどいいかな」

「え?治郎お兄ちゃんなに言ってんの」


 治郎は、脇に置いてあった自分のカバンからごっついベルトを素早く取り出すと、クミに放り投げた。それは、かつて弘がしていた変身ベルトだった。


 クミは、空中を飛んでくるそれが何かわからないまま、両手でそれを受け止めたが、手に取ってまじまじと見ていたら、それが何であるか気付いた。

「え?もしかして、これって・・・」

「そう、それは弘がしていた変身ベルトだよ。それで、お面ライダーに変身することができる。クミちゃん、一応聞くけど、今日それを使ったらキミは今後ニョッカーと戦い続けていくことになるよ。ホントにその覚悟はあるかい?」

「もちろんよ!むしろ、ニョッカーとまともに戦えるようになるから嬉しい!」

「そうか、わかった。じゃあ、それを腰につけてバックルの右のボタンを押してみて」


 クミは、まったく躊躇することなくベルトを腰に装着すると、ベルトのバックルを見て変身スイッチの位置を確認しそれを押そうとしたが、何かを思いついたように顔を上げると治郎を見て言った。


「デビューなのよね。それなら、最初はちゃんと決めないと!」

 そう言うと、テレビで見たどっかのライダーの変身ポーズを真似たように左手を右斜め上に上げてからゆっくりと左に回し、

「変身!」

 と叫んで、右手を素早く下に突き出してバックルの右のスイッチを押した。

 その途端、クミは閃光に包まれてお面ライダー44号に変身した。


 それから、身をかがめると、改人に向かって思いっきり突進し、一瞬で改人の目の前に到達すると改人の顔面に強烈な右のパンチをお見舞いした。

 パンチは、開けていたワニのような改人の口の中に飛び込み、後頭部を破壊して突き破った。

 直後、改人はその場で爆散し、雑兵の3人もそれに巻き込まれて吹っ飛んだ。


「おー!強いねえ。しかも、弘と違って実にカッコいいじゃないか!」

 治郎は、一撃で改人を倒したクミの後ろ姿を満足そうな顔で見ながら言った。


 クミは、ゆっくりと治郎の方に向き直ると、治郎に聞いてきた。

「でも、治郎お兄ちゃん、私で良かったの」

「そのベルトはね、前の持ち主が死なないと変身できないようにできてるんだよ」

「え?じゃあ、治郎お兄ちゃんはこれを使わずに10年間ずっ持ってたってこと?これがあれば、もっと楽に戦えたのに」

「いや、実は10年前からそのベルトはクミちゃんしか装着できないようになってたんだよ。だから俺は、使いたくても使えなかったのさ」


「え?」

「弘がクミちゃんたちを守って死んだ日のことを覚えてるかい?」

「もちろんよ!忘れるわけがないじゃない!」

「キミはあの日、俺が迎えに行った時、車の後部座席に寝てたよね」

「うん、目が覚めたら治郎お兄ちゃんに抱っこされてた」

「そう。その直前に弘は亡くなってて、俺はその時、もう弘みたいにケンカもまともにしたことがなくて、戦えば命がなくなるリスクが高い人間にこのベルトが渡るのはどうしても避けたかったんだ。そこでふと、7歳のクミちゃんが装着者になれば、お面ライダー組織も戦えとは言わないだろうと思って、キミが寝てる間に一度変身させて、キミを次の装着者にしたんだよ。キミがか弱い女の子に育てば、一生これを隠し持っておこうと思ってね」


 そこで治郎は、いったん言葉を切った。


「でも、同時に、ナオミさんから非常に運動能力が高いと聞かされていたキミが、お面ライダーとなっても命の危険にさらされないような戦い方ができるようになり、自分で戦いたいと考えるようになったら、キミにそのベルトを託して、一緒にニョッカーの陰謀を阻止して弘の弔いをしようとも考えていたんだよ」


「治郎お兄ちゃん、短い間にそこまで考えたの。スゴいなあ」

「いや、ほとんど直感だったね。頭で考えたというより、なんだか、そうなるかもしれないと感じたという方が近かった。そして、ホントにその通りになったけど、さすがに少し驚いたよ」


「まいったなあ」


 クミはそう言うと、左手を腰にあて、右手を少しだけ上げてVサインを作り、小首を右にかしげて短く「ふふっ」と笑った。

 長々と駄文にお付き合いくださりありがとうございました。


 ずっと以前からヒーローものの不自然さというか、ご都合主義の部分に疑問がありまして、それの答えとしてこれを書き始めました。

 ・体力的に優れた者ばかりが超人になるとは限らないんじゃないか。

 ・生き物なのに死ぬと爆発するのはなぜ?

 ・変身したら名前が変わるってヘンじゃね?

 ・仮面ライダーのスーツが変身するたびにキレイになってるのはなぜ?

といった、ところです。そういう理解不能なところにもツッコミ的に説明を入れているのも、この小説の一つのテーマでした。


 もう一つこだわった点として、「仮面ライダー」というタイトルがついた作品だと、必ず「原作 石ノ森章太郎」って出てくるのが昔から気に入らなくて、そうならないようにしてあるということです。

 だって、それぞれの仮面ライダーのデザインや設定や脚本を考えた人の労力ってかなりのものだったと思うのに、原作者としては決してクレジットされないってかわいそうじゃないですか?

 石ノ森章太郎の名前を出すにしても、「名称設定」とかぐらいでいいと思います。

 だから、お気づきの方もあるかもしれませんが、仮面ライダーをネタにした小説であるにもかかわらず、「仮面ライダー」という言葉は一切使っていません。


 まあでも、基本的には楽しく読めて、読んだ人が少しでも頭のリラックスができるような小説が書きたいという思いから始めたものです。この世の中、ストレスにさらされて精神的に壊れてしまう人が少なからずいるので、そういった人たちを少しでも減らせればいいなぁ~、と考えています。


 ほかにもいくつもネタは持っていますので、少しずつここに投稿していきたいと思います。

 また、お付き合いいただければ幸いです。


※途中に登場するイラストも自作です。

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