第20回 “恐るべき攻撃”
「なに言ってる!お前ひとりじゃ大変そうだから助っ人に来たんだろ!」
と、治郎は弘に怒鳴り返したが、その声を聞きつけた改人が治郎の方に向きを変えた。
「ほう、その声は、先週うちの工作員を痛めつけてくれた、動画に声だけ入ってたヤツだな。一人で9人も倒したそうじゃないか」
「ああ、そうだ。あんな程度の奴らならいつでも来いだ」
「そうか、そうか。なかなか見どころがあるヤツだな。それじゃ、ほっとくと色々と面倒そうだから、お前からあの世に行ってもらおうか」
そう言うと、改人は治郎に向かって来ようとした。
しかし、次の瞬間左に吹っ飛んで崖に叩き付けられていた。改人が立っていた場所のすぐ向こう側には弘がおり、後ろから回し蹴りをお見舞いしたところだった。
弘は、それから治郎のところまで移動し、
「改人のパワーや防御力の高さは雑兵とはまるで違う。生身の人間じゃ一瞬で骨や内臓が粉々に破壊されるぞ!俺は先週、シロサイ男と戦ってそれがよくわかった。だから、お前は改人には手を出すな」
弘は治郎に向かって怒ったように言った。
「そうなのか?先週の戦いを見ても、そこまでのようには見えなかったが」
治郎は、困惑したように答えた。
そこで、改人が起き上がって、5、6歩、二人の方へ向かって歩いてきたが、一旦、立ち止まり、
「まとめて始末してやる!くらえ!」
と、言うと、口から消防車の放水のように細長い水流を発射した。
弘は、とっさに治郎を軽く右に突き飛ばすと、自分も左側に避けた。
改人の放った水流の飛沫が、少しお面スーツの足の部分にかかった。すると、焦げたように煙がでて、お面スーツの表面が少し溶けた。
「なに!」
弘は驚いてさらに少し後ろに飛び下がると、
「治郎、気を付けろ!あれは水じゃないぞ!硫酸か何かだ!」
と、治郎に向かって叫んだ。
「なんだと!・・・そういえば、さっき後ろから見たときに、スキンダイバーが背負ってる空気ボンベのようなものが二つ背中に付いてるのが見えたが、あれは何か劇薬のタンクだったのか!それが口から出たってことは、首の後ろにそのボンベから出たパイプを突っ込んでるってことだよな。確かに、そんな風に見えた」
「うえー!えげつない改造をするなあ」
弘は、不快そうに言った。
「お前らのお察しの通りだ。もっと遠い距離まで飛ばせるから観念するんだな」
改人は、弘と治郎を交互に見ながらそう言ったが、そのとき、建物の左右から、外で作業していた作業員が騒ぎを聞きつけて集まってきた。
「あ!お前は、お面ライダー!」
弘の後方からやってきた集団の先頭の男が叫んだ。
その声が合図かのように、両集団の作業員たちがスピードを上げ、それぞれ弘と治郎に向かって突進してきた。
その声で弘が作業員たちの方を振り返ったのを見た改人は、先ほどの水流を弘めがけて放った。
「弘、危ない!飛べ!」
それを見た治郎が、弘に向かって叫んだ。
弘は、改人の方を振り替えると、あわてて治郎の方に向かって斜め上に飛び上がった。
改人の水流はギリギリのところで外れ、今まで弘が立っていた場所の少し後ろの地面にたたきつけられた。すると、その部分の地面は煙を上げて溶けて窪みになった。
それを見た弘の後ろから迫っていた作業員の一団は足を止めた。治郎の方に迫っていた一団も、その距離が3メートルほどになったところで全員止まった。
「どうした!お面ライダーだぞ!そっちの男も仲間だ!かかれ!」
と、改人が二つの集団を交互に見ながら怒鳴った。
「いや、これ以上近寄るとそれがかかっちゃうんで」
弘の後ろから迫っていた一団の先頭の男が、液体でできた窪みを指さしながら言った。
「次は、こっちにそれを飛ばしてくると思うんで、少し離れとかないと」
治郎の後ろから迫っていた一団の中の一人が言った。
「ばかもん!お前らにはかからないように制御するわ!」
「ホントですかあ?」
「なんだと!」
それを見た、治郎のそばに着地していた弘は言った。
「ちょっとこの人数じゃ対応しきれないな。一旦、撤収しよう、内輪もめしてる今がチャンスだ」
「ああ、同感だ」
治郎はそう言うと同時に、飛び上がって弘の背中におぶさった。
「え?」
弘は、驚いて治郎の方を見た。
「早く行けよ!こんなに大勢に見られてたら恥ずかしいじゃないか!お前と一緒に移動した方が早いだろ!」
「あ」
弘は、短くそう言うとクレーンの上に向かって飛び上がった。
しかし、飛び上がる方向が悪くて、支柱の下から7、8メートルぐらいのところに頭から突っ込んでしまい、はじかれて落ちそうになったが、治郎がとっさに右手を伸ばして支柱を掴んだ。
「バカ!なにやってんだ!」
治郎が背中から怒鳴った。
「悪い悪い。ちょっと目測を誤った」
弘はそう言いながら支柱を掴んで足を乗せると、今度はしっかりと方向を見定めながらさらに2度上に向かってジャンプし、崖の頂上に近くなったところで崖の上に向かって飛び上がり、その上に着地した。
「あ、逃げるぞ!」
その様子を見た、治郎の後ろから迫っていた一団の一人が叫んだ。
「なに!」
クレーンとは反対側の作業員の方を向いて口論していた改人がそう言ってクレーンの上の方を見上げたときには、弘と治郎はすでに崖の上に姿を消していた。
弘は、治郎をおぶったまま、崖の最初に上ってきた場所まで素早く移動すると、回れ右をし、ひょい!という感じで飛び降りた。
「ええっ!」
治郎は思わず声を上げて弘につかまっている腕に力を込めたが、弘は、すぐ下の崖の斜面に両手両足で着地すると、その姿勢のまま傾斜している崖の地面をブレーキにしながら滑り降りて行った。
「こっち側はある程度傾斜があるから、一気に下まで落ちることはないよ。心配するなって」
弘は、少し笑いながら言った。
「お、俺は大丈夫だよ」
治郎は、弘におんぶしたまま誤魔化すように言った。
「追え!」
改人は、作業員たちに向かって怒鳴った。
治郎に近い方にいた作業員たちがクレーンの支柱をよじ登って行ったが、崖の頂上の高さまでたどりついたところで、
「だめです!崖が遠すぎて飛び移れません!」
と、言った。
確かに、崖側からなら助走を付ければ飛び移れるが、クレーン側からは無理な距離だった。
「くそう!いまいましい!」
改人は毒づいた。
「あ、そうか!」
崖の下にたどりついて治郎を降ろした弘が言った。
「ん?なんだ、どうした」
「さっきの改人、テッポウウオだよ!」
「ああ、なるほどー!口から水鉄砲で攻撃してくるところは確かにテッポウウオだな!」
そう言いながら、治郎はスマホを出してテッポウウオの画像を検索した。
「おおー!確かに銀色の体で、一番上が黒くて、その下が黄色いよ」
治郎は、弘にスマホの画面を見せながら言った。
「なるほどー。確かにそうだ」
「テッポウウオなら魚から改造しても強くなるな。しかし、よくそんなところに気づいたな・・・ところで、この後どうする?」
「ここにいると追手が来るかもしれないから、とりあえずマシンのところまで戻ろう」
マシンのところに到着したら、マシンの陰になる位置の地面に二人して腰を下ろした。用心のため、弘は変身を解かずにいた。
「うーん、どうするかなあ。このまま見逃すわけにもいかないし・・・・とりあえず、1号さんに報告しとこう」
「ああ、そうだな」
弘は、座ったままベルトの通話ボタンを押して「1号」と言って電話を掛けた。
呼び出し音が2回鳴ってから1号が出た。
「1号だ」
「あ、44号です。一つ報告が」
「なんだね」
「ニョッカーの拠点の一つを見つけました」
「なに!?それは本当か!よくやった!」
1号は、やや興奮したような声で言った。
「場所はですね、先週俺たちが戦った場所の北にある採石場で、住所は・・・ちょっと待ってください」
弘は、そう言ってから少し腰を浮かせてバイクの収納場所からバックパックを出し、そこから地図を取り出した。
「住所は、石野町2-6-3です」
「石野町2-6-3・・・と。わかった。それで、どんな様子だ」
「見た目は普通の採石場で、作業員も普通の作業着を着て作業しています。でも、建物の中に改人がいました」
「なに!?そうか!どんなヤツだった?」
「テッポウウオ男でした」
「テッポウウオ男?」
「はい。テッポウウオのように口を水鉄砲にして攻撃してくるんですが、この液体が硫酸か何かで、触れるものをなんでも溶かしちゃうんですよ。お面スーツの足の部分も一部溶けました」
「なに!?お面スーツが溶けただと!・・・それは、かなりやっかいだな」
1号は、驚いたような声で言った。
「はい。俺たちもその攻撃がやっかいだと判断したのと、作業員も大勢いたんで、これは適わないと思い撤収して来ました」
「了解した。その判断は賢明だ。作業員は何人くらいいたかね」
「4、50人はいたと思います」
「そうか・・・隣の市でも改人が目撃されたという情報があり、4号と6号がそこにいるのでそっちに向かわせる。ただし、その人数だとあの二人でも少し荷が重そうだから、とりあえず偵察だ。私は今、東京にいるので、こちらで増援を編成してすぐにそちらに向かう」
「わかりました。俺たちはどうすればいいですか?」
「キミたちは速やかにその場を離れてくれ。追撃してくるかもしれないから、一旦、完全に撤収したと思わせたい」
「了解です。では」
そう言って、弘は電話を切った。
「そういうことだから、俺たちは帰ろう」
「ああ」
それから、二人してマシンに跨り元来た道の方へ戻って行った。
途中、追手が来ていないか二人して何度も振り返りながら走行していたが、誰も来ないので幹線道路に出る少し手前で弘は変身を解いた。




