第23回 “人間カーチェイス”
「ふざけやがって!貴様ら、なぜ俺たちがここに来るとわかった!」
「いや、たまたま」
「なに!・・・恐ろしく感の働くヤツだ!お面ライダー、侮れんな」
(えーと、なんか勝手に過大評価してるみたいだけど、あのバカどうする?)
弘は小声で治郎に聞いた。
(幸い二人だけみたいだから、今のうちにやっつけちまおう)
治郎も小声で答えた。
それを見た改人は、
「何をこそこそ小声でしゃべってる!ここで会ったのがお前たちの運のつきだ!覚悟しろ!昨日、俺の攻撃の恐ろしさを見ておきながらまた現れるとは、バカな奴らだ」
「バカはお前だ!今、この近辺には、昨日俺たちが行った採石場について調査するために、お面ライダーの日本支部の構成員がかなりの数来てるんだぞ!」
弘は、事実を怒鳴り返した。
「なに!・・・ふん!そんなハッタリにひっかかるか!」
「今、他のお面ライダーに連絡したからハッタリかどうかはすぐわかる。今日は、手下も一人しかいないようだが、それで大人数を相手に出来ると本気で考えてるのか!?」
と、今度はハッタリをかましてみた。
それを聞いた改人は、明らかに動揺した様子を現し、
「なんだと!ちぃっ!・・・仕方ない!今日は引き上げだ。乗れ」
と、雑兵の方を向いて言った。
それから、弘と治郎の方に向き直ると、例のなんでも溶かす液体を口から噴射してきた。
弘は、その攻撃が来ることをあらかじめ予想していたので、素早く治郎の腰に右腕を回して治郎の体を抱えると左斜め上に飛び上がった。
そのすきに、改人と雑兵は素早くメガクルーザーに乗り込み、それを発進させた。
「しまった!」
弘はそう叫んだが、思いっきり飛び上がっていたので、着地するまでに少し時間がかかった。
着地した時には、メガクルーザーは坂を下って視界から見えなくなっていた。
「追うぞ!」
そう言ってから弘は、治郎をつかんだまま二人のマシンが止めてあるところまで瞬時に移動した。
それから、二人はそれぞれ自分のマシンに乗って、ほぼ同時にスタートさせた。
進入路の坂を下っていく途中で、メガクルーザーが幹線道路に出て左に曲がって逃走していくのが見えた。
治郎は、それを追って幹線道路に入ったところで左を向いて並走しているばすの弘に話しかけようとした。
「弘・・・あれ?」
しかし、そこに弘の姿はなかった。
後ろを振り返ると、弘はすでに治郎からかなり遅れており、その差がどんどん広がっていくところだった。
「あ、そうか!あいつのブリザードは原付だった!」
治郎がそう言った直後に、
「おーい!置いてかないでくれー!俺のブリザードはそんなにスピード出ないよー!」
と、弘が治郎に向かって悲痛な声で叫んだ。
「あーもう・・・お前を待ってたら逃げられるから先に行くぞ!」
治郎は、大きな声で弘に向かってそう言ってから、改人が逃げた方に向き直ったが、すぐに再び弘の方を振り向いて言った。
「・・・もしかして、お前、自分の足で走った方が早くねーか?」
「あ!そうだな!」
弘はそう言うと、ブリザードから降りてスタンドを蹴って立てようとしたが、慌てていたので思いっきり蹴ってしまい、「バキッ!」という音とともにスタンドがもげて、ものすごいスピードで飛んで行った。
弘は、スタンドを立てる動作と連動するようにハンドルから手を放してしまったので、「ガシャン!」という音とともにブリザードは横倒しになった。
それを見た、オートバイを停めて待っていた治郎は、
「やっぱり先に行く!」
と、弘に向かって怒鳴って、すごい勢いで改人が逃げた方に向かって加速していった。
「ああー!なんてこったい!」
弘は、その場で少しあたふたしたが、
「うー、もう、今はしょうがない!」
と、言ってから、ブリザードをそのままにして全速力で治郎の方に向かって駆け出した。
しかし、治郎のマシンにはすぐに追いつけると思ったのに、予想していたよりはるかに少ない距離しかつまっていかなかった。
「あいつは一体何キロで走ってるんだ!?」
弘はかなり驚いていた。
治郎は、昨日の1号の話で、
(俺がスピード違反しても揉み消してくれるに違いないぞ!このマシンの性能を試すチャンス!)
と考えていた。
道路はほぼ平坦な山間の田舎道だったため車の往来もなく、道路の左右にたまにポツンと民家があるだけの林や畑が続くような場所だった。
また、時々緩いカーブがあるものの、断続的に直線が続きスピードを出すにはもってこいだったこともあり、スピードメーターはすでに250km/hを指していたが、まだまだ加速する気配だったので、治郎は、改人を追いかけながらもチラチラとスピードメーターを見て一人でニヤニヤしていた。
治郎は、長い直線が出てきたところでさらに加速したが、ふと、自分の左側に何かの気配を感じたので一瞬だけ横目でそっちを見たら、そこにお面ライダーの弘がいてビックリした。
「うわっ!お前がここまで速いとは!ビックリだ!」
弘は、前方を見ながら大声で言った。このスピードだとマシンを制御するのが大変なので、よそ見は禁物だった。
「いや、お前のオートバイこそビックリだわ!何キロ出てんだよ!」
と、自分の足で走っている弘は、治郎よりも余裕があるため、治郎の方を向いて怒鳴った。
「320キロ!」
治郎は前を向いたまま、チラッとスピードメーターを見て怒鳴った。このスピードだと、エンジン音がうるさくて怒鳴らないと聞こえなかった。
「えー!すげー!・・・・でも、お前を待ってたら逃げられるから先に行くぞ!」
弘は、さっき治郎に言われたセリフをそのまま返して治郎を徐々に引き離して前に進んでいった。
治郎は、ムッとしてさらにアクセルをひねる右手に力を込めたが、すでにいっぱいにひねってあったので、スピードメーターの数字は上がってるものの、そのまま弘から少しずつ遅れていくかたちになった。
「後ろから何かが迫って来ます!」
メガクルーザーを運転していたニョッカーの雑兵が、ルームミラーを見ながら叫んだ。
「うん?何かって何だ?」
改人がそう言いながら後方を振り返ると、恐ろしいスピードでお面ライダーが走って迫って来るのが見えた。
「なっ!あいつ、走って追いかけてきたのか!」
そう言ってから運転手の方に向き直り、
「おい!もっと飛ばせ!」
と、怒鳴った。メガクルーザーのスピードメーターはすでに160km/hを指していた。
しかし、弘はそれから5秒ほどでメガクルーザーの5メートル後方まで追いついた。
そして、
「とうっ!」
という掛け声とともに前方に飛び、
「うりゃっ!」
と叫んで、メガクルーザーの後部ハッチ真ん中あたりに飛び蹴りを食らわせた。
弘の蹴りは、後部ハッチどころか、積んであった通信機材ごと荷室の床も貫通し、後輪のデファレンシャルを粉々に砕いた。
メガクルーザーの後輪は左右にはじけ飛び、車体は水平にスピンすると100メートルほど滑って止まった。
運転していた雑兵は、スピンしている最中にその勢いでフロントガラスを破って車外に放り出されて弘の方に飛んできた。どうやら、シートベルトをしてなかったようだ。
弘は、それを避けつつ、止まったメガクルーザーに走って追いついた。
すると、「バキッ!」という音ともに後席右側の扉が車体から外れて飛び、5メートルほど先の道路に落下した。扉がなくなった後席の乗降口からは、改人が頭を出して降りて来ようとしていたが、潰れた車体に体のどこかを挟まれたらしく、肩から上を出した状態でもがいていた。
「あれ?チャンス?」
弘は、「とうっ!」と、叫んでほぼ真上に飛び上がり、
「ふるぁいーーーーーんぐ」
という掛け声とともに改人に向けて飛び蹴りの姿勢で降下していった。
しかし、そこで改人は挟まれていた部分が外れたらしく、ずりっ、という感じで背中の下の方まで車外に這い出してきた。その背中には、例の、なんでも溶かす危険な液体が納められたタンクが2本あった。
「うわっ!やばい!」
弘は、そう叫びながらとっさに両足を大きく開いた。そして、改人に到達するギリギリのところで左足でメガクルーザーの屋根を蹴って体を右へ飛ばした。
しかし、とっさの行動だったため、大きくバランスを崩して道路に肩から落ち、そこからさらに外の畑の中にまで転がった。




