第40回 “壮絶なる死闘”
寝かせたところでクミが目を覚ましたので、弘は変身を解いた。
「クミちゃん、俺だよ、弘だよ」
クミは、弘の顔を見て少しにっこりとした。
「弘おにーちゃん!おにーちゃんがお面ライダーだったの?」
「そうだよ。体は大丈夫?」
「うん。ちょっと頭痛いけど大丈夫」
「そう、ちょっと心配だな」
弘がそう言うと、クミは寝たまま視線を左右に送ってから、
「ママは?」
と聞いて来た。
「さっきの怖い人たちから避難して別のところにいるよ。クミちゃんもすぐそこに連れて行くからね。怖くないから、ここでじっとしてて。すぐ迎えに来るから。外から見えないように寝て待っててね」
クミは少し不安そうな顔をしたが、弘がにっこりと自分に微笑んでいるのを見て、
「うん、わかった」
と、返事をしてシートの上でおとなしく目をつむった。
クミのその様子を見た弘は、車の外に出てドアを静かに閉め、再度変身すると建物の方へ戻っていった。
建物の裏を周って反対側に出てから、治郎と戦っていた雑兵の一人に向かって突進し、後ろから前蹴りを食らわれせて吹っ飛ばした。
そこで、ラビアンローズが屋上から静かに降りて来た。
「逃げたと思ったら相棒の加勢をしていたか。でも、そこまでだ」
「こっちこそ、ここからが本番だ!お前みたいな卑怯で子供にも容赦がないようなヤツは我慢ならない!覚悟しろ!」
弘はそう怒鳴り、右腰のバトル・バトンを飛び出させると、ラビアンローズに向かって突進した。
「ふん、お前風情が覚悟しろだと。笑わせてくれるわ。思い知らせてやるからかかってくるがいい!」
ラビアンローズは、余裕の笑みをその顔に浮かべて言った。
弘は、瞬時にラビアンローズの正面に移動すると、バトル・バトンを頭上目がけて振り下ろしたが、それは軽くラビアンローズにいなされた。
続いて横からラビアンローズの右わき腹目がけてバトル・バトンを振るったが、それもラビアンローズの左腕にはじき返された。
次に、ラビアンローズが右腕を弘の頭上に振り下ろしてきたが、弘はそれを左腕で左に払った。そして、一瞬後ろに下がると、すぐにダッシュしてラビアンローズに左肩からのタックルを食らわせようとしたが、それも両腕で阻止された。
その後も、そういった攻撃の繰り返しとなって、そのまましばらく戦いが続いた。
雑兵をすべて倒し終わった治郎は、少し離れた場所からその状況を見ていたが、
(弘の奴、いつもとスピードが全然違う。いつもはこの距離なら移動したり、手足で攻撃したりっていう動きがうっすら見えるけど、今日は動きを止めた時に一瞬見えるだけだ。これが火事場の馬鹿力ってやつか。アイツは怒ると力が出るタイプだったんだな。俺は、アイツが怒ったところは見たことがなかったからな。それと、前と同じで棒のようなものを持っていると格好が様になってる。それも動きが早くなってる理由か)
そう考えて感心すると同時に、何かはわからないがイヤな雰囲気を感じていた。
そのため、オートバイに乗った状態なら先ほどのように自分にも加勢ができるかもしれないと思い、オートバイに跨ってすぐに発進できるようにとエンジンをふかしていた。ヘルメットは、相変わらず被ったままだった。
弘は、最初のうちはラビアンローズに押されていて、何度か攻撃をヒットされて弾き飛ばされたりしていたが、すべて手か足でガードして有効打は受けていなかった。
しかし、そのうち、スピードはあるものの単調な攻撃の繰り返しだったラビアンローズの攻撃を見切って来たのか、徐々に弘が押し始めた。
そしてついに、弘の横蹴りがラビアンローズのわき腹に命中し、ラビアンローズは3メートルほどずり下がった。
「く!この!」
ラビアンローズがそう言って体勢を立て直そうとしたそのとき、治郎のオートバイがラビアンローズの左側に猛烈なスピードで突っ込みラビアンローズをふっ飛ばして転倒させた。
それを見た弘は、瞬時にバトル・バトン手元のボタンを押してサンダーボルト・ライトニングを起動すると、やり投げのようにバトル・バトンをラビアンローズに向けて投げつけた。
お面ライダースーツの威力で超スピードで飛んで行ったバトル・バトンは、向こうを向いたまま立ち上がって来たラビアンローズの左わきの下、やや背中側のあたりに深く突き刺さった。
「ぐあああああ!」
ラビアンローズは、電撃のショックで絶叫し動きを止めた。
次の瞬間、弘は何も言わず飛び上がり、何も言わずにフライング・キックの体勢をとると、ラビアンローズ目がけて降下した。
ラビアンローズは、弘の方を向こうともがいていたが、電撃のショックで体が思うように動かず、やっと、左半身を弘の方に向けるところまできた瞬間、
「うぉぉぉぉぉぉぉーーーー!」
弘がそう叫びながら、ラビアンローズの左脇腹につま先までピンと伸びたフライング・キックを命中させた。
弘の右足は、向こうずねのあたりまでラビアンローズの脇腹にめり込んだ。
ラビアンローズは、「ゴフッ!」と血を吐きながらも、「このぉー!」と叫んで、右腕を自分の脇腹に刺さっている弘の右足に叩きつけた。
普通ならその程度の衝撃は防ぐお面スーツだったが、悪いことに、ラビアンローズが殴ったその場所は、テッポウウオ男との戦闘で一部溶けて薄くなっていた部分だった。
「ボキッ!」という、明らかに骨が折れた大きな音がした。
弘は「ぐあぁ!」と叫ぶと大きくのけぞり、右足がラビアンローズの脇腹から抜けて地面に落下した。
ラビアンローズの左わき腹からは、血が大量に流れ出して来た。
それを見た治郎は、オートバイを降りると、「ひろしー!」と叫んで、二人の方へ走り出した。
ラビアンローズは、右腕の先を鋭く尖らせて大きく振り上げると、
「覚悟するのはお前だ!」
と、叫んで、その腕の先端を弘の胸の真ん中に突き立てた。
「ぐおう!」
と、弘は苦しそうにうめいて悶絶した。
「きさまー!」
治郎は、そう叫びながらラビアンローズに向かって行った。
ラビアンローズは、それを弾き飛ばそうと左腕を左から右に大きく振ってきたが、サンダーボルト・ライトニングと弘の蹴りが効いていたためスピードがなく、治郎は一瞬止まってそれをやり過ごしてからラビアンローズの懐に入り込み、弘が開けた脇腹の穴に右の手刀をまっすぐに突っ込んだ。
それから、
「こんのおぉぉー!」
と、叫んでその手で内臓を掴み、左にねじってから力いっぱい引き抜いた。
ブチブチブチと内臓が千切れる音がして、それと同時に「ぐわー!」とラビアンローズは叫び、そのまま左に3歩ほどよろめいた。右腕は弘の胸から抜け、力なく地面に横たわった。
治郎は、手につかんでいた内臓を投げ捨てると弘に寄って抱きかかえ、ラビアンローズに背を向けた。
その直後、ラビアンローズは爆散した。
「おい!しっかりしろ弘!」
治郎は悲痛な声で弘に向かって呼びかけた。
弘から反応はなく、その胸からは血が流れ出して来て、お面スーツの上に広がっていった。
治郎は、地面に弘を寝かせると自分のヘルメットを取って地面に置き、弘の右手を掴んで呼びかけた。
「おい、弘!弘ー!」
弘はぐったりとしたまま動かなかった。




