第19回 “アジト発見”
「なんか、従業員が普通に作業してるように見えるな」
「そうだなあ。ここは違ったか?」
「まあでも、1号さんは雑兵は一般人のふりをしているって言ってたから、もしかしたら数人紛れ込んでるかもしれない。もう少し様子をみよう」
「そうだな。じゃあ俺は右の方を見るから、お前は左を頼む」
「わかった」
しばらく二人で、採石場で働く人や工作機械を観察していたが、特におかしなところは見当たらなかった。
2分ほど様子を見ていたが、何も変化がないので、
「やっぱり違うんじゃないか?ここは、普通の採石場だろう」
と、治郎が言った。
「そうだなあ。じゃあ、次に行くか」
と、弘は肯定して、最後にもう一度という感じで採石場全体を見渡したが、事務所と思われるプレハブの2階建ての建物の向こう側に黒いものが見えて目を止めた。
「おい、治郎!あの建物の向こう側に少しだけ見えている黒い車はランドクルーザーじゃないか!?」
と、その方向を見たまま指さして言った。
「なに!?」
治郎が弘の指さした方を見ると、建物の陰になっていてフロント部分の一部しか見えないものの、それは、先週、雑兵が乗って来たのと同じタイプの黒いランドクルーザーのようだった。
「ここじゃよく見えないから、少し移動しよう」
弘と治郎は、その車がよく見える位置へと崖の上を左に移動して行った。
フロントガラスまで見える位置まで来たとき、
「ああ、あれは間違いなくランドクルーザーだな。しかも、真っ黒だからニョッカーの車だっていう可能性が高いな」
と、治郎が言った。
そう言いながら、さらに左に移動したが、そこで治郎が声を上げた。
「あ!その奥に真っ黒のメガクルーザーも停まってるぞ!」
その声で弘が身を乗り出してみたら、確かに黒いメガクルーザーが1台停まっていた。
「ランドクルーザーは普通に見かける車だけど、メガクルーザーはめったに見る車じゃないぞ。少なくとも俺は実物を先週初めて見た。しかも、黒は珍しいな」
と、治郎は言った。
「ああ、確かにな。俺も自衛隊の車以外では、先週見たのが初めてだ」
「え?高機動車のことか?そんなのいつ見たんだよ」
「高校生の時に、親父の車に乗って高速を走っていたとき、同じ方向に走っていくのを追い抜いた」
「そりゃ、貴重な体験をしたな・・・って、そんな話をしてる場合じゃなかった。どうするよ?」
「これはちょっと、あの建物を調べてみた方がいいな。俺、ちょっと行ってくるよ」
「ちょっと待てよ、一人で行くつもりか?俺も一緒に行くぞ」
「いや、ここから飛び降りなきゃいけないからお前には無理だろ。高さ30メートルはあるぞ。登りはショックがないからいいけど、俺がおぶって行ったとしても、降りるときは衝撃がモロに体に伝わるから生身じゃ耐えられないと思うけどな」
「えー?・・・あーそうかー、確かになあ。それに、よく考えたら、お前におんぶしてたとしても、こんな高さから飛び降りる度胸はさすがにないなあ」
と、治郎は残念そうにではあるが、納得という感じで答えた。
「ちょっと、ここで待っててくれ。お前のスマホの電話番号はこいつに登録しといたから、何かわかったら電話で連絡する」
弘は、ヘルメットのこめかみ部分を右手の人差し指でコンコンと小突きながらそう言った。
「わかった。着信音が聞かれるとまずいからマナーモードにしとくよ」
治郎は、そう言ってからスマホを取り出してマナーモードに設定し、そのまま右手でスマホを握りしめた。
「よし」
弘はさらに少し左移動して資材が積んである場所の真上に立ち、建物から陰になるようにその資材の裏側に飛び降りた。
それから、身をかがめて普通のスピードで建物の窓の下まで行って右ひざをついてしゃがみこみ、ベルトの左側にある小箱のふたを開けて青いボタンを押した。
このボタンは、集音マイクのスイッチであり、壁に押し当てることで室内の音や会話を聞くことができるようになっていた。
耳の部分を壁に付けた途端、中の会話が聞こえて来た。
「状況はどうなっている」
「は!少し遅れ気味ですが、1名増員したので、すぐに取り戻せると思います!」
「今日の最終納品物の出荷時間を遅らせらると支部長のお仕置きが待ってるぞ!心してかかれよ!」
「はい!出荷時間は死守します!」
弘は、この会話の「支部長」という言葉がひっかかった。
(普通の会社で支部長とかって言うか?まあ、可能性はゼロじゃないが、かなり怪しいな)
そう考えて、ゆっくりと立ち上がると窓の端から中の様子を伺った。
事務所の中には、向かい合わせの席で、それぞれパソコンに向かっている作業着姿の男が二人いたが、視線の左端に銀色の大きい何かが見えた気がしたので、もう少しだけ窓に寄って中を見た。
すると、そこには、全身鈍い銀色の体に、頭頂部が黒く、肩のあたりが黄色い赤ら顔の巨漢が座っていた。
明らかに改人だった。
弘は、再びしゃがむとベルト左の電話発信スイッチを押して「治郎」と言った。
1回の呼び出し音で治郎が出た。
「何かわかったのか!」
「ああ。事務所の中に改人がいた。他に、作業着を着た男が二人いるが、こいつらもニョッカーだろう」
「改人だと!?やっぱりニョッカーの拠点だったか!しかし、一つ目の採石場でビンゴとはな!」
治郎は言い、さらに、
「ところで、何の姿をした改人だ?」
と、聞いてきた。
「なにって・・・うーん、難しいけど、たぶん魚だな」
「魚?」
「ああ、顔の左右の幅が狭くて、それでいて前後に長く、顔の前半はするどいエッジになってて、両側に目が一つずつ付いてる。あれじゃ、それぞれの目は、反対側は見えないな。んで、頭頂部は背びれみたいになってる」
と、弘は改人の見た目を説明した。
「明らかに魚だなそりゃ。でも、何の魚かな?」
「下が銀色で、上が黒と黄色の魚・・・なんか、熱帯魚で見た気がする」
「熱帯魚~?それって、改人にする価値あるのか?強くならなくないか?」
「そうだよなあ・・・あ!水で攻撃して来るとか」
「ああ、それはあるなあ。体のどこかから水を発射するんだな?」
「そうだとすると注意しとかないとな」
そうやって二人が話に夢中になっているとき、弘の後方でドアが開く音がした。
弘が振り返ると、作業着を着た男が建物から出てくるところで、弘が見るのとほぼ同時に弘に気づいた。
「なっ!お前、お面・・・」
言い終わらないうちに、弘はその男の目の前に一足で移動し、左手で口を押えると同時に、右の拳をその男のみぞおちあたりに叩き込んだ。
男の首から下は、弘のパンチの威力で後方に大きくスゴいスピードでなびいたが、弘が口のあたりを押さえていたため、首のあたりから「ボキッ!」という大きな音がしたかと思うと、そのまま動かなくなった。
「やべっ!首の骨折っちゃったかな?うーん、力加減が難しい」
弘は、そう言ってから左手を離した。男は、変な方向に体を捻じ曲げた感じで地面に横たわった。
崖の上からその様子を見ていた治郎は、
「あれ?なんか今の動きは良かったな。アイツも少しはお面スーツに慣れてきたってことか?」
と、ニヤリとしながらつぶやいていた。
弘は、倒した男を小脇に抱えて先ほど飛び降りた資材の裏に素早く移動するとそこに置いた。
それから、また、素早く窓の下に戻ると、
「じゃあ、俺はこれから中に突入するから、お前はそこで待っててくれ」
と、治郎に言った。
「何バカなこと言ってんだよ!建物全体には何人いるかわからないだろ!危険だ!」
「バカ!大きい声を出すな。気づかれる。まあ、たくさんいたときは、建物の壁をぶち破って逃げるさ」
そういうと、しゃがんだままの姿勢で、開け放たれたままになっていた、先ほどの男が出てきたドアからゆっくりと建物の中に侵入した。
「おい!待てって!」
治郎はそう怒鳴ったが、言い終わらないうちに電話は切れた。治郎は顔からスマホを離してその画面を見たが、
「あ、くそ!番号が非通知になってる。あのスーツの電話番号は聞いてなかった!」
と、言い、それから、降りられるところはないかと周りをキョロキョロと見回した。
すると、建物よりさらに左に行ったところに、てっぺんが崖より上に突き出たクレーンが立っているのが見えた。そのトラス状の支柱は崖から3メートルほどの距離で、何とか飛び移れそうだった。
治郎は、崖の下から見えないように建物とは反対側に迂回しながら、そのクレーンの方へ走ったが、途中で、明らかに器物を破壊していると思われる大きな音が連続して聞こえてきた。どうやら、弘が中で戦っているようだった。
さらに走っていたら、建物の方から「ガシャーン!」とガラスが割れるような大きな音がしたので、一旦、建物の方に寄ってそちらを見た。
弘に投げ飛ばされたらしく、作業着の男が一人、割れて破片の散らばった窓の外でのびていた。
「・・・ったく、ちょっとハデにやり過ぎだろうが。あれじゃ、採石場全体に聞こえて、他の作業員がやって来るぞ」
少し怒った口調でそう言うと、走る速度を速め、治郎はクレーンのところにたどり着いた。
一旦、崖の反対側の端まで下がってから、助走をつけてそのクレーンに向かってジャンプし、クレーンの枠に取りつくと、素早く下へ降りて行った。
下に着いたのとほぼ同時に、改人が建物の壁を破って転がり出てきた。そして、その同じ穴から、お面ライダーの弘が素早く飛び出してきた。
「ばかめ!外に出ればこちらのものよ」
改人は、勝ち誇ったように弘に向かって言った。
「あれ?治郎、お前・・・」
改人越しに治郎の姿を認めた弘が、治郎に向かって言った。
「ちょうどいいものがあったから、これを伝って降りてきたよ」
治郎は、右手の親指で後ろのクレーンを指しながら言った。
「バカ!なんで来た!危ないから下がってろ!」
弘は、治郎に向かって怒鳴った。




