第37回 “遠足”
「あ、弘おにーちゃん」
金曜日の夜の7時過ぎに、弘が駅前のスーパーマーケットで夕飯の買い物をしていると、後ろからかわいい声で呼び止められた。
「お、クミちゃん。それに、ナオミさん。こんばんは」
弘が振り返ると、その声は隣に住むクミであり、その隣に母親のナオミが立っていた。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「明日、クミと一緒に遠足に行くんで、おやつの買い出しに来たってわけ。仕事終わってからだからこんな時間になっちゃったのよ。ホントは父親同伴の遠足なんだけど、うちは私しかいないから私が一緒に行くのよ」
「へー、遠足ねー。クミちゃん楽しみなんだねー」
「うん、色んな綺麗な石が見られるんだってー」
弘がしゃがんでクミの頭をなでながら聞くと、クミは嬉しそうに答えた。
「石?」
石という言葉に引っかかって、弘は聞き返した。
「そう。水草石の採石場に見学に行くんだけど、そこにサンプルとしていろいろな色の水草石が飾ってあるらしいのね。それが、どれも綺麗だって評判なのよ」
「それ、場所はどこですか?住所わかります?」
「え?」
弘がまじめな顔で聞いてきたので、ナオミは少し驚いた。
「えーと、確か学校で配られた連絡票がここに入ってたと思うけど・・・」
そう言いながら、ナオミは自分の持っていた手提げバッグを開いて中を探った。
「ああ、あったわ。ここに書いてあるわ」
「すみません。ちょっといいですか」
弘は、立ち上がってナオミから連絡票を受け取ると住所のところに目を通した。
(この住所は、前にニョッカーのアジト探索に行ったときに候補に挙げてた③の場所だな。でも、最初に行った場所がビンゴだったたからここは大丈夫か)
「あ、どうもありがとうございます」
そう言って、弘は連絡票をナオミに返した。
「住所がどうかしたの?」
「ああ、いえ、採石場って結構ここらからは遠いから、歩きだと大変だけどどこまで行くのかなって思って」
「ああ、それなら大丈夫。バスで行くのよ」
「あ、そうですよね。さすがに小学校低学年の子が歩ける距離じゃないですからね」
「そうよ。まあ、子供より親の方が大変だけど」
そう言ってナオミは笑った。
「じゃあ、気を付けて行って来るんだよ」
「うん」
弘が、再びしゃがんでクミにそう言うと、クミは嬉しそうに返事をした。
それから、弘はクミたちと別れ、自分の食料を買い込んでから家に帰って行った。
弘は、家に帰ってから夕飯を食べながらも採石場という場所がやはり気になっていたが、ニョッカーが所有している会社であれば小学生の見学など邪魔になるだけだから受け付けないだろうとも考えていた。
次の日の土曜日、治郎は仕事があるため、弘は一人で採石場跡地に行ってお面スーツの訓練をするつもりで朝の8時頃に起きてハムエッグとトーストの朝食を食べていたが、
(やっぱり、遠足場所の採石場が気になるなあ。いつもの採石場跡地に行く前に、ちょっと覗いてみよう)
と、考えていた。
朝食を食べ終えて、コーヒーを飲んでいると自室の方から電子音が聞こえて来た。変身ベルトに着信があった時の音だ。お面ライダーの面々は、弘が土日は休日なのを知っているので、土日はまず変身ベルトに電話がかかってくるのが普通だった。
弘は、あわてて自室に行き、お面ライダーに変身して電話に出た。
電話は1号からだった。
「キミが発見してくれたニョッカーのアジトとなっていた採石場にうちの日本支部の一般職員を3名監視役に置いておいたんだが、今、そのうちの一人からニョッカーの急襲を受けたと連絡があった」
「え!?」
「改人2体と雑兵がかなりの数来ているということだ。とりあえず、4号と6号を向かわせたが、私と2号を含むこの地域の要員もすぐに出発する。キミも現地に向かって欲しい」
1号は、緊迫した声で弘にそう告げた。
「わかりました。しかし、なんでまた」
「どうやら、採掘したレアメタルの一部をあの場所に隠してきたらしく、それを奪還しに来たようだ」
「なるほど。では、後ほど」
そう言って弘は自分から電話を切ると、一旦、変身をといてから玄関まで走り、外に出てブリザードを勢いよく発進させた。変身ベルトは装着したままだった。
しかし、走りながら腑に落ちないものを感じていた。
(ニョッカーは今まで、なるべく目立たないように行動していた。しかも、監視役はお面ライダーでもない一般職員が3人だと1号さんは言ってたから、そんな大人数で襲う必要性もない。雑兵だって常人よりはかなり強化された人間なんだから、改人が出張っていく必要性も高くない。うーん・・・)
そう考えると、やはり、弘にはクミたちが遠足に行った採石場が気になって来た。
弘は、郊外に出て人通りがなくなった場所でブリザードを走らせながらお面ライダーに変身し、治郎に電話をかけた。
「おう、どうした」
「俺たちが見つけたニョッカーのアジトになってた採石場が、改人2体を含むニョッカーの集団に急襲されたとのことで、俺は今そこに向かっている」
「なに!?」
「ただ、その場所にいたお面ライダー支部の要員は、一般職員が3人だけだったということなんで、俺はどうもそのやり方がひっかかって仕方がない。お前はどう思う」
「うーん・・・確かに、今までのニョッカーのやり方とは明らかに違うな。怪しいと言えば怪しい」
「それで、うちの隣のクミちゃんとナオミさんが、今日、俺たちが探索に行く予定にしていた③の採石場に父親同伴の遠足に行って・・・父親同伴!?そうか!」
「それは・・・こないだのスポーツジムのそばの公園でやろうとしていたことと同じことが考えられるな」
「そうだ!きっとそうだ!だから、俺は、まずそこに寄ってからアジトの方へ向かうことにする。お前も出られるなら来てほしい」
「わかった!仕事はなんとかする!」
「すまない」
弘は、そう言ってから電話を切り、続けて1号に電話した。
「44号か。何かあったか」
「すみません!どうも、他の採石場で気になることがあって、俺はそっち寄ってからアジトに向かいます」
「なに?どういうことだ!?」
弘は、それから治郎に語ったことと同じことを1号に説明した。
「わかった。しかし、何もなかったら、すぐにアジトの方へ来てくれ。こっちも大変な状況だからな」
「わかりました」
弘は、そう返事をしてすぐに電話を切った。
治郎は、仕事を切りのいいところまで片付けると、戦闘スーツに着替えながら、別の車で作業をしていた父親に向かって大声で言った。
「親父、悪い!ちょっと急用ができたから出かける!」
「なに!?その車は、明日の朝引き取りに来ることになってるんだぞ!どうするんだ!」
「帰って来たら徹夜でも何でもして朝までには仕上げるよ!今日は勘弁!」
そう言ってから、後ろから怒鳴っている父親の声を無視してHS SXに跨り、急加速で発進して行った。
弘は、胸騒ぎがだんだんと強くなっていき、今日ばかりは、最高速度が120キロ程度しか出ない原付に乗っていることを恨んでいた。体力的に自分の足で走っていける距離ではなかったので、120キロのスピードをひどくのろく感じながらブリザードを走らせていた。
対する治郎は、自分のマシンの性能いっぱいにマシンを加速させ、200キロを超えるスピードで街中を走り、郊外に出て直線が多くなった場所では、300キロまで加速して目的地に向かっていた。
途中、白バイに見つかって追いかけられたが、気がせいていたので、それすら気づかずに先へ先へと進んで行ったら、いつの間にかその白バイを振り切っていた。
弘は、目的の採石場の入り口に近い坂のところまでたどり着くと、ブリザードをそこに停めて、走って採石場の入り口まで移動し、頭だけ出して様子を伺った。




