第38回 “ニョッカーの作戦”
まず目に入ったのは、ニョッカーのアジトとなっていた採石場のプレハブとは違う、白い鉄筋コンクリート製の立派な5階建ての建物だった。
その建物の正面から少し離れたところには大型の観光バスが2台停まっており、どうやらそれがクミたちの乗って来たバスらしかった。
弘のところから見える建物の窓は、南側を向いていることもありすべてブラインドが下ろされていたため、人がいるかを含めて中の様子をうかがい知ることはできなかった。
遠足のためなのか、元々休日だったせいなのかはわからないが、建物の外には掃除をしている作業服の男が二人いるだけだった。
ただ、子供の声を含めて、ざわざわと人の話し声がかすかに聞こえてはいたので、建物の外のどこかに遠足に来ている一行がいるのは明らかだった。
建物の向こう側の少し離れたところに数台の乗用車が見えたので、それは従業員が通勤に使っている自家用車だろうと推測された。
そのまましばく様子を見ていると、建物の向こう側に積んであった採掘されたと思われる大きな石の陰から、ここの職員と思われる作業服を着た40歳ぐらいの男に引率されて、小学生とその父兄らしき一団が現れた。
父兄のほとんどは父親と思われる男性だったが、数人の母親と思われる女性も混じっていた。
子供たちはみんな、嬉しそうにきゃあきゃあ言っていたが、その手には角ばった小石を持っていた。
「この石、中に何かキラキラ光るものが入っててキレイー」
「そうだね。でも、これは石じゃなくて何かの金属だと思うよ。こういうのも採れるんだね」
親子のそういう会話が弘の耳にも届いて来た。
それから、その一団は正面玄関から建物の中に入っていった。
弘は、会話の「金属」という部分がひっかかっていた。もしそれがレアメタルであれば、ここがニョッカーの拠点となっている可能性が高い。そう考えると、建物の中が気になっため、音を立てないようにゆっくりと建物の方へ移動していった。
幸い、外で掃除をしている二人はこちら側に背を向けていたため、気づかれずに建物の壁までたどり着くことができた。
南側の壁にはりついて、遠足の一行が入って行った玄関の方を伺っていると、外にいた二人が掃除を終えて建物の向こう側に消えたため、弘は、しゃがんで玄関の手前の窓の下に行き、ブラインドの隙間から中の様子を伺った。
その部屋は展示室になっており、ここで採取されたと思われる石の原石や、加工後のものが何点か飾られていた。
弘は、頭を引っ込めて壁に付けると聴音装置を作動させて中の音を聴いた。
聴こえて来たのは、石の素性を順に説明している男の声だった。
(うーん、今のところ普通に説明員の行動のようだなあ。でも、もう少し様子を見るか)
弘は、そう考えて、そのまま部屋の中の音を聴いていた。
しばらくすると、
「はい、この部屋の説明はこれでおしまいです。もう一つ展示室がありますから、そちらに移動しますよー」
という説明員の声が聞こえてきて、ぞろぞろと部屋の外に出て行く足音がした。その足音は、右へ向かったようだったので、弘は一旦壁から離れ、しゃがんだまま回れ右をした。
すると、目の前5メートルほどのところに、虎のような姿をした改人と黒ずくめの雑兵が3人立ってこちらを見ていた。
(しまった!中の音に気を取られて近づいたのに気づかなかった!)
弘がそう思った途端、改人が弘に声をかけてきた。
「やれやれ、また44号くんかね。せっかく陽動作戦を仕掛けて他のお面ライダーを引き付けたのに、どうしてそう鼻が利くんだかなあ」
あきれたような顔で改人は言った。
弘は、体の左側が改人から陰になるようにゆっくりと立ち上がりながら通話スイッチのボタンを押すと、下を向いて膝のあたりの泥をわざと大きくでパンパンという音をさせてはたきながら、小声で「1号」と言った。
「あーあ、見つかっちゃあしょうがないね」
弘はそう言いながら、1号が電話に出たことを確認した。
「しかし、やっぱりここもニョッカーの拠点だったとはね。今回はあれか、遠足の父兄を拉致してその黒ずくめの男たちに仕立て上げようっていう腹積もりか?」
弘は、1号にはっきり聞こえるようにと大きな声で言った。
「うん?・・・ははは、そんなことは考えてなかったな。そうか、これだけの人数がいれば、何人かは適性のある者がいるかもな」
改人は弘が予想していなかった返事を返して来た。
「なに!?では、何の目的でここに来るように仕向けた。トラ男さんよ」
「誰がトラ男だ!私の名前はマサヒコだ!」
「マサヒコ?・・・・・それって、確か支部長付きの幹部の名前・・・てことは、あんた相当強い?」
「誰と比較しての強いだかわからんが、今までお前にやられた強化工作員と一緒にしてもらっては困るな」
(やっぱりか、これはちょっと困ったぞ)
弘はそう思ったが、1号への情報もあるので質問を続けた。
「じゃあ、やっぱりレアメタルか?さっき、親御さんの一人が石の中に金属が含まれていると言ってたからな・・・ん?でも、そうなると小学生たちを遠足に来させた理由がわからないな」
そこで、電話口の1号が小声で言った。
(こちらが片付いたら応援をそちらに行かせる。なんとか時間稼ぎをしておいてくれ)
弘は小声で「はい」とだけ返答した。
「半分は正解だな。ここに来てるのはお前一人みたいだから教えてやるが、確かにここでもレアメタルがとれる。あの親子たちは万一お前たちにここをかぎつけられた場合に、作業が終わるまでの時間稼ぎにと保険として来てもらったんだよ」
「なんだと!?よくもそんな卑劣なことを考えつくな」
「まあ、なんとでも言え。まんまとひっかかった他の奴らを恨むんだな」
改人は、そう言うと高らかに笑った。
「まあ、どうせお前はここから帰れないから大サービスで教えるが、お前が今考えていることは正確じゃない」
「正確じゃない?」
「そうだ。お前は、ここも先日お前が見つけた採掘場と同等と考えてるだろ?しかし、ここの方があの場所の5倍の埋蔵量があるんだよ。だから、あっちは囮にして、わざと会社の痕跡がたどれるようにしておいたのだ。共産圏の某国とレアメタルの取引をしているのがどこの会社か調べがついたら安心してそれ以上の調査は行うまい。うまくいったようで、お面ライダー組織でも、この採石場の真の所有会社までは調べなかったようだな。残念ながら、残りの奴らが気づく頃にはここはもぬけの殻だ」
「なに!?もしかして、すでに大量のレアメタルを採掘し終わっていて、それを今日運び出す予定だったから陽動参戦を仕掛けたうえで人質をとったってことか!」
「そういうことよ。観念しなさい」
女の声が後ろから聞こえて来たので弘が振り向くと、建物の玄関の前に見た目が40歳ぐらいのとてつもない美女が立っていた。
あまりの美しさに、弘はしばし見とれていたが、数秒後に我に返って改人に向かって聞いた。
「あの綺麗なおねーさんは誰?」
「あの方は日本支部長のユリア様だ!ふふん、あまりの美しさに驚いているようだな」
「うん、そこは認める。こんなキレイな人には初めて会ったかも。貧乏神博士の言ってたことは嘘じゃなかったなあ」
「そうだろう、そうだろう」
改人は、なぜか自分が褒められているような反応で言った。
そこで弘は、一つのことを思い出してユリアに向かって聞いた。
「日本支部長ってことは・・・・え?あんたホントに65歳?」
「まあ!レディーに歳を聞くなんて何て失礼な男なの!育ちが知れるわ!」
ユリアはそう言ったが、マサヒコは弘の質問を肯定するようにうんうんと頷いていた。
「いや、うちは古くからの名家なんだけど・・・あーそうかー、高度なバイオテクノロジーを持った組織だものなあ。整形とか見た目を若返らせるとかお手のものだよなあ」
「失礼な!私は整形も若返りもしていない!これが素の見た目よ!」
「ああ、まあ、そういうことでいいですけど」
「キー!ますます失礼なヤツ!私が成敗してくれるわ!」
「あ、成敗なんて言葉使うところあたりは年相応だなあ」
「うるさい!いくわよ!」
そう言うと、ユリアは両手を真上に上げてからゆっくりと左右に開くような動作をとった。
その途端、タコデビルのように体がうにゃうにゃと変形を始め、数秒後に改人に変身した。
その姿は、頭部はまんま薔薇の花で、両手がトゲのたくさんついた緑色の鞭のようになり、両足も太さはそのままながら、やはりトゲに覆われて、つま先が上を向いた緑色のものになった。




